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ワケあり奴隷を助けていたら知らない間に一大勢力とハーレムを築いていた件  作者: 黒白鍵


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幕間 シャルロットの華麗ならざる日常

本日唐突に降って湧いたネタで2回目の更新です。

「今日もいい朝です」


 シャルロット・シヴィリアン。

 リアムルド王国で今をときめくハイト・リベルヤ侯爵の正妻。

 王から下される特務などで家を空ける事の多い侯爵に代わり、政治面や執務の多くの裁量権を持たされている。

 そんな彼女の朝は、とても早い。

 使用人たちの朝礼が始まる午前5時より前、4時には起床。


「おはようございます。シャルロット様」


 そんな彼女の身支度を手伝うのは、リベルヤ家使用人の頂点であり、家令としての裁量も持たされている侍女長のリリス。

 リリスはシャルロットよりもさらに早く起きているのだが、それはまた別の話。

 ともあれ、リリスによって手早く身支度を整え、簡素な普段着のドレス――これだけでも平民の数ヵ月分の給料くらいする――に着替えると、リリスと共に使用人の朝礼へ向かう。


「本日も美しいですね。白いドレスに金髪が映えております」


「ありがとうございます。今日も1日頑張りましょう」


 朝礼の2人の決まったやり取り。

 リリスがシャルロットを美しいと称える語彙は毎日変わるが、シャルロットの返事は変わらない。


「それでは、朝礼を始めます。本日は特殊な予定や連絡事項はありませんが、何か報告や引継ぎはありますか?」


 使用人たちの中でも、部門ごとの長が集う朝礼では、それぞれ清掃担当の副侍女長、炊事場担当の料理長、警備担当の警備隊長、馬などの世話をしている厩舎長が集う。

 ここで共有・指示された事項が各部門へ情報として下ろされる仕組みだ。


「警備部から、昨日の夜間、屋敷に何者かが侵入、あるいは調査にきた形跡あり。我々の巡回に気付いてすぐに撤退したようです。詳細は調査中です」


 警備隊長から、不届き者の情報共有が上がり、いつも微笑を浮かべているシャルロットの目が僅かに細まる。

 この微細な変化に気付く者は少ないが、部門長たちは付き合いの長いベテランばかりのため、この変化が起きた際のシャルロットについて、慣れたものだった。


「警備担当は本日から特別警戒態勢へ。侍女長、本日の納品予定は?」


 警戒度合いによって、シャルロットが口を挟むタイミングは変わるが、報告後すぐに指示を出したという事は、彼女が最大級に警戒しているという事だ。

 その事実に気付いた部門長たちは、いつも以上に背筋を伸ばし、表情を引き締める。


「いつも通り午前中に食材の納品、午後に清掃消耗品と家具の納品予定があります」


 納品の予定を問われたリリスは、特に手帳を開いたりする事も無く予定を諳んじて見せた。

 いつもの事ではあるが、部門長たちは己の上司の有能さにいつも内心で舌を巻いている。

 特に副侍女長は最初こそ自分が元は侍女長だったというプライドがあり、強く反発していたが、その仕事ぶりを見て、数日で彼女に心服した。

 否、陥落したと言ってもいい。


「各納品時、侍女長は必ず立ち会うように。それと、余計な人員が屋敷に入り込まないよう警戒を厳に。不審人物はすぐに捕らえて情報を引き出して」


 シャルロットの指示には、彼女なりの証拠や確信があるが、部門長たちは説明を求めない。

 否、最初のうちは求めていたが、シャルロットの話が高度すぎて理解できないので、そのうち聞かなくなったのだ。

 ゆえに、部門長たちは己に下された職務に邁進する。


「最後に、本日出勤の全使用人に武装する事を通達するように。最悪の場合、屋敷内で戦闘が発生する可能性があります」


 全使用人武装命令。

 これが発令される事はそう多くない。

 けれど、これが発令されたという事は、武力でリベルヤ家に喧嘩を売ろうとしている何かがいる、という事だ。

 非戦闘員さえ、最低でもB級冒険者クラスの戦闘力を持つリベルヤ家の屋敷は、下手な軍の駐屯地よりも戦力が高い。

 詳しく内情を知る者からすれば、リベルヤ家に力押しをするのは自殺志願者だ。


「他に共有や報告はありませんか?」


 シャルロットが指示を出し終えたのを確認し、リリスが朝礼を進めれば、他には何も無かったため、各自解散し、各々の職務に取り掛かる。

 シャルロットは、朝食までの時間を執務室で過ごす。

 文官が出勤してくるのは朝9時。

 それまでに、自分の仕事を進めておく。


「……おそらくは、あの貴族家が裏で糸を引いていますね」


 昨日の夜には無かった黒い封筒が、シャルロットの執務机においてあった。

 彼女が個人的に持っている直属の情報組織のものだ。

 中身を確認し、すぐに魔術の火で手紙を焼く。

 予想通り、事前に当たりを付けていた貴族家からの攻撃。

 それを裏付ける内容だった。

 新興貴族ながら数々の功績を挙げ、短期間で侯爵にまで上り詰めたリベルヤ家を、特に古参の貴族ほど快く思っていない。

 だからこそ、時に直接的に、時に陰湿に攻撃を受ける。


「私を敵に回すとどうなるか、まだ敵に伝わり切っていないようですね」


 シャルロットの笑みが鋭くなる。

 普段の彼女からは想像もできないほど攻撃的な笑み。

 この笑みを浮かべ、敵対する貴族家を破滅させたのは、これが初めてではない。

