ワケあり12人目②
「ハイト・リベルヤ侯爵様。この度はわざわざご足労頂き誠にありがとうございます」
特殊通行許可証のおかげで特にトラブルも無く連合国首都に到着し、首都中央の大きな建物にへ向かった所、先に情報が行っていたのか、ネレス代表が俺たちを待っていた。
「こちらこそ、お忙しい中でのお出迎えをありがとうございます」
俺たちもすぐに馬車を降りてめいめいに貴族的挨拶を交わし、連合国側の歓待を受け入れ、中央の建物に向かっていく。
「以前はろくにご案内もできませんでしたが、こちらが連合国の政治機関、中枢統制局です。この建物内には、政治に関わる機能の他、来客の方々を持て成すための施設、避難用の地下シェルターを設けております」
馬車は馬ごと連合国側の侍従に預け、俺たちはネレス代表の案内に従って、中枢統制局の中へと入る。
建物内の案内を受けつつ、俺たちは今回の宿泊場所となるホテルスペースへ。
「この度の滞在は、皆様でこちらの部屋をお使い下さい。室内の呼び鈴を鳴らして頂ければ、スタッフがご対応させていただきますので。その他、ホテルスペースに関しての説明は、スタッフに引き継がせていただきますので、まずは皆さん長旅の疲れを癒し、ごゆっくりと休養なさって下さい。それではまた後ほど」
ホテルスペースの端っこの方を纏めてリベルヤ家関係者用に取ってくれていたようで、誰がどの部屋になるかで若干揉めたものの、さほど時間もかけずに部屋割りは決まった。
護衛の関係で、俺は1番奥の部屋、そこからシャルとリシア、リリスさん、レイネスタと続き、そこを守るようにカトレス、クルス、エスメラルダの順で部屋を使う事に。
ネレス代表から説明を引き継いだスタッフから、部屋に備え付けの設備の説明や、食事を提供しているレストランの話など、必要項目の解説を受けて、俺たちは各々部屋に引っ込んだ。
しばしの休息を終えたら、夕食はネレス代表との会食になる。
比較的身体に負担がかからないよう、ゆっくりと馬車で移動してきたものの、やはり旅疲れというものはあるので、俺は手荷物をベッド脇に放り出して、整えられたベッドの上に寝転がった。
「……こうして見ると、本当にホテルだよな」
シンプルな調度品で華美にならない程度に整えられた部屋は、恐らくは高位貴族や王族などに向けた最高級のスイートルーム仕様なのだろう。
部屋には風呂とトイレ、水道などの施設が完備されており、この中枢統制局という建物自体が、相当な力を入れて造られているのが伝わってくる。
「失礼します」
コンコン、とノックの音がしてから俺が返事をする前に、リリスさんが部屋の中に入ってきた。
入ってくるなり、彼女は勝手知ったるとばかりに俺が放り出した荷物を所定の位置に置き、俺の身体を手早く起こすと旅装を解いていく。
室内でゆったりと過ごすのに問題無い程度に俺の服装を整えると、何かあれば遠慮無くお呼び下さい、と言い残して部屋を去った。
相変わらず、無駄の無い完璧なメイドぶりである。
俺がどの順番で手を入れられたのかは不明だが、恐らくは同じ流れでシャルたちの方も面倒を見ている事だろう。
「結局、すっかり貴族らしい生活に染まっちまったな」
貴族家当主という事で、基本的には自分の事を自分でしない。
朝はメイドか使用人が起こしに来るし、着替えなんかも基本的には人任せだ。
もちろんやろうと思えば自分でできるのだが、メイドや使用人の仕事を生み出すためにはそうしなければならない、という状態のため、自然とやらない習慣が付いてしまった。
最初は何だかんだと貴族になるのを嫌がってはいたはずなのに、今ではすっかり貴族のお手本のようなものである。
とはいえ、前世の記憶を取り戻す前には、もっと他人任せで自堕落な貴族生活をしていたのだから、妙に身体に馴染む感覚があるのも確かで。
結局、いかに前世の記憶があろうと、根っこには公爵家の子供として生まれ育った感覚が残っていたのだろう。
「失礼します。そろそろ会食のための支度をします」
