ワケあり12人目④
「……意外と上手くいかないもんだな」
何だかんだで特殊奴隷の面談を終え、俺たちは中枢統制局内のホテルの部屋に戻ったわけだが、連れ帰る事になったのはアメシス1人だけとなった。
何人か欲しい能力を持った人材がいたが、貴族特有の傲慢さだったり、値段的な兼ね合いで無理だったりと、思ったほど人材を集められなかったのだ。
というか、思ったよりもアメシスの値段がとんでもなかったという話がある。
10人の特殊奴隷の中でも1番値段が高く、小さな貴族領の年間予算程度には高くて、おったまげたくらいには高い。
局員さんの説明によると、彼女が実験失敗で出した被害額が値段の殆ど、という事なので、事故でやらかした際の被害の規模のとんでもなさがわかる。
そのため、連合国側が俺への褒賞として組んでいた予算額からアメシスの値段を引いた差額分は、当初の予定通り真珠や珊瑚等の宝飾品で賄われる事に。
連合国って自然には恵まれてるけど鉱物資源とかはイマイチだし、逆に言えば宝飾品くらいしか高い価値のある物が無いというか。
でも、逆に多種多様な種族が暮らす国でもあるので、様々な文化が生きており、宝飾品などの加工品は様々な種類がある。
それゆえに、連合国は加工宝飾品の輸出入や制作依頼が主な外交収入源だ。
あとは自然が多いゆえに別荘地や観光地としての側面も強い。
「いや~、まさか他の選択肢を蹴ってまでワタシを購入してくれるなんてね~。そんなにワタシが欲しかった?」
とりあえず、帰るまでの間は俺の寝室で共に過ごす事になるアメシスは、赤ら顔でケタケタと笑いながら、部屋に備え付けのソファでワインを瓶ごとラッパ飲みしている。
多分、普通に酒好きなのもあるんだろうけど、普段から酒飲みでダメそうに振る舞うのにも、何か理由があるのかも。
とはいえ、この場で問い詰めたとてすぐに話してくれるほど、素直な性格でもなさそうだし。
しばらくは様子見しながらになるかね。
「あんま酒ばっか飲んで身体壊すなよ」
時間をかけて関係性を築く必要がありそうだな、と考えつつ、アメシスに声をかけておく。
この場に彼女以外俺しかいないのだが、そのうちリリスさん辺りが顔を出す事だろう。
「……別にワタシの身体目当て、ってワケでもなさそうだ」
きゅぽん、とワインの瓶を口から離すと、アメシスは素の声色で呟いた。
顔も酒に酔った風ではない。
姿勢は少しだらけた状態ではあるが、こちらを見据える表情は真剣そのもの。
先ほどまで酔っ払い特有の赤ら顔だったというのに、一体どういう手品か。
「ほら、自分で言うのもなんだけど、ワタシの身体はなかなか男に好かれる部類だし、顔も綺麗だろう?」
そう言って、彼女は自らのたわわに実った胸部装甲を服越しに持ち上げて見せた。
実際、身体つきだけで言うのなら、相当にエロい部類だと思う。
何というか、エロスを刺激する肉付きというか。
正直、身体だけを見るならうちの家臣団にも匹敵する人物はなかなかいない。
顔も平均より相当上澄みに入るだろうし、外見だけで彼女に言い寄る男がいるのは想像に難くないといったところ。
「ワタシの出資者になろうと名乗り出る者は多かったけれど、大半は身体目当てだったからね。そういうのは飽き飽きだ、と言いたかったけれど、君はそうでもないらしい。まあ、反応を見るに欲情していないというわけでもなさそうだけど」
自ら胸を持ち上げて見せた彼女の行動に、俺は慌てて顔を視線を逸らしたのだが、行動が露骨すぎたか。
少しばつが悪いと思っていると、彼女はくつくつと控えめに笑う。
「まあ、これでも女の端くれではあるからね。全く意識されないというのもまた、気に障るんだよ。君は、そういう意味では非常に理想的な反応だ。少々初心なようだけれどね」
「ほっとけ。こちとらまだ成人してないんだよ」
他人の目が無いからか、アメシスはかなり砕けた態度だ。
急に距離を詰めに来たようにも思えるが、もしかすると何かしら彼女なりの基準のようなものがあって、俺が知らないうちにそれを満たしたのかもしれない。
「他人の目が無い……というわけでもないけれど、まあ無いと見てもいいだろう。彼女はよほどの事が無い限りは君の行動を尊重するようだしね」
明らかにフリスの存在に気付いている彼女の言葉に、俺は少しばかり身構えた。
影として厳しい訓練を積んだ彼女の隠密は、並大抵のものじゃない。
それをこうも簡単に看破してくるんなんて、何か特殊なからくりでもあるのだろうか?
「まあまあ、そう身構えずに。ワタシに何かする気があるなら、天井裏に潜んでいる君の護衛ちゃんにとっくにやられてるよ」
俺が警戒した様子を見せた事に対しては、ただ肩を竦めるだけ。
まあ、実際に彼女が言うように悪意があったのなら、フリスが止めに入っているだろう。
「ワタシの行動が要領を得ない、って顔をしているね」
「俺の中じゃ行動基準がわからないからな。恐らく、アメシスのなりの基準はあるんだろうけど」
こちらの思考を見透かすような彼女の言動は、人によっては腹を立てるだろう。
とはいえ、俺にとっては基準がわからないというだけで、不快感は無い。
そもそも、相手は200年以上生きているのだ。
前世の経験を足したとて、俺なんて子供にすぎないだろう。
「ふむ、興味深いね。実に賢い。君、見た目通りの子供ではないだろう?」
「まあ、この歳で侯爵位を任される程度には普通じゃないな」
何かしら、彼女の中で好奇心を煽られる部分があったのだろうか。
理由はハッキリしないが、アメシスなりに俺に興味を持ったらしい。
「君の言う、今は存在しない魔道具の構想というのも気になる。だらだらと中枢統制局に飼い殺しにされるのも悪くないと思っていたけれど、なかなかどうして。またやる気に火を付けてくれるじゃないか」
「やる気を持ってくれてるのは素直に嬉しいよ。ただまあ、事故だけは勘弁願いたいけどな」
「ははっ、違いない。もっとも、当時の事故は出資者が予算をケチったせいだからね。その上で実証実験は危険だと進言したのに、無理矢理進めさせた上で、実験事故の責任を私に被せてポイ、さ」
彼女の言い分では、充分な予算があれば事故は起こり得ない、という事のようだ。
まあ安全性にキチンと配慮してくれるのなら、こちらとしても問題は無いけども。
でも、彼女の言い分も通っているように思う。
そもそもの話、わざわざ中枢統制局でわざわざ面倒を見続ける義理も無いというか。
恐らく、複雑な問題が色々と噛み合って、特殊奴隷という扱いになったんだろうな。
「それならいいけどな。一応改めて言っとくが、安全性には充分に配慮してくれ。無理に急かしたりはしないから」
「それは助かるね。いや~、話してみるもんだよ」
一通り、彼女の中で確認したい事は確認できたのだろう。
話は終わりとばかりに、アメシスはまたワインボトルをラッパ飲みし始めた。
うーん、これもしかして、カナエみたいにアメシス用の酒で特別予算組まないといけないか?
酒は物によってはとんでもない値段付くから、カナエみたいに安物でも満足してくれるといいけど。
言い知れぬ不安を抱えつつも、俺はワインをラッパ飲みするアメシスを見守るのだった。