 シャルロットの暗闘を、ハイトは知らない。

 知らせなくていい。

 仄暗い貴族の暗闘は、それを知る者が担当すればいい。

 シャルロットがハイトの妻となると決めた瞬間から、今日まで変わる事の無い決意。

 手早く暗号化した組織への指示書を書き上げると、特殊な周波数で鳴る笛を吹く。

 人には聞こえない周波数のそれは、指示書の運び屋を呼び出す。

 シャルロットが執務室の窓を開ければ、そこには伝書を運ぶ鳥。

 鳥の脚に指示書を括り付けると、再度短く笛を吹く。

 すると、鳥は目的地へ向かって飛び立つ。

 そのは速度は、人の目には殆ど映らない。


「早ければ午後にはケリが付きそうですね」


 鳥を見送ったシャルロットは窓を閉め、朝食までの時間を通常の執務で過ごす。

 本気を出せば文官が出勤してくる前に全てが片付くが、状況によっては自分がいなくても仕事が回る状態を作らなければならない。

 なので、今の文官たちが処理できるレベルの仕事は残し、シャルロットあるいはハイトのみが決裁できる仕事を進めていく。


「おはようございます」


「おはようございます。本日も頑張りましょう」


 朝9時に文官たちが出勤してきて、彼らに仕事を割り振ったら、シャルロットは書類の雛型を手書きで恐ろしく正確に量産する。

 共通事項は既に記入しており、必要な文言か数字を書き込めば、書類として機能するようにしているのだ。

 こうしてやれるタイミングで先に仕事を潰しておく事によって、突発事項が出ても時間を捻出できるようにしているのだ。

 10時前にはハイトも執務に加わり、昼休みを終えると彼は王城へと登城していった。

 急遽の呼び出しがかかったのである。


「……来たみたいですね」


 午後の執務が始まり、相変わらず自分は書類の雛型を量産しながら、文官たちの疑問に答えたり難しい書類仕事を指導したりしつつ、いつも通りに業務を進めていると、午後3時を過ぎてから、屋敷内が騒がしくなった。

 恐らく、例の貴族家が動いたのだろう。

 とはいえ、下手な軍隊よりも強い使用人たちが闊歩する、魔境とも言えるリベルヤ家に押し入った武装集団の末路は、決まっている。


「失礼します。シャルロット様、屋敷内へ押し入ろうとした武装集団を鎮圧しました。いかがなさいますか?」


 屋敷内が騒がしくなってから5分程度で、リリスが執務室にやってきた。

 武装集団を鎮圧した、という報告を受け、シャルロットは小さく頷く。


「証拠能力のある者以外は掃除して構いません。証拠能力のある者は全ての情報を引き出してから、エスメラルダに引き渡して下さい。既に彼女には指示を出しています」


 シャルロットの個人的な組織は、最終的には暗部担当のエスメラルダに繋がっている。

 あくまで直接シャルロットの指示で動かせる、というだけだ。

 しかし、それが時としてエスメラルダの情報収集能力を超える。

 だからこそ、シャルロット個人として直接指揮できる組織が存在するわけで。

 こうした貴族同士の暗闘で、最終的に動くのはそれぞれの家の暗部。

 ゆえに、元最強の暗殺者集団であったエスメラルダ率いる暗部は、ただの1度も負けた事は無い。


「あとは陛下にも貸しを積んでおかないといけませんね」


 貴族家が絡む以上、最終的には王家に裁定を委ねる事になる。

 本来なら、貴族家同士が潰し合うまでに止めるのは王家の仕事なのだが、シャルロットはそれを先回りして片付け、リベルヤ家に有利な状況を作り上げてから報告を出す。

 それゆえに、王家はシャルロットに対して恐ろしいほどの貸しが溜まっている。


「ただいま。全く、陛下も人遣いが粗いもんだ。ま、俺しかできない事だからしょうがないけどさ。それより、俺の留守中に何か無かったか?」


 屋敷内の騒ぎが収まって30分ほどが経過し、王城に登城していたハイトが帰宅。

 留守中に何か無かったかを問われるシャルロットだったが、その顔にはいつもの微笑を浮かべてこう言う。


「何もありませんでしたよ。いつも通り、平和な1日でした」


 屋敷の主人は、今日の事件を何も知らない。

 けれど、知らなければ平和な1日が過ぎた事になる。

 各地を飛び回る事の多い彼に、不要な業務負荷は必要無い。

 今日もまた、シャルロットはハイトに知られる事無く、リベルヤ家の問題を解決していく。


「本日もお疲れ様でした。それでは、お休みなさいませ」


 夜は、美容と健康のためにも早く就寝する。

 10時にはベッドに入り、ひとときの眠りに落ちるのだ。


「おはよう。シャル、古参の貴族家が横領で取り潰しだってさ。今日の朝に一斉に情報公開されてた」


「あらあら、リベルヤ家はそうはなりたくないですね」


 翌日。

 リベルヤ家に暗闘を仕掛けた貴族家は消えた。

 シャルロットが潰したも同然なのだが、彼女は今日も微笑んで何も知らないフリをする。

 ハイトには華々しい面だけあればいい。

 後ろ暗い暗闘は自分が制し、敵を叩き潰せばいい。

 シャルロットの人知れぬ戦いは、今日も今日とて続いていくのだった。

 いつの日か、不当にリベルヤ家を潰そうとする政敵が全滅するまで。

実は怖いシャルのお話でした。

普段出歩く事の多いハイトがいない裏では、こんな感じで暗躍してます。

なお、秘密裡に貸しを積み上げて王家がシャルに頭上がらないという伏線はちょっとだけ入れてあったりします。

興味のある方は過去の投稿を探してみて下さいね。

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