ワケあり12人目⑫
「ハイト、来てくれてありがとう」
王城へアメシスの魔道具の特許登録をした翌日。
俺はアメシスに呼び出されて作業場に顔を出した。
呼び出しの本人は、作業等はしておらず、俺を出迎えて2階の会議室の方へ移動。
普段なら魔道具関係の話はそのまま作業場で済ますので、それ以外の話題という事だろう。
「話の内容は知らないけど、わざわざ名指しで呼ばれればどんなに忙しくても来るさ。後回しにして大問題になる方が面倒だし」
細かい問題とかを放置した結果、大問題に発展するなんてのは企業あるあるだ。
貴族家も言うなれば1つの企業みたいなものだし、問題は小まめに潰しておくに限る。
「はは、腰が重くないのはいい事さ。少し長くなるかもしれないし、大したものじゃないけどお茶でも淹れようか」
会議の時に適当に飲み物を用意できるよう、会議室にはお茶などの飲み物と台所があるので、アメシスが適当にお茶を淹れてくれた。
わざわざ飲み物を用意する辺り、腰を据えてじっくりと話し合うべき内容なのだろう。
「で、結局話って何だ?」
お茶を用意し終えたアメシスが対面に座るのを待ってから、俺は内容を尋ねる。
事前に内容を知らされているわけでもないため、推測もできないのだ。
「平たく言えば今後の事について、かな。屋敷の防犯とか、シャルロットの守りとか、ね」
今後の事について。
なるほど、確かに言われてみれば考えるべき部分のある内容だ。
屋敷の防犯については、警備兵を主に魔術による防犯を加えているが、万全の警備体制かと言えば、まだ穴はある。
一応、俺の魔術でも守りは固めているが、あくまで対魔術による防御を想定しているので、物理的な侵入者には意味を成さない。
そういう意味では改良の余地は多いにあるな。
「前者については魔道具でだいぶ対策できる。君の規格外の魔力を込められる素材さえあれば、王城だって目じゃないくらいのものがね。あとは警備兵を加えればまず侵入なんてできやしない。問題は、戦う力の無いシャルロットの守りだ。一応、ある程度の魔道具は持たせているみたいだけど、今のままじゃ少し心許ないと言わざるを得ない。ワタシはいくらでも魔術式を改良するし、組み込むけれど、素材の加工において専門的な物はさすがに無理がある。元より、並どころか大抵の魔道具師よりも触れる素材の範囲は広いと自負しているけれど、宝石や金属、服飾といった分野はさすがに専門家には敵わないからね。幸い、レイネスタがいるから金属に関しては目途が付くけど、それ以外の専門家はなるべく早急に集めるべきだ」
アメシスからの指摘はごもっともだ。
とはいえ、シャルに持たせている魔道具は結構いい値段のするものばかりで、王国内で入手できる範囲では最高の物を揃えた。
が、アメシスほどの魔道具師からすれば、それでも心許ないというレベルらしい。
どのみち、生産部には専門家を集めるつもりではあったので、遅かれ早かれではあったとは思うが、彼女の助言に従うのなら、生産部の専門家集めを急ぐべきなのかもしれないな。
「なるほど、言いたい事はわかった。ちなみに、何かアメシスに伝手はあるか?」
彼女ほどの魔道具師であれば、知り合いに腕のいい専門家がいそうなものだ、と問うてみれば、アメシスはそっと目線を反らした。
「……この通り、今は真面目に働いているけどね。奴隷になる前は比較的傲慢で社交性に乏しかったんだよ、ワタシは。どうせ自分より優れた職人なんていないと真面目に思っていたくらいだ。期待に応える事ができなくて、申し訳ない」
俺の問いに対して無力だったのが応えたのか、アメシスは頭を下げたまま俯いてしまう。
別に落ち込ませるつもりは無かったんだけどなあ……。
「なるほど。まあ、遅かれ早かれ生産部の専門家は増やすつもりだったし、優先度が変わるだけ……そうだ、聞き方を変えよう。多種族の集まる連合国出身のアメシスなら、宝石とか服飾とか、そういうのが得意な種族にもいくらか詳しいんじゃないか?」
王国は特に人間以外の種族を差別してるわけでもないし、拒否もしていないが、特別何かをしているわけでもない。
