ワケあり12人目⑮
「とりあえず、現状で作れる物はこれで全部かな。設置は任せていいんだったね?」
「ああ、助かる。リリスさん、これよろしく」
「かしこまりました」
商人探しは一旦脇に置いて、アメシス主導の下、屋敷の警備体制を魔道具によって強化する作戦が、着々と進行していた。
ただ設置するだけの魔道具から、屋敷を大掛かりに工事するような仕組みのものまで、その設置は多岐に渡る。
おおよそ1週間がかりのその作業も、今日で終わりだ。
あとは設置型魔道具を設置すれば、屋敷の防備は今までの5倍くらいは固くなる(アメシス談)らしい。
設置型のものは、わざとわかりやすく設置して、裏稼業の連中に破壊させる事により警報を発生させるものから、巧妙に隠して侵入者の存在を感知するものまで様々。
ついでに魔術的な防備もアメシスの指導で新たに構築し直し、物理的にも魔術的にもかなり堅牢な守りを実現できたと思う。
「しかしリベルヤ家の戦力は優秀だね。結構な量の素材を、それも入手が面倒な物ばかりを要求したと思うけど、まさかこんなに早く集めてくるとは思わなかったよ」
「そこはリシアが騎士と兵士のいい訓練だって、嬉々として働いてくれたからな」
素材回収を依頼したリシアは、それはもう驚くべき早さで素材を揃えて見せた。
彼女の指揮能力と組織系統の構築力の優秀さが、遺憾なく発揮された形だ。
「これで当面は素材に困る事は無さそうだし、とりあえず掃除機と高圧洗浄機の納品の方も予定通り進むよ。むしろだいぶ前倒しできそうだ」
「そっちはまだ予定通りでいい。あまり実力を出しすぎると無駄に依頼が増えるからな。量産体制が整わないうちはトラブル対応できる余地を残すためにも、日程の余裕は多めに持っとけ」
当面で時間のかかりそうな事や、俺の手が必要そうな業務は、これであらかた片付いたと言えるだろう。
とりあえず、連合国へ向かいがてら、各領地の抜き打ち視察の日程を組んでいっても良さそうだ。
「りょ~かい。それじゃ、ワタシは作業に戻ろうかな。結構自由時間もできそうだから、他の魔道具も開発と試作を進めておくとするよ」
一通りの報告を終えて、アメシスは満足そうに執務室から引き上げていった。
このまま、作業室に戻るのだろう。
「シャル、あとは俺の手がかかりそうな案件は無いよな?」
アメシスが執務室を出てから、シャルに日程の確認を投げてみれば、彼女は無言でこくりと頷く。
「現状ではハイトさんが直接決裁、あるいは手をかける業務は無いですね。あとは、王城の方から危急の要件が出なければ、しばらくは王国を空けても問題無いでしょう」
「そればっかりは読めないから、勘定に入れてもしょうがないな。俺が外出している間に何かあったら、即伝令を走らせてもらうしかない。その辺りはリシアに頼めばどうとでもなるだろ」
「ですね。ある程度は私の方で手配して解決する事もできるでしょうから、その辺りはいつも通り、こちらで可能な限りは折衝を進めるようにしますので」
「いつも悪いな。シャルがいるおかげで安心して屋敷を空けられるよ」
「ハイトさんの留守を守るのが私の、正妻としての務めですので」
毎度の事ながら、シャルが頼りになりまくりである。
まさしく完全無欠のパーフェクト令嬢と言っても過言じゃないだろう。
「さて、それじゃ領地を回る順番を決めないとな。北側から回って南下しながら、最終的には連合国に入るルートになるけど」
「行きの荷物は増えますが、各地の代官たちに慰労の物資を運ぶのもいいかと。無難な、あるいは良い統治を行っている代官にはお酒などの嗜好品を贈呈すれば、人望も集まるでしょう」
シャルの提案も一理あるな。
村や町の規模にもよるが、案外代官の仕事というのは難しいものだ。
税収支の管理や陳情の対応、治安維持など仕事は多いし、基本的に休日は存在しない。
この辺りは交代で休みを取れるように、代官の数も増やしたい所ではあるが、今は候補を育成している途中なので、1人立ちできるようになるまでにはあと半年くらいはかかるだろう。
