ワケあり13人目⑩
「えっと……それは、その……」
クラタン氏族に追われる理由。
それを問い質した時、ティミィはわかりやすく視線を泳がせ、ノルの影に隠れた。
この反応だけで、言い出しにくい理由なのは何となく察せる。
多分、子供たちに聞かせたくないような内容もあるのだろう。
「こっちでお姉ちゃんたちと遊ぼっか」
「獣人のすごさを見せてあげる」
俺の目配せに、双子は連携して子供たちを連れ出す。
目視範囲内にはいるが、大きな声を出さないと聞こえないくらいの距離だ。
兵士たちもそれとなく散開して、子供たちがはしゃいで動き回ってもいいように配置を変えている。
この辺りはさすがの一言で、リシアの調練手腕が凄まじい。
「言いにくいなら、無理に聞く気は無いが……他言はしないし、話してくれた方が俺は動きやすい」
現状で可能な限りの状況を作り、再度ティミィに問う。
今回の件が、どうして起きたのか。
「……えっと、クラタン氏族の支配は、もう嫌だ、と思って……」
少し吃りながらも、ティミィはぽつぽつと語り出した。
途切れ途切れの彼女の言葉を繋ぎ合わせていくと、現状の蜘蛛女族の現在の状況が垣間見えてくる。
要領を得ない話もあったが、要約すると、話はこうだ。
元来、狩猟などの戦闘に長ける代わりに、細かい作業の苦手な山の部族と、戦闘や荒事が苦手な代わりに、細かい作業の得意な森の部族。
2つの部族はお互いを補い合いながら暮らしてきたそうな。
ところが、ここ10年くらいで、武力に長けるクラタン氏族を中心とした山の部族たちが、森の部族を支配下に置こうという動きが見え出した。
他種族や他国にも人気のある森の部族の服飾品を売る事で外貨を得て、国へと税を納めて生計を立てている蜘蛛女族だが、戦う事のできる自分たちは種族としてより上位の存在なのだ、と山の部族はそう主張し始める。
外貨を得たり、税を納めるには森の部族の力が必要不可欠にも関わらず、山の部族は戦えない森の部族を見下し、自分たちが管理する、と先代のクラタン氏族の長が言い出したため、戦う力を持たない森の部族は、実質的な奴隷のような扱いをされてしまう。
幸い、食料は森の部族だけでもある程度は賄えたし、住居はそもそも自分たちで作るため、最初はそれほど実効的な影響は無かったそうな。
より具体的に森の部族が締め付けられるようになったのは、現在のクラタン氏族の長に代変わりしてからであり、より服飾による外貨の獲得を増やすよう過密労働を強いられるようになった。
そんな中、ティミィは森の氏族の中でも傑出した服飾の才があったために、人1倍働かされるようになってしまい、そんな日々に嫌気が差して、逃げ出すタイミングを伺う。
先日は逃げるための下調べをするべく、子供たちの引率という役割をカモフラージュにし、集落の周辺を調べ回っていたのだ。
気分転換も兼ねて送り出してくれた仲間たちに感謝しつつ、実際に逃げ出した時のシミュレーションをしながら周辺を調べるティミィだったが、部族全体のノルマとは別に個人ノルマをびっちりと課されているため、彼女をたまたま見つけたクラタン氏族は、烈火の如く怒り出す。
どうにか隙を突いて地面の中に退避したものの、それを察知したクラタン氏族に出入口を見張られ、身動きが取れなくなってしまった。
で、最終的に俺たちがノルからの頼みを聞いて、捜索に出たので外に出てこられた、という感じ。
「なるほどな……」
連合国からしてみたら、ある程度は税さえ納められるなら、こういった部族間のやり取りは関与しないだろう。
が、ここに俺が介入するとなると、内政干渉と取られる可能性もある。
ここは1つ、先にお伺いを立てるべきか。
ちょいちょい、と近くの兵士を1人呼ぶ。
「何か御用で?」
「ティミィたちを送り届けたら、5人くらいで連合国の中枢統制局に手紙を届けてほしい。で、返事を貰って帰ってきてくれ。ちょいと連合国にお伺いを立てた方が良さそうな気がしてな。人選は任せる」
「承知しました」
ちょっとばかし、見過ごせない状況になってしまった。
武力を背景に他人を強制支配するのは、ちょいといただけない。
場合によっては連合国そのものが動く可能性もあるが、その辺りは何とも言えないかな、といった所。
あくまで税を取れれば自治には口を出さないというスタンスの可能性もあるし。
中枢統制局に出す手紙は、今日中に仕上げておけばいいだろうし、明日の午前中にでも届けに出てもらおう。
「できれば、集落の方でも話を聞きたいな」
「んだら、ノルがウェイビーの族長と交渉するんだぁ。多分、大丈夫と思うんだぁ」
のんびりとした様子のノルだが、ここまでの彼女の顔の広さからして、俺は安心感に満ちている。
裏表も無さそうだし、ベースがのほほんとしているからか、どこか親しみを覚えやすいし。
「えっと、その……あなたは、何で、そこまで?」
おっかなびっくり、といった様相ではあるが、隠れているノルの身体から顔を出しつつ、ティミィがこちらの様子を伺っている。
「何で、か。まあ、色々と打算ありきではあるけど、それ以上に力で他人を理不尽に支配しようとする連中が気に入らないだけだ」
身分制度やら何やら、人には立場というものはついて回る。
それそのものは人の営み上しょうがないものだし、適切に運用されていれば問題は無い。
けど、立場が上だろうと下だろうと、そこに理不尽があってはならないと思う。
誰かが、あるいは一部が一方的に搾取するような関係性は健全じゃないし、あってはならないのだ。
誰にだって自由はある。
それを踏みにじるのは、やっちゃいけない。
今回の件は、種族内の自浄作用だけでは、恐らくどうにもならない段階まで来ているだろう。
だから、介入すると決めた。
「ま、これは俺のわがままみたいなもんだ。でも、安心してくれ。絶対に悪いようにはしないからさ」
不安そうなティミィを安心させるべく、俺は歯を見せて笑顔を浮かべるのだった。
人材発掘に来たらトラブルに首を突っ込むハイトくんの図。
そもそもメタい話をすると彼が動いている時点でトラブルが発生しないわけが無いというね……。
がんばれハイトくん。




