ワケあり13人目⑨
「心配しなくても、ノルはもう族長を見限ったんだぁ。これ以上こき使われる扱いにはうんざりなんだぁ。今は次の仕事先の人と一緒にいるけども、その人たちが周りの連中を片付けてくれたから、安全なんだぁ」
『本当……? それなら、今地上に出るから』
ノルの声掛けに応じて、地中に隠れていた蜘蛛女族が出てくるという。
個人的に仲が良かったのかは不明だが、ノルの信頼度すごいな。
「んん~……やっと地上に出られた……」
ノルが声をかけていた場所から少し下がると、地面が盛り上がり、その中から蜘蛛女族が出てくる。
うん、地属性の魔術だな。
大人、というよりは女性になる手前の少女、という感じ。
それから順番に幼い蜘蛛女族も出てきて、人数に欠けも無く5人が地上に出てきた。
パッと見では、特に健康状態に異常のある者はいなさそうだ。
「お外ー!」
「空気がおいしー!」
4人の子供たちは久々の地上に、キャッキャとはしゃいでいる。
多分、5歳とかそれくらいの子供たちだろう。
子供が子供らしくはしゃいでいるのは、見ていてほっこりするな。
「みんな元気そうなんだぁ。無事で良かったんだぁ」
「ノル、あなたが来てくれて助かった。あなたが来なかったら……」
少女が涙ぐむ。
どうやら、精神的にかなり追い詰められていたらしい。
ノルが彼女を抱き締めると、少女はそのままノルに身体を預けて泣いた。
「だいじょーぶ?」
「どこか痛い?」
そんな少女の様子に気付いた子供たちは、少女の元に集まり、彼女を心配するように寄り添う。
うん、優しい世界だ。
世界中の人が、こんな感じだったら戦争とかも起きないだろうに。
「大丈夫。大丈夫だから心配しないで」
ノルに慰められ、子供たちに寄り添われて、少女は比較的すぐに立ち直った。
落ち着いた頃合いを見計らって、ノルが俺に見えるよう手招きをしたので、少女たちを刺激しないよう、まずは俺とカトレス、クルスの3人だけが合流する事にして、隠れていた茂みから出て行く。
「ハイトだぁ。ノルの次の仕事先の代表だぁ」
ノルに紹介され、俺は軽く会釈をして優しく微笑む。
近くで見る少女は先ほどまで泣いていたせいか、目が少し腫れぼったいが、顔色も良く、健康そうだ。
肩口で切り揃えられた茶髪は緩く波打ち、少しクセがある。
特徴的なのは長い前髪だろうか。
完全に隠しきるほどではないものの、目を隠すように伸びる長い前髪は、どこか自分に自信が無いように見えるか。
「に、人間……? えっと、その、あり、がとう」
俺たちの姿を見て、少女は動揺しながらも礼を述べると、ススス、とノルの背後に隠れた。
あれ、もしかして俺怖い顔してる?
「ティミィは相変わらず恥ずかしがり屋なんだぁ。ハイト、心配せんくてもティミィはよく知らない人には大体こんなだぁ」
あ、なるほど。
人見知りしやすくてこれが平常運転なのね。
怖がらせたかと思って焦ったわ。
「えっと、ティミィ・ウェイビー……よろしく」
後ろの氏族名が違う辺り、どうやらクラタン氏族ではないらしい。
人魚族にも伝手があるって言ってたし、ノルってもしかしなくても同族にも顔が広いのか?
