ワケあり12人目⑧
「それじゃ試作品のお披露目といこうか」
鍛冶小屋に1番近い会議室へと場所を移し、アメシスの作った魔道具の試作品お披露目が始まる。
床に置いた木箱から最初に取り出されたのは、完全におもちゃサイズの掃除機だった。
全長20センチくらいに縮尺されたそれは、見覚えのあるスティックタイプのものだ。
「材料費も勿体ないし、試作だからかなり小さめに作ったよ。本格的なものを作るならそのまま大きくする」
そう言って、アメシスはミニチュア掃除機のスイッチを押す。
すると、静かではあるが、確かに吸引の音が鳴り始める。
吸込み口に手を近付けると、ミニチュアサイズとは思えないほどの吸引力を感じ、思わず手を引っ込めてしまう。
「本体そのものは軽くて頑丈なものが良さそうだったから、虫系魔物の甲殻を使ってみたよ。どのくらいまでの頑丈さを求めるかによるけど、風圧とか諸々を計算すると、本製品はそこそこいい素材が必要になると思う。で、内部機構は風魔力を充填した魔石を動力にして、魔力が切れたら魔石を交換すればいい仕様にしてる。あとは手元のスイッチで出力を3段階切り替えられるようにして……と、仕様の説明はこんな所かな。仕様書はこんな感じ」
木箱の中から取り出された仕様書は、狭い所に入れられていたせいか、よれてシワや折り目がついていたが、それを気にせず紙面を確認してみれば、詳細な設計図と使用した素材とおおまかな制作費用まで記載されていた。
流し見で特に変なポイントは見受けられなかったので、仕様書をシャルに渡してみれば、彼女はものの数秒で紙面を読み取り、無言で頷く。
「今の仕様で実際の製品を試作してみて下さい。とりあえず、5つほど。完成したら、リリスさんと使用人たちに使い心地を確認してもらって、改良点を洗い出しましょう」
「よっし! それじゃ次にいこう!」
1つ目の試作品から正規試験品へのゴーサインが出たからか、アメシスはグッと酒瓶を持ってない方の手を握り、喜びを露わにしている。
それから、色々な品の試作品と仕様書を確認して、あれこれと協議をした結果、まずは金属部品の少ない、あるいは不要なものから正規試験品の生産を行う事に。
理由としては、レイネスタが割と忙しい段階なので、手間のかかるオーダーメイドの部品に関わる余裕が無い事、あまりにもいっぺんに正規試験品を作ると、実証試験の効率が良くない事が理由としてあげられた。
「とりあえずは掃除機と高圧洗浄機、これは正規試験品ができたらうちの清掃担当に実際に使わせて改良点とかを出す。で、改良点を洗い出してそれを改善、調整したら王家に持ってく。自家消費するだけなら承認とかはいらんけど、売りに出して普及させるなら王家の承認がいるからな。この2つが落ち着いたら、レイネスタの状況を見ながら他のも正規試験品を作っていこう」
おおまかな方針も決まり、これからも生産部には人員が必要になる事も確認したので、俺たちは1度執務室へと戻った。
アメシスはそのまま正規試験品の制作に移ると言って鍛冶小屋の方に戻っていったので、試作品等の入った木箱を鍛冶小屋の方に運んでおくよう使用人に頼んでおく。
「面白いものがいっぱいできてましたねー。もし実用化されたら、使用人やメイドたちが咽び泣きそうですー」
一緒に執務室に戻ってきたレイジュが、アメシスの作った魔道具を見ての感想をぽつりと零す。
俺も正直、うろ覚えの前世知識でここまで正確な物を作り上げるとは思っていなかった。
試作品を作るのに1ヵ月くらいはかかると思っていたし、それから正規試験品を作らせて……という流れで製品化までは半年~1年くらいはかかると予想していたわけで。
「シャル」
「鍛冶施設を改築するついでにアメシスさんの研究室兼作業場も建ててしまいましょう。その方が資材庫も近くて利便性も高いでしょうし。ハイトさんの方で必要な設備なんかを確認しておいて下さい。私は建築計画と手続きを進めておきますので」
本日3回目の、シャルの名前を呼ぶだけで先読みで俺の行動が筒抜けになってるやつ。
あなたエスパーですか?