だから人口の8~9割は人間だ。
それ以外の種族は多分2割に満たない気がする。
もしかすると、1割もいないかもしれない。
その辺りはシャルにでも聞けばわかるかもしれないが、王都を歩いて人間以外の種族を見る割合はさほど多くないので、あながち俺の体感も間違ってないと思うが。
実際、王都でドワーフや獣人はまだ見かけるが、それ以外の種族はかなり少ない。
エルフもたまにいるが、それくらいだ。
半人族なんてまず見かけないし。
「ん……と、ハイトは多種族に忌避感は無いのかな? 亜人族はまだしも、半人族なんかは忌避感を覚える人間も多いと聞くけど」
アメシスに対する問い掛け方を変えてみた所、彼女は気を取り直して考える素振りをしてから、真っ直ぐに俺の目を見た。
その視線には、真摯に多種族への含みがないかを問う色がある。
「俺自身には無いな。何なら魔生物だって仲間に迎え入れるぞ。言葉が通じて意思疎通が取れるなら、見た目なんてどうでもいい」
優秀ならなお良し、という所かね。
「……なるほど、君の考え方は理解した。それなら、連合国の山や森に住む蜘蛛女族が服飾関係に強い。あとは海に住む人魚族は海産系の宝飾に強いから、ここも欲しいね。鉱物系の宝飾に関しては、宝石人がいれば間違い無いけど……存在そのものが幻みたいなものだし、まあこれは忘れてもらってもいいかな」
宝石人、というのは耳慣れないが、存在そのものは知識として知っている。
なんでも、人間の身体のどこかに宝石が埋め込まれるような形で生まれ、それが自然な形らしい。
身体の宝石は成長と共に大きくなり、死んだらその宝石を家族が形見として保管するという習慣があるそうな。
昔は結構人口も多かったみたいだけど、その身体の宝石目当てに他種族(主に人間)から乱獲されて数を減らし、今となっては存在そのものが幻と言われている。
とはいえ、絶滅したというわけでもなく、極稀に目撃情報が出る事があるくらいだ。
目撃情報の頻度もウン百年に1回とからしいけど。
宝石の性質なのかわからないけど、エルフ族や吸血鬼族に負けず劣らずのご長寿らしいから、もしかすると繁殖力が低いのかもしれない。
「なるほど、とりあえず蜘蛛女族と人魚族だな。シャルの身の安全に関わる事と言われると、さすがに優先しないわけにもいかないか。よし、近いうちに人材探しも兼ねて連合国にまた行ってくるかね。幸い、連合国は無限通行証のおかげで出入りしやすいし」
「そうするといい。中枢統制局を頼ってもいいし、君の勘に従うのもいい。とはいえ、君の仕事が国を空けても大丈夫かどうかによるけどね」
現在の仕事は、俺がいないと回らないものはほとんど無いかな?
特許関連は先んじて手続きしたし、通常の領地の業務は基本的にラウンズから王都屋敷に送られてくるから大丈夫だし、各地の代官の方も安定している。
まあ、連合国に行くついでに領地の各代官を抜き打ち視察で見て回ってもいいかもな。
一応、各地にエスメラルダの手の者を付けて不正とかは厳しく監視してるけど、気を引き締める意味でもたまには抜き打ち視察もアリだろう。
これなら、そういう方向性で企画をシャルに出して承認が貰えれば大丈夫なはず。
まあ、期間をどれくらい取れるかわからんけど。
「ま、そこは何とかするさ。とりあえず、アメシスが懸念してる事に関してはシャルにも相談して早急に手を打つ。それと、これはついでになるけど、俺がいない間の掃除機と高圧洗浄機の生産計画について……」
一応、現在の発注数とか納期については機能のうちにアメシスに通達していたが、今回の件で屋敷の防犯用魔道具についても平行で進めてもらう事になる。
むしろ防犯や守りの魔道具を最優先にしたっていいくらいだ。
細部を詰めておく必要があったので、俺とアメシスは茶で時折喉を潤しながら、長時間話し合いを続けるのだった。
まだワケあり12人目は終わりませんが、次回の舞台は連合国に内定しました。
また連合国かよ、って言わないですよね……?




