ワケあり12人目⑭
「で、私の伝手を頼ってきた、と」
午前中に頑張って執務の目標ラインを終わらせ、午後から街に繰り出した俺は、連れて来たエスメラルダに移動しながら事の経緯を説明していた。
諸々の理由で徒歩での移動をしているため、時間は充分にあり、商業区に入るまでに事情の説明は済んだ。
「正規じゃないにしても、エスメラルダなら何かしら知らないかと思ってな」
「私の知る伝手は、基本的に脛に傷ありばかりよ? 真っ当な商人の伝手なんて、表で有名な所くらいしか知らないわ」
まあ、司法取引という手段もあるので、別に脛に傷ありでもリベルヤ家に忠誠を誓ってくれるなら問題無い。
あまりにも違法行為のレベルが高すぎるのは勘弁だが。
「それでもいい。ある程度は侯爵家の力でどうにかできるし、実力があって信用の置ける人物なら大丈夫だ」
エスメラルダが今も付き合いを維持している、という事は真っ黒な相手ではないはずだしな。
昔の暗殺者稼業をしていた頃ならいざ知らず、今は正義側の立場ではあるし。
「そういう事ならいくらかの伝手はあるわ。必要なら、遠方から呼び寄せる事もできなくはないかもしれないけれど、そういう相手は提示する報酬や条件次第でしょうね」
最悪は相互利益のみの付き合いだって問題無い。
お互いに利益があるうちはお互いを裏切らないはずだし。
できれば信頼関係を結んでおきたさはあるけども。
「とりあえず今日は個人商人を色々訪ね歩くから、俺がいいと思った人物は後で裏付けを取っておいてくれ。あとは尋ねる前に情報があるなら教えてほしい」
「わかったわ。王都の個人商人はそこまで細かい調査はしてないから、こっちで把握してるのは、基本的な評判くらいね。それも、ある程度は名が売れてる人だけ。零細の個人商人は全く情報が無いわ」
「了解。そんじゃわからん相手は裏付けを取りに行きやすいように適当に見ておいてくれ」
多分、エスメラルダ本人が行くにしろ、部下に行かせるにしろ、住所やら何やらの情報は必要だろうし。
どこまでの調査を入れるかは、いつも通りエスメラルダに任せておけば問題無いだろう。
今まで彼女の諜報仕事は正確かつミスも無かったからな。
…
……
………
「……で、めぼしい商人はいたかしら?」
夕方少し手前くらいの時間になって、小休憩として商業区の屋台で売っていた焼き菓子を片手に、ベンチで休憩していた俺に、エスメラルダが声をかけてきた。
まあ、これに関しては答えが決まっているのだが。
「全くいないな。何だかんだシャルですら難航してたみたいだから、簡単に見つかるとは思ってなかったけど、まさか引っ掛かる人物ゼロは予想外だった」
ちょっとだけ裕福な小貴族っぽい感じで、エスメラルダを付き人にした体で商人を訪ね歩いたのだが、まあビックリするほどいい人材が見当たらない。
仮に新興の個人商人でも、最終的に育つ事を期待できる相手がいるなら、それでも良かったのだが、ビックリするほど鑑定をするたびに真顔になるのを我慢しなければいけなかったくらいだ。
なかなか上手くいかないものである。
「でしょうね。それだけ商人が大成するのは難しいものなのよ。それでも、挑戦する人が多いのは、成功した時の夢の大きさがあるからでしょうね……あら、美味しいわねこれ」
焼き菓子を口にしたエスメラルダの反応を見て、俺も思わず焼き菓子を口に運ぶ。
包み紙の中にあるスティック状の焼き菓子だが、端の方を齧ってみれば、サクリと軽い食感に芳醇なバターの香りが広がる。
パイスティック、が近いだろうか?
甘さは程よくてくどさが無く、屋台にしてはかなり腕があるように思えるな。
それこそ、貴族家で専属をやっててもおかしくなさそうなくらいには。
「……某に何か?」
近くにある屋台の店主を眺めてみると、かなり日本人然とした少女だ。
俺が見ていたのに気付いて、小首を傾げている。
身長はそれほど高くなく、多分160センチも無いくらいだろう。
長い黒髪は調理の邪魔にならないよう1本に束ねられており、白い三角巾で髪が落ちるのを防いでいる。
服装は大きなエプロンに隠れて目立たないが、和装に近いもので、それもまた日本人感を加速させていた。
「いや、屋台にしてはずいぶんと美味しいから、ちょっと気になっただけだ」
「そういう事であれば、素直に礼を言おう」
俺が菓子の出来がいい事を褒めると、屋台の少女はぺこりとこちらに頭を下げる。
こういう所はすごく日本人っぽい。
あと、言葉遣いがすごくリシアと似てるな。
またはキャラ被りとも言う。
「で、結局どうするの?」
「とりあえず、エスメラルダの方で連絡取れるやつはなるべく当たってくれ。承諾するかどうかは二の次でいい」
「了解。まあ、あまり期待はしないでちょうだい。裏の人間は色々と気難しい人も多いから」
一応まだ時間はあるが、今日の商人巡りは切り上げる事にした。
正直、実入りが悪すぎる。
奴隷から探すという手も無くはないが……奴隷落ちしている商人は事業に失敗して、返せない借金を抱えている事が殆ど。
つまり、商人としての実力が怪しいやつという事だ。
まあ、中にはやむを得ない事情で奴隷落ちしてしまった人もいるんだろうけども。
「お得意の奴隷探しはしないのかしら?」
「今回はなあ……期待値が低すぎる」
いざとなれば奴隷巡りもするけど、最終手段だなあという感じ。
本当に最終手段。
今回は最終手段に頼りたくないなあ……。
何だか厄ネタ生えてきそうな気がする。
いやまあ、俺が拾わなくても陛下とかから厄ネタ提供される可能性もあるけどさ。
「そう。それなら今日は引き上げましょう。それとも、買い物でもする?」
「時間浮いた分でデートしてもいいぞ?」
ちょっとだけ冗談でデートでもするかと言ってみたら、エスメラルダには鼻で笑われた。
こいつ、子供扱いしやがって……!
実際子供だけど!
「せめて成人したら考えてあげるわ。それと、私は高いわよ?」
「そこは侯爵家の財力があるから心配すんな」
実際金だけはあるから、財力の心配はいらない。
よほど浪費するカスが相手でさえなければ。
その辺りエスメラルダはそういうタイプではなさそう。
単純に長生きだからグルメというか、舌が肥えていそうではあるけど。
……って何で俺はしれっとエスメラルダを口説こうとしてるんだ?
「まあ、冗談だ。とっとと帰るぞ」
咄嗟に冗談だと誤魔化し、俺は帰路につく。
後ろからエスメラルダの足音が聞こえるが、特に茶化してくるでもなく、黙ってついてきている辺り、とりあえずは誤魔化せたっぽいかな。
うーん、ハーレム作る事にはなってるけど、ある程度肯定的に考えるようになったせいか、しれっと口説くような言動をするのは良くない。
一旦、気持ちを引き締めないといけないな、と自分を戒めつつ、俺は屋敷へ帰るのだった。