一応、代官の給金は俺の雇用方針によって、他の領よりだいぶいいので、基本的には職務に意欲的で問題無いという報告が上がってきているが、中にはエスメラルダの部下を欺けるような知恵者もいるかもしれない。
今回の件は、あくまで念のための視察で、基本的にはいつも頑張ってくれてありがとう、という慰労の巡回になる事を願いたいところだ。
「あとは現状のリベルヤ家の人員状況ですが、使用人やメイドの方は人数が余り始めているので、こちらは一旦募集を区切り、今は文官や医務官、職人などを集めています。兵士の方はおおよそ必要想定人数の7割に到達しましたが、伸びが鈍いので引き続き募集をかけつつ、今回のハイトさんの遠征でも良い人材がいれば集めて頂ければと思います。こちらに関しては少しくらい溢れても需要が大きいので、予備戦力として運用できますので」
「わかった。兵士と専門職系だな。いい人材が見つかったら確保しておく」
日程諸々、シャルと打ち合わせを進めていくうち、気付けば外が暗くなってきていた。
「打ち合わせとしてはこんな所でしょうか。あとは冒険者ギルドの方も話を進めておく必要がありますね」
言われてみれば、冒険者活動の方は最近忙しくて全然できてないな。
幸いというか何というか、Sランクに昇格はしたものの、俺の手が必要な事態はあまり起きていなくて、Sランクの依頼も気を遣われているのか、時間のかかるものは俺以外が担当する事が多い。
まあ、純粋な冒険者じゃなくて、貴族と2足のわらじだからしょうがないと言えばしょうがないのだが。
「明日にでもギルドに顔出ししておくよ。一応、暇してる時のカナエとジェーンはちょくちょく依頼に行かせるようにはしてたけど、たまには俺自身も行かないとな」
単純な討伐系の依頼なら、カナエとジェーンのリベルヤ家暴力装置2大巨頭を出せば解決するし、保険でオルフェさんを行かせれば怪我なんかの対策もバッチリなので、合間を見て依頼はこなしてもらっていた。
もっぱら、俺が活動するのは採取や運搬の難しい素材や、魔術しか効かないような特殊な対象がいる場合くらいだ。
それもここ数ヵ月は忙しくて冒険者活動をできていなかったので、ギルドの依頼状況とかは知らない。
もう、身体が分身できればいいのになー、と思わなくもないが、それはそれで脳の処理が追い付かなさそうな気がするので、一旦考えないでおく。
でも、魔術で身体を複製して云々、というのは色々と応用が効きそうではあるので、ちょっとした時間に新規魔術として開発をするのはアリだ。
俺のバカ魔力容量なら、消費魔力の多さに関しては基本的に気にしなくていいし。
魔術式の方はまあ、ベースを組まないとそもそも話にならんから、まずは構成要素の洗い出しからしないといけなくて……。
「……ハッ、いかんいかん。今はこれ考えてる時間じゃない」
「また何か思い付きましたか?」
俺が勝手に思考を横道へ逸らしていたのに気付いたのか、シャルがクスクスと笑う。
「まだ机上の空論だけど、実用化できたら便利そうな魔術をちょいとな。それよりも、そろそろメシに行こう。このままだといい加減晩メシを食いっぱぐれちまう」
「そうですね。私もそろそろ夕食に行きましょうと声掛けしようと思ってました」
ふう、危ない危ない。
集中すると色々疎かになるのは俺の悪い癖だ。
これで足元を掬われたら目も当てられないので、もっと自分を戒めておかないと。
これから連合国遠征もある事だしな。
また1つ自省の項目を見つけて、俺は自分自身を戒めつつ晩メシを食いに食堂へと向かうのだった。
ちょっと短めですが、今回でワケあり12人目は終了します。
今回のワケあり人物は、皆様予想できましたでしょうか?
次回から、ワケあり13人目が始まりますので、次にリベルヤ家に加入する新たな人物にご期待下さい。
あるいは、予想してみて下さい。