「なんでさっき直接アメシスに聞かなかったんだ?」
シャルにして、ちょっとだけ珍しく抜けているというか。
いつもの彼女なら、絶対に先に確認をしていたはずなのに、わざわざ後から俺に確認を頼んだ。
何か意味があるんだろうか?
「恐らくですが、アメシスさんには飴と鞭が要ります。鞭は私が振るいますので、飴はハイトさんが与えて下さい」
なるほど。
確かに財政管理を担っているシャルが鞭を与える立場の方が、構図がわかりやすい。
俺でさえもシャルの財政監査からは逃れられないのだし。
「了解。それじゃ、今から聞いてくる」
「お願いします」
俺が飴役かー。
まあ間違ってはいないんだろうけどな。
……これ、まさかシャルはアメシスもハーレムインしようとしてる?
まさかね。
さすがにあの酔っ払いを……。
でも酔っ払いという部分を取り除けば、見た目は美人のエルフ。
スタイルも抜群。
優秀な魔道具師。
うん。
これ以上考えるのはやめよう。
「アメシスー、いるかー?」
鍛冶小屋の方に戻ってみると、隅っこの方で作業をしているアメシスの姿があった。
酒瓶は床に置き、真剣な表情で素材を削っている。
普段の酔っ払い行動しか見ていないからか、真剣に作業をしている様子はちょっと新鮮だ。
何となくその様子を眺めていると、やがて俺に気付いたのか、アメシスが顔を上げた。
「おや、いつからそこに?」
「ちょっと前だな。少し用事があって戻ってきた」
「そうかい。それなら声をかければいいのに」
ちょっとだけ不服そうにこちらを見て、アメシスは作業道具を床に置く。
「一応かけたぞ。まあ遠くからだったから聞こえにくかったかもしれんが」
今も現在進行形で鍛冶作業中だからガンガン音鳴ってるしな。
「ちょっと話せるか?」
「いいよ。ここじゃ話しにくい事?」
「別に聞かれて困る話じゃないが、落ち着かないだろ」
「それもそうだね。じゃあ場所を変えようか」
話をしよう、と提案すると、アメシスは立ち上がって伸びをする。
それから床に置いていた酒瓶を片手に持って、俺と一緒に鍛冶小屋から出た。
「面談室でいいか。あそこなら給仕も呼べるし」
「どこでもいいよ? どうせ部屋に連れ込んだって私を押し倒すような度胸も無いだろう?」
「言ってろ酔っ払い」
どこかこちらを舐めているような態度のアメシスだが、実はある程度弁えているようにも感じられるので、判断が難しい。
ギリギリで一線は越えないようにしているというか。
アメシスについて考えながら、俺は面談室に入って椅子に座り、給仕を呼ぶためのハンドベルを鳴らす。
ちょうどアメシスも対面に座った所で、メイドがノックと共に入って来る。
「失礼します。ご用件を伺います」
「俺とアメシスに飲み物。アルコールは無しでな。あと適当に軽食を」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
給仕の指示を出すと、メイドは綺麗な仕草でお辞儀をして、部屋を去った。
うん、リリスさんの教育がしっかりしてるな。
「お酒じゃないなんて、つまらないな~」
「これから真面目な話をするんだ。酒なんて入れてる場合じゃない。もっとも、普段だって酔っ払ってるフリだろうに」
酒を寄越せ、と言っているアメシスに、普段は酔ってるフリだろうと指摘すると、彼女は目を見開く。
バレてるとは思ってなかった、って顔だ。
「薄々は感じてたけどな。さっきの作業風景を見て確信した」
さて、これで腹を割って話してくれるといいけど。
そんな思惑を持ちながら、俺は給仕の到着を待つのだった。




