ワケあり12人目⑩
「これはまた随分と気合入った施設だな……」
アメシスがうちに来てから早1ヶ月。
新たな鍛冶場と生産部研究室が隣り合うよう併設され、その近くに素材保管庫も新設された。
今までは小屋程度だった鍛冶場も、今や立派な平屋の家である。
炉も新たに4基が増設され、同時に5基の炉が同時稼働できるように。
さらには内部に防音加工とエアコンの試作品が取り付けられたため、5基の炉が同時稼働していてもかなり暑さが軽減された。
レイネスタを始めとする職人たちからの評判も良く、試作品といえどエアコンは成功と言っていいだろう。
生産部研究室も2階建ての一軒家で、1階部分には作業用の高耐久の部屋、2階部分には会議や休憩に使えるスペースを作ってある。
なお、ベッド等は設置していない。
何故かというと、ベッドなんて設置しようものなら、アメシスが住み着く事が目に見えていたからだ。
生産部研究室の方に入ると、既に1階の作業部屋で何かの部品を加工しているアメシスの姿があった。
「掃除用具の方は概ね好評だ。細かい調整だけで正式品に移行できる」
「オーケー。調整の内容は?」
「紙に纏めてある。調整が終わったら王城にいくらか供出して、特許を貰う。下手な模倣品を許してトラブルになるのも面倒だからな」
後ろから声をかけてみれば、驚く事も無く、彼女は必要な内容を聞き返してくる。
先に制作を進めていた掃除機・高圧洗浄機の方も1ヶ月の間に問題点などが洗い出され、細かい修正を行うのみ。
ちなみに、清掃作業がものすごく効率的になったとリリスさんからの太鼓判が押されている。
王城に供出して特許の手続きをしたりと、俺が関わる部分もかなりあるので、ここ数日は書類作成等であれこれと忙しく動き回っていたが、ようやくその忙しさが結実しそう、というわけだ。
ちなみに、面談であれこれと事情を語った後のアメシスは、今までの行動が嘘のように真面目に仕事に取り組むようになった。
仕事中は酒を呑む事を辞め、真面目な研究者として日夜仕事を進めている。
とはいえ、お酒そのものは好きなようで、仕事上がりの夕食時なんかは酒を呑んでいる事が多い。
別に問題を起こさなければ業務時間外の飲酒などは禁じていないので、その辺りは上手い事やってくれればいいかなと思う。
「エアコンの試作品も概ね正常稼働しているし、いい感じだね」
鍛冶場に取り付けた試作品のエアコンは、室内機と室外機を分けたものでなく、一体型の大きな物を2台取り付ける形にしている。
それぞれ西と東で半分ずつを冷やす形だ。
しかし、一体型となった事でかなり大型化してしまったので、アメシスはその辺りの調整を考えているようだ。
「うん、このくらいの調整ならすぐ終わる。それと、高圧洗浄機の要望に含まれてる熱湯か蒸気を出すようにする、っていう機能は内蔵じゃなきゃダメ?」
手元のメモに何かしら書き付けながら、アメシスは掃除機と高圧洗浄機の改善を纏めた紙に目を通している。
そこにあった熱湯か蒸気の放出機能については、主に厨房の油汚れに関するものだ。
この辺りが上手くできれば、食器洗浄機も作れそうだな、と思って俺が付け足した。
「難しいか?」
これで熱湯か蒸気を出せるようになれば、頑固な油汚れも一瞬で落ちるようになるのだが。
実際、要望にも油汚れにはいくらか手こずると意見が書かれていたし。
「ん~、別に機能として付ける分には難しくないけど、新しく付けるには今の魔術式を書き直す必要があるし、常時使いたい機能ってわけでもないでしょ? だったら、外付けの部品にして拡張機能にした方が良さそうかなって。そしたら別売りで利益も見込めるし、そもそもの生産コストも下げられるからね」
冷静なアメシスの意見を聞いて、俺はなるほど、と納得させられてしまった。
あくまでベースの高圧洗浄機は必要機能のみに絞り、生産性と整備性などのコストを下げる。
他に必要な機能があれば、外付けのパーツで補う形式にする事で、導入する場所ごとの目的に合ったカスタムができて、拡張パーツの売れ行きも見込めると。
今現在は、アメシスしか制作ができない事に目を瞑れば、かなりアリだ。
「とりあえずアメシスの意見通りに進めるとして、量産はどうする?」
「どのみち価格を考えたら貴族とか豪商くらいしか導入できないだろうしね~。最初は忙しいと思うけど、ワタシが全部手作業でやるよ。無茶なスケジュールじゃなければそれで賄えるだろうし。それに、生産部の方にも人員を増やしてくれるんだろう?」
「ああ。なるべく早く手配する」
「それじゃあ、それでいけばいい。生産部の人員強化が進めば作業も分業できるだろうし、それまではしばらく頑張るよ」
一時的とはいえ、アメシスに負担がかかる事は申し訳ないが、あちこち人員が足りていない弊害が出たな。
今現在、レイネスタも似た状況だし、人が入ってある程度育つまでは頑張ってもらうしかないか。
まあ、いざとなれば俺が手伝える所は手伝えばいいだろう。
「王城へ渡す分の製品は……とりあえず1週間くらい欲しいかな。それだけあれば試作品も併せて全部改良できるはずだから」
「わかった。でも、無理はするなよ。元々1年くらいはかかるつもりで計画してた事だから、多少遅くなったって問題無い」
どちらかと言うと、だいぶ計画が前倒しになった事で俺は忙しくなった、という事なのだが。
「りょ~かい。とはいえ、ワタシもすぐに次の試作品やエアコン改良の方に手をかけたいからね。ぼちぼち頑張るとするよ」
「任せた。それと、完成まででいいから、1部だけ説明書と設計図の正式版を作ってくれ。1部だけ作ってくれればこっちで複製する」
「あ~、提出用だね。わかった」
今はアメシスが1人で広い作業部屋を使っているが、生産部の人員が増えればここも賑やかになる事だろう。
そういや、制服なんかもあった方がいいかもな。
必要なのは生産部の制服と、白衣辺りかね。
その方が、色々と便利だろう。
鍛冶場の面々もその方が外に出る時に所属を確認しやすい。
これはシャルに掛け合っておかないと。
多分、却下される事は無いだろうけど。
それで言うなら、リシアの方で編成してる騎士団も正式装備を作らないと。
確かもうじきレイネスタの方の農具作成の納期が終わるし、そしたらいくらか手が空くはずだ。
「……平和であればそれはそれで忙しいな。まあ、こういう忙しさなら、悪くないか」
今後のリベルヤ家の発展に関わる業務は途切れる事が無い。
しかし、将来的な事を考えるのなら、ここで頑張れば未来の子孫たちに楽をさせられるはずだ。
いつかできるであろう子供たちのためにも、ここが踏ん張りどころ、と気合いを入れ、俺は貴族家当主としての仕事に邁進するのだった。




