ワケあり12人目⑥
「……酒くさ。呑むのは勝手だけど、酔い潰れたりしないでよね」
王国に無事帰還して翌日。
リベルヤ家生産部として本格的に動き出すべく、アメシスとレイネスタを小会議室に集めたのだが、早速雲行きが怪しい。
原因は、言うまでも無く朝から酒を呑んでいるアメシスである。
レイネスタは鍛冶作業をしていない時のダウナーモードなのもあって、ただでさえ悪い目つきがなお鋭い。
「だいじょぶだいじょぶ~。うぃっく、ちょっとくらいお酒入ってた方がいいアイディアも出るってもんさ」
当の本人は赤ら顔で、相変わらずビンから直接酒を呑んでいる。
今日は蒸留酒を呑んでいるようで、まだ朝食前だというのに既に相当酒くさい。
「……とりあえず、生産部の今後について会議をする。レイネスタ、鍛冶依頼の生産状況は?」
多分、俺も顔が引き攣っているだろうが、アメシスの態度は気にせず議題を進めていく。
水を向けられた本人は、一度胡乱げにアメシスを見てから、俺の方へと視線を戻す。
その目線からは、コイツ本当に大丈夫か?
という意識をありありと感じる。
「……とりあえず、王城からの依頼品は合間に進めてるから、今の所は遅延ナシ。農具関連はアンコモ子爵からの初回発注分は終了、今は追加で依頼が来てるからそっちに取り掛かってる。進捗状況は6割くらいで、来月内には終わる見込み。アーミル侯爵領からの技術交流の職人のうち、直接弟子入りを希望してきた職人は向こうの許可が下り次第こっちで受け入れる予定。それ以外は予定通り年内いっぱいまで。新しく来た生産部の人員は、とりあえず簡単な作業をやらせながら、見込みのある人にそれぞれの分野を任せるつもり。ケド、アタシも専門は鍛冶だから、他の専門職もなるべく早く見つけてくれると助かる。見つかるまでは可能な範囲で教えとく」
いつも鍛冶中のテンション高めな姿を見慣れていたからか、こうして真面目モードのレイネスタは少し新鮮に感じるな。
ダウナーで少し声が低めだから、ちょっと圧は感じるけど。
とはいえ、ただ鍛冶一辺倒というわけでもなく、こうして形式張った会議でもちゃんと必要事項を纏めて話すだけの能力もある。
シャルたちに教養関係も教育しておくようにお願いしてはあったけど、これがその教育の賜物なのか、彼女が元から持っていたものなのかはちょっとわからない。
とはいえ、適正の無いものは教育してもさほど伸びはしないので、レイネスタ自身にちゃんと人の上に立つ才覚がある、という事だ。
「レイネスタ自身は手が空きそうか?」
今後、商品開発を行っていく段階で、機密の問題でレイネスタにしか触れさせられない場面が絶対に出る。
なので、先に本人の身体の空き状況を確認しておく。
さすがに、現場を回すのに精一杯な所に新たな業務を捻じ込むのは鬼畜の所業だからな。
まあ、絶対にやらなければならない緊急の業務は除くのだが。
「今は簡単なものなら部下に任せられるようになってきたから、それなりには動けるかな。まあ、まだ最終確認とかはアタシが見なきゃだから、長時間かかりきりになるのは難しそうだけど」
「なら、とりあえずはレイネスタの手が必要そうな時だけ作業を頼む事にするか。それ以外はやれる人員でやろう。今日はとりあえず俺が計画している新しい魔道具の構想を把握してくれればいい」
レイネスタの現在の仕事状況の擦り合わせができたので、いよいよ本題の魔道具の話に入ろう。
新しい魔道具の話、という所で我関せずに酒を呑んでいたアメシスが、興味深そうな様子でこちらに向き直る。
「今、俺が構想してるのは……言うなれば快適な気温と湿度を常に保つ魔道具だ」
要するに、地球で言うエアコンだ。
この世界では、魔術が使える人間がそういった気温や湿度の調整を行うのだが、いかんせん勤務時間中は常時微調整をするためにほとんど魔術を使いっぱなしになるし、かなりの魔力量を要求される。
担当する範囲が広ければなおさらで、相当な激務だ。
当然、その魔術師を雇うためにはかなりの給金が必要となるため、相当財力に余裕がある大貴族や王族くらいしか雇えないだろう。
何なら、工夫である程度はどうにかなる範囲でもあるので、最近はそういった部分を余計な贅沢として控える貴族も多い。
王城も陛下の指針で、本当に温度管理の必要な部屋以外は工夫で賄われているくらいだ。
そんなわけで、初期の導入費用こそかかるものの、1度設置さえ済ませてしまえば定期メンテナンスくらいで運用できるエアコンには、かなりの需要が生まれると俺は読んでいる。
「へ~、なかなか面白そう。詳しく教えてよ」
とりあえず今回の計画の中心になるであろうアメシスが、前のめりになっているのでとりあえずやる気を心配する必要な無さそうだ。
とはいえ、今までの中では断トツに内心が読みにくい相手なので、彼女の一挙手一投足に注意しながら、エアコンについての説明をしていく。
とはいえ、地球では素人に少し毛が生えたくらいの知識しかない俺の説明が、どれくらい通じるのか。
若干の不安を覚えながらも、俺はエアコンの仕組みをアメシスとレイネスタに説明。
室外機、室内機、冷媒、除湿、加湿、冷房、暖房、そして操作盤による操作。
さすがにすぐに地球仕様のような高性能のエアコンができるとは思っていないが、これでおおよその概要を伝えられたとは思う。
「なるほど……魔術で直接空気を冷やすだけじゃなくて、機械的な仕組みでほぼ自動稼働するようにすれば、メンテナンスだけで常に快適な空間を保てるようになる、と。ちなみに、他に構想はあるかい? この際だからもっと君の考える魔道具の構想を聞かせてくれたまえ。そのエアコン? という魔道具の構想も、今までの歴史には無かった視点だ。新たな視点は新たな発明を生むよ」
「アタシも気になる。アタシが関わるとすれば、部品関係の生産だろうケド、聞いてるだけで試してみたい素材の組み合わせとか、色々浮かんでくる!」
さっきまでダウナーモードだったレイネスタも、俺の魔道具構想に興味津々で、すっかり作業モードに入っている。
こういう所だけ息ピッタリになる辺り、やはり2人とも職人畑の人間なんだなあ、と実感してしまう。
「わかったわかった。話すから落ち着け……というかもうすぐ朝飯だから、飯食ってからにするぞ」
元々結構長くなるつもりで予定組んでたけど、これは下手すると今日中に終わらなさそうだな……。
とりあえず、話を聞きたがる2人を宥めながら、食堂に向かう。
なお、この後朝飯を食いながらあれこれと質問責めに遭ったのは言うまでもない。
その後の予定も大幅に狂い、夜通しアメシスとレイネスタに捕まるハメになるのは、この時の俺はまだ想像してもいなかった……。
鍛冶バカ×魔道具バカ=狂気の世界の始まり
技術畑の人間は1度火が点くと止まらなくなるのです……(実話)。




