ワケあり12人目⑪
「これはまた、とんでもないものを作ったものだな……」
掃除機と高圧洗浄機の正規品が完成し、王城へと納入に向かったところ、陛下と宰相が待っていた。
宰相はともかく、陛下は興味本位だろうけど。
「陛下、こんな所で油売ってていいんですか?」
会議室という閉鎖空間なので、俺はいつも通りにツッコミを入れてしまう。
事前に書類は提出していたし、今日は実物を納入して動かして見せるだけなんだよな。
「お前が新しい魔道具の特許申請手続きをしていると聞いて、気にならぬ方がおかしいわ。一応先に書面の提出は済ませていたようだが、2つとも掃除に使う道具らしいな?」
「ったく……そっちの仕事が滞ると、お前の嫁や文官から文句言われんの俺なんだからな?」
興味津々なのを隠そうとしない陛下に、そんな陛下をジト目で見るレマイア宰相。
中間管理職として苦労していそうな宰相の図に、俺は内心でお疲れ様です、と合掌しておく。
「少しだけだ。見物したら執務に戻るとも」
当然と言うべきか、陛下は居座る宣言をしたので、これはとっとと実演を見せて満足させた方が宰相たちの時間的損害も少なくて済む事だろう。
「では、実際に使って見せましょう。今回は変化を分かりやすくするためにわざとこうして砂を撒きます」
掃除機の実演をする前に、俺は会議室の床に砂を撒いて変化をわかりやすくする。
別に適当に動かしたっていいんだけど、細かいゴミよりは大き目のゴミの方が見た目にわかりやすいだろうし。
「で、こちらの掃除機のスイッチを入れて、こうして床を這わせれば……」
スイッチを入れた掃除機が音を上げて稼働し始め、ヘッドを床に滑らせると、掃除機のヘッドが通った場所だけ砂が綺麗に吸い込まれ、綺麗な床面が顔を出す。
そのまま撒いた砂が全て無くなるまで掃除機を動かし、綺麗にしてからスイッチを切る。
「掃除が終わったらスイッチを切って、ゴミはここに」
スティックタイプの掃除機なので、本体に取り付けられているゴミ受けを外して見せると、陛下と宰相は目を丸くした。
ゴミ受け内部に溜まっているゴミの様子を見て、驚いたようだ。
砂が底の方に溜まっていて、上の方には細かいホコリが積もっている。
「ゴミ受けのゴミが規程以上に溜まると、自動的に動作を停止するようになっています。他にも……」
先に提出した説明書に書かれている事ではあるのだが、実際に動かしながら見せてみると衝撃ではあったのだろう。
陛下も宰相も口をあんぐりと開けたまま、俺の実演に見入っていた。
同じ要領で高圧洗浄機の方も動かして見せれば、これまた2人は無言で見入っている。
「こんな所ですが、いかがでしょうか?」
実演を終えて、感想を聞いてみれば、2人ともまさに声も出ない、という様子。
まあ、無理も無いと言えばそうなんだろうけども。
「これは城のメイドや使用人が喜ぶであろうな」
「ああ。こりゃとんでもねえ。先んじて特許を取りに来た理由もわかるってもんだ」
俺が世に出す前に特許申請をした理由も理解してもらえたようで何よりだ。
まあ、素材と加工費の関係でお値段は1台当たりまあまあお高いんだけど。
具体的には平民にはちょっと手が届かないレベルで、下級貴族もちょっとだけ導入を躊躇う程度にはお高い。
「まだ量産体制は整っていないので、しばらくは個別注文を聞いて細々と販売する形になります。なので、数を揃えるのにはある程度時間がかかりますね。何せうちの魔道具師が1つずつ手作業で仕上げないといけないので」
「ふむ、だからこその値段設定というわけだな」
「これだけのモンを手作業でとなると、しょうがねえわな。むしろ、なるべく費用を抑えられるトコは抑えてるくらいだ」
お値段の方も納得してもらえたようで、2人はしきりに頷いている。
「王城に供出するのはどちらも5台という話であったな。追加発注は今からしても?」
「あ、ずるいぞ。俺だって屋敷の清掃用に導入してえってのに!」
「お二人とも、落ち着いて下さい。ちゃんと注文は受付しますから。先に供出している分があるので、陛下の方は一旦後回しで、宰相の発注を先に受けます」
早速、買い手が付いて収入ゲットが確定したので、俺の内心はホクホクだ。
アメシスは少し忙しいかもしれないが、そもそも最初はすぐに注文が増えるという事は無いだろう。
王家や宰相家で実際に使用された上で、口コミが広まった段階からが本番になる。
「お、いいねえ。助かる。とりあえず、両方とも5台ずつ発注させてくれや」
「掃除機と高圧洗浄機5台ずつですね。ありがとうございます。定期整備と追加機能のご案内もありますよ」
「整備もやってくれんのは助かるぜ。うちにも魔道具師はいるが、やっぱ作ったヤツがやった方が間違いねえしな」
「日常の整備に関しては使用者の方でやって頂く必要があります。あくまで数年に1回の整備というだけですよ」
「それでも定期的に見てもらえるならありがてえ話だ」
商談が成立し、この場で宰相と契約書を交わす。
ついでに王城の追加分という事で陛下の分も注文を受けた。
まあ、陛下の分は先に供出した物があるので後回しになるのだが。
「今日は有意義な時を過ごさせてもらったな」
「それは良かったです。そろそろ執務の方に戻ってくださいね?」
満足いくまで掃除機と高圧洗浄機の見物した陛下は、満足そうに頬を緩ませていたが、唐突に背後から聞こえた王妃様の声に、ギギギ、という音がしそうな壊れたおもちゃのごとく振り返る。
陛下の背後に、影の装束を纏った王妃様が佇んでおり、存在するだけで相当な圧が。
多分、黒いヴェールの下では目の笑っていない微笑みを浮かべている事だろう。
「よう、来たかイライザ。とっととこの放蕩王を連れ帰ってくれ」
「レマイア宰相、うちの夫がいつもご迷惑を」
「いいって事よ。適度にガス抜きさせねえと、そのうち本気で抜け出して面倒になっからな」
「おのれジャン! 裏切りおったなー!」
「おう、いいから仕事に戻れー」
王妃様に襟を掴まれ、ずるずると引き摺られていく陛下を見送って、再度宰相と契約の最終確認をしてから、俺は王城を後にした。
後で聞いた話だが、この日陛下は相当な残業をするハメになったそうな。
うん、自業自得というやつだ。
俺もこれから先、仕事が増えるだろうから、同じ轍を踏まないようにしないとな。




