ワケあり12人目⑦
「試作品、できたよ~」
アメシスとレイネスタに地球産の便利家電やグッズの数々を教えてから、1週間。
相も変わらず酒瓶を片手に執務室を訪ねてきたアメシスは、いつも通りに赤ら顔だ。
「早いな。何の試作品だ?」
さすがにエアコンとかの機構が複雑なものは難しいだろうから、比較的簡単にできそうな扇風機とか、そういう類のものだろうか?
「え~っと、エアコンと、掃除機と、洗濯機と……おおよそは?」
酒瓶を持っていない方の手で、指折り数えていたアメシスだったが、途中で面倒になったのか、大雑把に伝えてきた。
しかし、言葉通りなら、大半を試作品とはいえ仕上げたという事になるな。
本当だとしたら、彼女の魔道具師としての実力は相当なものだ。
「シャル」
「はい、確認に行きましょう」
今回の魔道具制作については、今後のリベルヤ家の収入となり得るものなので、シャルにも色々と話を通している。
開発用予算もキチンと手続きを踏んでいるので、ただ名前を呼んだだけでも彼女はすぐに立ち上がった。
今の業務を後回しにしてでも、試作の品質を確認するべきと判断したのだろう。
「面白そうなのでわたしも行きますねー」
身体が急成長したせいで基本的に屋敷から出られずに、ヒマを持て余していたレイジュが、同行を申し出てきたが、別段断る理由も無いので好きにさせておく。
とはいえ、情報を変な形で陛下たちに回されても困るので、口止めはしておいた方が良さそうか。
マイペースでぽやぽやしているとはいえ、頭脳は間違いなく王族のものだし、その能力は上澄みレベルだ。
「レイジュ、念のため言っておくけど、ある程度の形になったら陛下たちにも報告はするから、今はまだ情報を渡すなよ。まだ試作段階だし、何があるかわからん」
「わかってますよー。私だってもうリベルヤ家の女になるんですからー」
念のためとは言いつつも、口止めをされたのが不服だったのか、頬を膨らませながら、レイジュはリベルヤ家の女になる、の部分を強調して抗議してきた。
うーん、思ったよりもレイジュは愛が重いタイプかもしれないな。
「わかってるならいいけどな。あくまで念のためだ」
ちょっとご機嫌ナナメになったレイジュを宥めながら、すっかりリベルヤ家生産部の部屋になってしまった鍛冶小屋へ行くと、中ではレイネスタが最近配属された新人に指導しながら鍛冶鎚を振るっている。
今は鍛冶モードだからか、松岡〇造並みの熱血指導だが、その姿は板に付いているし、指導されている側も真剣に話を聞いているようだ。
その他にも、アーミル侯爵領から来ている技術交流の職人もいて、鍛冶小屋そのものがかなり手狭になってしまっているな。
「オツカレサマデス。マスターノマスター、ゲンザイ、ジウコウミツドガカミツデスノデ、コノタテモノノカイシュウヲシンゲンイタシマス」
人工ゴーレムであるヨツアシくんが俺たちを出迎えるなり、鍛冶小屋を改修すべきと文句を言ってきたので、俺は思わず苦笑いをしてしまう。
確かに最初はレイネスタだけだったが、これから人材が育てば同時進行で複数の炉を使ったりする事もあるはず。
鍛冶小屋の改修はかなりの急務だな。
「シャル」
「はい。すぐに改修を手配します。ついでですので、施設も最新のものにしましょう。既にレイネスタさんの鍛冶による業績は、その投資をするだけの価値があります。ノウノック夫妻にも技術協力を打診して、一切の妥協無い最高の鍛冶施設を作りましょう」
鍛冶小屋広げる予算出せるか、と聞こうとした瞬間には、シャルから具体的に改修工事計画が出てきてしまう。
以心伝心とかいうレベルじゃないよそれ。
もはや未来予知だよ?
「レイネスタにだけ~? ワタシにも研究室くらい欲しいな~?」
専門施設欲しさか、アメシスがしなを作って研究室を要求してきたが、いかんせん片手に酒瓶を持った酔っ払いなので、残念ながら色気は皆無である。
「その件は試作品を見てから考えましょう。まだあなたがリベルヤ家にとってどの程度利益があるか、その価値を証明できていませんから」
そして、アメシスの要求は、シャルにバッサリと斬って捨てられてしまう。
まあ、当然っちゃ当然ではあるな。
信用の問題もあるし、いくらリベルヤ家が財政的に潤っているからといって、無駄になるとわかっている投資はさすがにしない。
「ちぇ~。まあいいよ。それじゃあ試作品を見て判断してもらおうじゃないか」
シャルに冷たくあしらわれたアメシスだったが、気を取り直して鍛冶小屋の隅の方へと俺たちを連れて行く。
そこには、試作品であろう魔道具たちが木箱に乱雑に放り込まれていた。
「……もうちょっと置き方どうにかならなかったのか?」
「しょうがないよ。これだけ人口過密なんだ。ワタシのような弱小部署が使えるスペースなんて限られているからね」
よよよ、と泣くフリをするアメシスだったが、確かに鍛冶小屋の半分以上が人で埋まっている今、確かにアメシスが使えるスペースは少ないだろう。
「さすがにここじゃ手狭だな。空いてる会議室でも使うか」
さすがに女性陣に持たせるわけにもいかないので、俺は木箱を抱え上げ、1番近くの会議室へ向かって歩き出す。
シャルたちはすぐについてきたが、アメシスは立ち止まったまま、ジッとこちらを見ていた。
「ん? どうした?」
みんながついてきているか確認するのに振り返った俺は、アメシスに問い掛ける。
「……何で、貴族家の当主様が自ら進んで雑用をしているんだい? もっとこう、使用人に運ばせるとか、あるんじゃないのかい?」
木箱を持っている俺を珍獣でも見るような目で見るアメシスだが、確かにごもっともだ。
「……ま、俺は変わった貴族だからな。この程度で気にしてたらこの先胃痛で倒れるぞ。そもそも、相当な変わり者でもなきゃ、アメシスを買う貴族なんていないだろ」
常に酒呑んで酔っ払っているような奴隷など、買おうと思うやつは普通いないだろう。
要するにおまいう、ってやつだ。
「……ブハッ、確かにそうだね。普通の人はワタシのような酔っ払いは買わない」
何かがツボに入ったのか、アメシスは大きく噴き出した後、ケタケタと笑いながら後についてきた。
相変わらず、態度が奴隷のそれじゃないよな、と思いつつも、彼女はこれでいいんじゃないか、と思える。
そもそも、俺が細かい態度を気にするような質だったら、今ここにいない人がたくさんいるし。
「それじゃあ試作品を披露して、研究室を勝ち取るとしようか!」
「おま、寄るな酒臭い!」
急にアメシスが肩を組んできて、バランスを崩しそうになったのと同時に、酒臭い呼気が横から襲ってくる。
まだアルコールの経験が無いので、それだけで酔ってしまいそうだ。
とはいえ、肩を組んできたという事は、嫌でもアメシスの身体が密着するという事で。
遠慮も無くガッチリと肩を組まれたので、かなりピッタリと密着したアメシスの身体は、何がとは言わないが、とても柔らかかったので、こんなでも身体はキチンと女なんだな、と認識させられてしまったのだった。
男は女性の柔らかさには抗えないのです。
それがたとえ酔っ払いであろうとも。