今の自分の状況を考えているうち、それなりに時間が経っていたのか、リリスさんが俺を会食用の正装に着替えさせ、身だしなみを整えさせると、そそくさと部屋を去っていく。
恐らく、並行してシャルとリシアの正装も整えているのだろう。
個人的な手荷物以外は、衣装から何から全てをリリスさんが手配しているので、全ては彼女の采配によるものだ。
そして今回、俺が着替えさせられたのは、上品な絹のシャツとパンツ、上からレザーのジャケットを着せられた、フォーマル寄りの正装である。
多分、そこまでガッツリとしたものではないだろうけど、シャルたちもドレス姿になっている事だろう。
そんな事を考えながら、会食時間の少し前に、俺は部屋を出た。
すると、そこには既にドレス姿に着替えたシャルとリシア、従者や護衛としての正装に着替えた双子とエスメラルダが。
うん、みんな違ってみんな似合ってるな。
「お揃いですね。それでは行きましょうか。こちらです」
リリスさんの先導で、俺たちは会食会場であるレストランの一角へ向かう。
レストラン内の、奥にある大き目の個室に入ると、そこには既にネレス代表とその側近と思われるエルフの男性、給仕等を行うであろうスタッフたちが。
「お待たせしてしまったでしょうか?」
一応、指定時間の数分前なので遅刻はしていないのだが、ネレス代表に社交辞令としての声をかける。
本来であれば、立場的に上のネレス代表が先に発言するのだが、今回は戦時中における貸しがとても大量にある状況なので、一時的に俺が最上級の立場のようになってしまっており、ちょっとだけやり辛い。
それでも、貴族的な儀礼というのは面倒でも踏襲しなくてはいけないもので。
「いえ、時間通りでございます。それでは、早速ですが会食を始めましょうか」
連合国側はネレス代表とエルフの男性が席に付き、王国側は俺とその婚約者であるシャルとリシアが席に着く。
エスメラルダと双子は従者兼護衛として壁際に控えている。
全員が席に付き、ネレス代表が合図をした所で、スタッフたちが動き出し、料理が給仕されていく。
「それでは、今宵は我が連合国の危機に多大な貢献を頂いた英雄、ハイト・リベルヤ様のご来訪に、乾杯」
最初の給仕が行き渡った所で、ネレス代表の音頭で乾杯となる。
まあ、俺たち未成年組は果実水なのだが。
一応、王国では成人となっているリシアも、連合国基準ではまだ未成年扱いらしく、俺たちと同じ果実水だ。
「このような歓待の席を設けて頂き、誠に感謝いたします」
儀礼的に礼を述べ、果実水を口に含む。
恐らくは葡萄の類だろう。
濃厚な甘みと、僅かな酸味が鼻腔を満たしていく。
「皆様は初対面でしょうから、ご紹介させて頂きます。こちら、連合国筆頭書記官であり、私の夫であるタケミ・ハルモニカでございます。以後、お見知りおきを」
「ご紹介に預かりました、タケミ・ハルモニカと申します。以後、よしなに」
手順に沿った挨拶を終えた所で、ネレス代表から横に座っているエルフ男性の紹介があった。
そこそこ高位の政治家か何かだと思っていたら、まさかのネレス代表の旦那さんである。
エルフらしく、色白で細身でイケメン。
本当にステレオタイプのエルフ、って感じだ。
まだ細かい所はわからないが、どちらかというと押しは強くなさそうな人物っぽい。
苗字からして、入り婿だろうし、その辺りは微妙なパワーバランスなのかも。
「ご丁寧にありがとうございます。まだ婚儀は挙げておりませんが、私の婚約者のシャルロット・シヴィリアン公爵令嬢とセファリシア・アーミル侯爵令嬢です。こちらも以後お見知りおきを」
併せてこちらも同席させている婚約者を紹介し、ひとまず名刺交換といったところ。
貴族的やり取りが面倒だなーとは思いつつも、侯爵家として礼儀的な部分を疎かにはできない。
その辺りは痛し痒しといった感じ。
とりあえず、そこまで長期の滞在にはならない予定だし、この歓待を乗り切れば面倒な貴族対応なんかはほとんど無いはず。
あとは予定の特殊奴隷を選定して手続きをするだけだ、と己に言い聞かせて、俺はこの場で礼を失しないよう全力で乗り切るべく努力をするのだった。




