ワケあり13人目⑦
「で? お前らは何が目的でアタイらのトコに来たんだ?」
族長の家に案内され、もてなしもそこそこに、本題だと族長が凄む。
実力の格付けは済ませたはずだが、そこには不退転の覚悟が見えた。
「クラタン氏族が蜘蛛女族の統括みたいな事をしていると聞いてな。俺の所で何人か、働いてもいいという人材がいたら欲しいと思って話を通しに来た。話を通さずに人攫いだなんだと難癖付けられても面倒だからな」
ここへ来た目的を明かすと同時に、先ほどの騒動に関して嫌味を混ぜておく。
すると、族長はうっ、と怯んだが、すぐに表情を引き締めてこちらを睨む。
「もちろん、無理強いはしないし、本人に合意を得ての話だ」
口八丁手八丁で丸め込むつもりだろ、と言われればある意味ではそうだが、別に相手に不利な条件を提示するつもりは無いし、そこはお互いにウィンウィンになるようにするつもりだ。
「……条件がある。攫われた仲間を探すのを手伝え。成果を上げれば交渉の許可を出す」
条件、ね。
それを言える立場かどうか、理解できてないのか。
「勘違いするなよ。俺はあくまで話は通しに来たが、交渉に来たわけじゃない。あくまで周知をしたかっただけだ。さっきも言ったが、勝手に人攫い扱いされるのも面倒だからな。協力を要請したいなら、それ相応の態度と交渉ってモンがあるだろう」
こっちは別にここにいる連中をしばいて出て行く事だってできるのだ。
必要じゃないから、そうしないだけである。
「そういう事だ。あとはこっちで勝手に動かさせてもらう」
とりあえず、適当に住人に声掛けをして回るかな。
基本的には戦闘民族らしいし、山の部族に服飾をやっている人たちがいるかどうかは不明だが。
「おい! 勝手に……」
族長がギャーギャーと騒いでいるが、俺はそんな彼女を後目に、集落内へと繰り出した。
適当に集落内の様子を見ながら、声をかけられそうな蜘蛛女族を探して歩く。
「いいの? 族長さんカンカンだよ?」
「いいんだよ。ああいう、全部自分の思い通りになると思ってそうなタイプは真面目に付き合うだけ無駄だ」
一緒についてきたカトレスがちらちらと後ろを振り返っているが、俺としては気にする必要の無い相手だ。
魔力も覚えたので、何かしようとすれば常駐させている感知魔術ですぐに動きがわかる。
ああいう自我の強いタイプは、マトモに取り合うといくらでも我儘を言い出しかねないし。
「お~い、ちょっと待ってほしいんだぁ」
なんのかんのとカトレスと話していると、ノルが俺たちを追ってきたようだ。
のんびりとした声とは裏腹に、素早い脚運びで駆け寄ってくる。
「ノルからもお願いだぁ。攫われたみんなを探してほしいんだぁ」
「探してもいいけど、手がかりが無いしな。そもそも族長があんなだし、こっちに協力してくれるとも思えない。協力する旨味も無いし、諦めてくれ」
薄情かな、と自分で思わないでもないが、事実上旨味が無いのは確かなのだ。
一応通すべき筋は通したし、この集落に拘る必要も無いし。
「見つけてくれたら、ノルがあんたらの所で働くよう、みんなに働きかけるんだぁ」
蜘蛛女族がどういう種族か詳しくないが、人間に対する恐れとかがあるようなら、同族からの説得は悪くないように思える。
しかし、何かもう1つくらい旨味が欲しいかな、とも思う。
「それだけじゃ動けないな。結局、俺たちが協力する旨味が少ない」
ちょっとだけ、こういう所は貴族らしさを出してしまっているかな、と思いつつも、遠征の期間もある。
あまり余計な事に首を突っ込んで帰りが遅くなりすぎるのも良くない。
シャルという完璧超人がリベルヤ家の屋台骨を支えているとはいえ、シャルに何かがあった際に色々とまずいのだ。
一応、俺やシャルがいなくても極力影響が出ないように、運営体制を調整しているものの、まだまだ時間がいる。
要するに、帰国時期がずらせるくらいのメリットがあれば、協力するのも吝かではないのだが。
「そうだな……ノル、人魚族に伝手はあるか? あるなら人探しを手伝ってもいい」
結局の所、人魚族とも1から関係を構築しなければならないので、その過程をいくらかでもすっ飛ばせるのなら、この近辺でいくらか日程をロスしても取り返せるか、あるいはお釣りが出る可能性すらある。
これに関してはダメで元々、という話もあるので、繋がりがあったらいいな、という程度だ。
「そんな事でええなら、いくらでも紹介するんだぁ」
意外や意外。
まさかの人魚族との関係があるという宣言に、俺は思わず細かく問い質してしまう。
ノル曰く、蜘蛛女族の作った服は様々な種族に人気であり、様々な取引先があるため、顔が結構広いのだとか。
なるほど、と納得すると同時に、蜘蛛女族の服飾作業の適性の高さに驚く。
「わかった。それなら攫われた人たちの捜索に手を貸そう。けど、直接族長とやり取りはしたくない。ノル、今わかってる情報を俺たちに持ってこれるか?」
あの族長とやり取りするのは骨が折れるし面倒くさい。
だったら、ノルを介して情報を抜けばいいのだが、問題は彼女が協力してくれるかどうかだ。
「う~ん……やってはみるんだぁ。ちょっとだけ時間がほしいんだぁ」
俺の提案に、ノルは少し渋い顔をしながらも、了承の意を示してくれた。
とはいえ、上手く進むかはわからない。
時間が欲しい、という事なので、少し待ちになるか。
その間に住民へ声掛けをしようかと考えてもいたが、よく考えてみるとあの族長の下にいる連中だ。
俺と気質が合わない可能性が割とある。
うん、ここは大人しくしておくべきだろう。
「……わかった。俺たちは目を付けられてるだろうし、大人しくしてる」
あまり大々的に動くと族長がこちらに攻撃的になる可能性もあるので、俺たちは一旦大人しくすべきだと判断し、とりあえずはノルに情報収集を任せる事に。
一緒に動いていたカトレスとクルスに目配せをすると、2人とも小さく頷いたので、族長の家の方に戻る。
すると、族長の家の外で所在無さげにしている兵士たちが目に入った。
「どうした?」
休んでていいと言い含めていたはず、と思って声をかけると、どうやら機嫌を損ねた族長に追い出されたらしい。
なるほど、随分と短気だ。
とはいえ、村から叩き出されていないのなら、適当にどこかのスペースで野営でもすればいいだろう。
「ノル、どこか空いている場所はあるか? どうも族長は俺たちが相当気に入らんらしいから、こっちで勝手に野営する」
「はぁ~……族長も大人げ無いんだぁ」
族長の対応に溜息を吐きながら、ノルは集落の外れにある空き地を教えてくれた。
どうやら、元は集落を作る際の資材置き場だったらしく、今は空白地帯となっているのだそう。
見通しもいいので、野営には持ってこいだ。
問題があるとするなら水場が無いくらいだが、水なんて俺が出せば済む話なので、障害たりえない。
まあ、とりあえずは族長側の様子を見つつノルが情報を持ってくるのを待とう。
そんな展望を脳内で描きながら、俺は野営準備に勤しむのだった。