ノルに半分以上隠れながらだが、自己紹介をしてくれた辺り、少女改めティミィは一応こちらと交流しようという意思はあるようだ。
「ハイト・リベルヤだ。よろしく。君はウェイビ―氏族って事でいいのかな?」
口調が強くならない注意しつつ、確認の意味で彼女に問いかけてみると、肯定するように無言で頷く。
となると、子供たちもウェイビ―氏族か。
「ウェイビ―氏族は森の部族の代表みたいなもんでなぁ。クラタン氏族とは関わりが深いんだぁ」
山のクラタン、森のウェイビ―って感じか。
「人間さん、こっちのお姉ちゃんたちは大きなお耳と尻尾があるのはどうしてー?」
「どうしてー?」
俺たちの存在に興味を持ったのだろう子供たちが、カトレスとクルスに興味を示す。
獣人族は結構数がいるはずだけど、見た事が無さそうだ。
まだ幼いし、集落から出た事も無いくらいなのかもしれない。
そういや森の氏族は総じて警戒心が強いって言ってたし、他者との交流があまり無いのかもしれないな。
まあ、幼い子供に限ってはそれが当て嵌まらないみたいだけど。
「うちらは獣人族だからだよ! 狐の獣人族だから、耳もおっきいし、尻尾もふさふさなんだから!」
子供たちと目線を揃えるようにしてしゃがみ、カトレスが子供たちの頭を撫でる。
構ってもらえて嬉しいのか、子供たちはキャッキャと喜ぶ。
こうしてみると、カトレスは子供の扱いが上手いな。
「獣人族にとって耳と尻尾は大事な所だから、いきなり触ったりしちゃダメだからね?」
同じように子供たちと視線を合わせ、クルスが耳と尻尾はいきなり触るなと説明している。
うん、やっぱり真面目だな。
見た目は同じなのに、性格が全然違う双子だ。
2人とも子供の扱いは上手そうだが。
「ここに居続けてもだし、まずはこの場を離れよう。ティミィたちは集落の方に送ればいいか?」
この場で彼女たちと別れて、再度クラタン氏族に絡まれたらどうなるか、と思えば、集落付近までは護衛がてら連れて行ってあげるべきかな、と思う。
ノルがうちに来てくれるとなった時点で最低限の目標は達成してるし。
「んだなぁ。子供たちもいるし、ティミィもそれでどうだぁ?」
「あ、うん。大丈夫。むしろ、お願い」
慣れているからか、ノルと話す時はオドオドしないな。
まあ、俺は初対面で避けられていないだけ良しって所かね。
会話もノルを挟んで(物理)ならできるみたいだし。
まずはティミィと子供たちを集落まで送る事が決定したので、兵士たちと合流して移動を開始。
子供たちは案の定、兵士たちにも興味を持ち、あれこれと質問攻めにしたりしていたが、みんなキチンと子供たちと目線を合わせ、優しく対応している。
何なら子供たちにおやつをあげたりして、すっかりマスコット状態だ。
やんわりとティミィが注意したりもしていたが、やはり小さい子供たちは気ままにしているくらいでいいと思う。
さすがにやんちゃが過ぎるのは良くないが、別段問題のある行動をしているわけじゃないし、子供たちも楽しそうだしな。
「山と森の部族で全面戦争……なんて事にはならないよな?」
後方保護者面でみんなを見守りながら、俺は今後の行方について思案を巡らせる。
このままティミィと子供たちをウェイビ―氏族の集落まで送っていく。
そこまではいい。
その後は、俺たちの手から離れる事になるとは思うが……それからクラタン氏族と揉める可能性は全然あるだろう。
というか、何でティミィたちがクラタン氏族に追われていたのかもわからん。
今後の日程諸々を考えると、このまま知らない状態で素通りするのが一番ではあるのだが、いかんせん俺の直感はこのままスルーするべきではない、と囁いているのだ。
多分、首を突っ込んだら色々と面倒になりそうな予感もしているのだが。
何よりも、このまま何もしないでいると後悔する事になる気配がビンビンにする。
まあ、変に後悔するくらいなら、最初っから首を突っ込んで後から反省するくらいでいいだろうな。
「……ティミィ、何で君はクラタン氏族に追われていたんだ?」
いくばくかの思考の後、俺は意を決してティミィに問い掛けるのだった。




