幕間 サクス・リアムルドの修行記録
ちょっと唐突に思い付いた幕間です。
「私は、思い上がっていたのですね……」
私はサクス・リアムルド。
現リアムルド王国の国王、ウィズリアル・リアムルドの息子として生を受けました。
元より、父上とイライザ母上とイヴァキア母上に様々な教育を施され、最近は王太子としても認められたので、年齢の割には相当な上澄みと自負していたのですが……父上から、1つ年下のハイト・リベルヤ伯爵の元に行って学ぶよう言い付けられたのです。
最初こそ、自分の力量に自信があったのですが……リベルヤ伯爵の元に来てからというもの、その自信は粉微塵に打ち砕かれました。
「うん、悪くない」
まずは武芸の訓練において、最初に基礎的なトレーニングをしてから、私は鬼人族の女性と手合わせをする事になったのですが、こちらの攻撃が一撃も入らないばかりか、たった一撃で得物を弾き飛ばされ、圧倒されてしまったのです。
最後に一撃を繰り出すまで、ずっと防御に徹していた鬼人族の女性は、恐ろしく無表情で、何を考えているのかわからない相手でしたが、その実力は本物でしょう。
後に話を聞いてみれば、単騎での実力はリベルヤ家最強に近いそうで、お名前はカナエさん。
元より、鬼人族は筋力に優れると聞いてはいましたが、彼女のそれは種族的な特徴を遥かに超えているように思えます。
まあ、謂わば将軍クラスの相手なら、負けてしまっても仕方がない、と諦めが付きましたが、その後にリベルヤ家の一般兵士とも手合わせの機会があり、さすがに勝てるだろう、と高を括っていたら、最終的には負けてしまいました。
ただの1兵卒が、ここまで強いなんて、信じられません。
王城での訓練では、部隊長クラスですら、私は下していたというのに。
「型も綺麗ですし、実力も確かです。しかし、些か素直すぎますね」
そんな私の思考を見抜いていたのか、調練の統括をしているセファリシア嬢が、直接手合わせをして下さいましたが、その結果は悲惨なものでした。
こちらの動きは全て見切られ、彼女に剣を抜かせる事も無く取り押さえられてしまい、武術面での自信は粉々です。
ならば、政務面ではどうか、とシャルロット嬢に手伝いを申し出たのですが……こちらも私の自信を粉砕するのに、時間は不要でした。
「そちらの書類は急ぎの案件なのでこちらに。残りは急を要しませんのであちらに。ああ、その件でしたら現在調整中ですのでお待ち頂くよう先方にお伝えして下さい。こちらの書類の束はハイトさんの決裁が必要なので、ハイトさんの所へ」
シャルロット嬢は、手元を見ずに書類を書き進めながら、周囲で動く文官の皆さんに指示を出したり、質問に答えたりしている。
その間に、手元の書類記入が止まる事は一切無く、何なら同時に他の文官から質問が飛んできても、その全てを同時に聞き分けて優先度の高いものから答えていく。
一体、どれほどの作業を並列で進められるのでしょう?
そんな彼女の異常性に目が行きがちですが、当主であるリベルヤ伯爵も、相当です。
さすがにシャルロット嬢には及びませんが、彼自身も相当に事務処理能力は高く、私の倍近くは仕事が早い。
それでいて、訓練にも時間があれば参加している。
何よりも驚きなのは、総合的な実力で言えばカナエさんやセファリシア嬢よりも彼の方が強いという事です。
話を聞いた時はそんなバカな、と思いましたが、実際にカナエさんと互角に打ち合う彼を見て、私は目を見開いたものです。
他にも、色々とすごい方々がリベルヤ家には多くて、その人材の幅広さに驚きの連続でした。
「ハジメマシテ。コチラハマスターノサギョウバデスガナニカゴヨウデスカ?」
鍛冶場に行けば、人語を操る謎のゴーレムがいたり。
「こちら、A定食です」
食堂では、使用人や兵士、果てはリベルヤ伯爵までもが入り乱れて食事を摂っていたり。
「この料理は……こんなもの、私は知らない……」
王城でも食した事の無いような馴染みの無い、それでいて恐ろしく美味な食事が誰でも食べられて。
1週間もリベルヤ家にお邪魔していれば、その異常性がよくわかる。
父上が見聞を広めるために行ってこい、と言った理由が、今ならわかります。
私は確かに年齢の割にはできる方なのだと思う。
けれど、上には上がいる。
だからこそ、自分がもっと向上できると努力し、自分よりも優れた者が必ずいるという謙虚な心を持たなければいけない。
思い上がって努力を止めた瞬間、私は国を傾ける暗愚な王となってしまう。
父上が、ご先祖様たちが連綿と受け継いできた歴史を、私の代で終わらせるわけにはいかない。
学ぼう。
この地で吸収できる事は全てを。
私は、まだまだ世界を知らない。
父上の後を継ぐ者として、恥ずかしくないだけの学びを得よう。
いいや、継ぐだけでなく、父上すら超える王となるべく努力しよう。
そして、次代の子に私を超える王になってもらわなくては。
唐突な幕間でしたが、お楽しみ頂けたでしょうか?
本来なら普通に話を進めていくところだったのですが、急にネタが降って沸いたので、忘れないうちにと執筆した次第です。




