ワケあり13人目⑤
「クラタン氏族が殺気立っているという噂を聞いたんだけど、何か知っている事は?」
「最近、蜘蛛女族で人攫いに遭ったとこがあんだぁ。族長たちは犯人捜しに躍起になってるから、きっとそれだなぁ」
クラタン氏族が殺気立っている理由を、ダメ元で尋ねてみたら、思いの他すんなりとノルは口を割った。
どうにも警戒心が薄いというか、深く考えていなさそうなフシがあるが、まあ情報を得られるなら良しとしておくか。
「人攫い、ねえ。攫われた人物の特徴や人数は?」
「確か、子供たちとその時一緒にいた大人が数人攫われたって話だぁ。痕跡からして、そう遠くへは行ってないらしいけんども、ノルはそれ以上の事はわからねぇ。力になれなくてすまんなぁ」
子供たちと大人数人、という事は合わせて10人に満たないくらいの人数が攫われた、と考えるべきだろう。
手口は不明だが、ノル曰く痕跡等を見る限りではそう遠くに行ってはいないという事らしい。
「人攫いがあったのはいつだ?」
「ちょうど4日前だなぁ。ある程度方角を絞って探す範囲を広げていくか、もっと人数を入れて一気に探すかで今は揉めてる所だぁ」
経過日数からして、そう遠くへは行っていなさそうか。
話を聞く限りでは、発見からすぐに捜索はしてるみたいだし、犯人側も大胆な行動は取れないはず。
ふと、人攫いという案件からマジャンの存在が頭を過ったが、この件に関してはヤツは関係無いだろう、と直感めいた何かで否定する。
そう、ヤツならもっと周到かつ証拠になるような物を残さないはずだ。
俺たちの前に姿を現した時だって、俺が魔力量に物を言わせて解決できない方法で動きを封じてきたし。
そもそも、目撃者がいたら一緒に攫われるか消されるかしてるだろうしな。
人攫いが発覚しているという事は、証拠や目撃情報があるという事だ。
俺が現時点で考え付く内容は、蜘蛛女族の服飾能力に目を付けた貴族や領主なんかが攫った説、そもそも攫われたと思われている蜘蛛女族が自らの意思で姿を消した説、新種の魔物か何かに襲われた説、という辺り。
まあ、3つ目の説に関してはそもそも死人が出るような事態なので、そういった話が出てない時点で除外しても良さそうだが。
万が一、習性か何かで獲物を巣に持ち帰るような生態だった場合は、一応当て嵌まる。
「君が求めていた限定の菓子はこっちで提供するから、君の住んでいる所へ案内してくれないか?」
カトレスが買い占めたという菓子を手土産にすれば、話くらいは聞いてもらえるだろう、という打算でノルに問い掛けてみる。
ちらりと横目に嫌そうな表情をしているカトレスが映ったが、それは無視。
あいつ、多分後でこっそりつまみ食いするつもりだったな。
「ああ、そいつは助かるんだぁ。限定の菓子が手に入らないと聞いたら、族長がカンカンだからなぁ」
最初の様子はどこへやら、という感じでノルはとても嬉しそうな様子だ。
ともあれ、どっちにしても出発は明日になるので、今日はノルを同じ宿に泊め、予定通り明日の朝に出発する事にした。
…
……
………
「……結構足早いんだな」
翌朝。
俺たちは予定通り街を出て、ノル案内の元、蜘蛛女族の集落へと移動していた。
驚くべきはその移動速度で、俺たちは馬を走らせてこそいないものの、早足くらいの速度ではある。
そんな俺たちと同速度で、ノルは8本の脚を高速で動かして先頭を移動していく。
特に呼吸を荒げたりもしていないので、かなり移動速度が速いらしい。
これが蜘蛛女族にとって当たり前なのか、ノルが特殊なのかは判断が付かないが、仮に戦闘になる事を想定するのなら、見かけによらず速度がある、というのは念頭に置いておくべきだろう。
「限定菓子、楽しみにしてたのに……」
俺の近くにいるカトレスが、ぽつりと呟く。
「経費で落としてる物をつまみ食いしようとするからバチが当たったんだ」
「だって! 美味しそうだったんだもんっ!」
暗に公金横領になるぞ、と脅してみれば、カトレスはガルル、と威嚇するようにこちらを睨む。
「別に自腹切ってるなら文句は言わんけどな。ちゃんと給料は払ってるだろ?」
頼んだ買い物とは別に自分の分を自分で買うくらいは文句を言うつもりは無い。
わざわざ仕事中に持ち場や仕事を放り出して買い物をしているなら懲罰モノだが、ちゃんと買い物それそのものが仕事なら、ついでに自分の分を自腹で買うくらいは役得として黙認くらいする。
「その手があった!」
あちゃー、と今その事実に気付いた様子なのは、あまりにも即物的すぎんか?
まあ、割と欲望に忠実なのは知ってたけどさ。
「お姉ちゃん……」
クルスががジト目で姉を見ている。
どうやら、妹を出し抜いての買い物だったらしい。
緊張感が無いという話もあるが、変にガチガチになるよりはいいかな、といった所。
「無駄話はここまでだ。そろそろ着くぞ」
適当な会話をしているうちに山道に入ったので、そろそろ蜘蛛女族の集落に着くはずだ。
気を引き締めろ、と声をかけた瞬間、カトレスの表情が真剣なものとなる。
切り替えが早いね。
まあ、この調子でTPOを弁えてくれるなら、ある程度は目を瞑ってもいいか。
「ここがノルの住んでる村だぁ。ちょっと話を通してくるから待っててなぁ」
入口の所に、武装した蜘蛛女族がいるのが見えて、いくつか言葉を交わしてノルがそのまま村の中へ入って行った。
俺たちは、少し離れた場所で様子を伺う。
門番の蜘蛛女族はこちらをジッと見ており、強い警戒心が伺える。
「ま、とりあえずは少し待ちか」
こちらもいつでも動ける体勢を維持しつつ、ノルが戻るのを待つ。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
あとは事件が面倒じゃなきゃいいなあ。
そんな事を考えながら、俺は蜘蛛女族の動きを待つのだった。




