ワケあり12人目①
今回から新エピソードです。
「連合国は初めてですね。こうして自由に移動できるというのは、ありがたいものです」
陛下たちに報告を行った1週間後。
連合国から通行証が届いたので、俺たちは予定通りに特殊奴隷の選定で連合国に向かった。
メンバーも予定通りで、俺の他にはシャル、エスメラルダ、リシア、オルフェさん、リリスさん、レイネスタの各部門長が一緒だ。
護衛役でカトレスとクルスの双子が一緒にくっついてきており、王都側の防衛戦力としてカナエたちは残してきている。
まあ、今の情勢であれば滅多な事は起きないだろうとは思うので、大丈夫だろう。
「……うん、改良もいいカンジ。これなら量産に乗せても良さそう」
馬車の部品を色々とアップグレードしてくれたレイネスタが、実際の乗り心地を確かめた上で手元のメモに色々と書き込んでいる。
今は鍛冶作業をしていないからか、完全にダウナーモードだ。
彼女のおかげで、リベルヤ家専用の馬車も相当に快適な仕上がりになり、元より冒険者活動を見据えた改造を施していたものが、より便利で快適になった。
俺が魔術的な方面で手を加えているのもあり、さすがに全く同じ仕様のものは世には出せないが、ある程度は貴族向けの高級馬車として売り出してもいいだろう。
その辺りはレイネスタとも話し合っていて、せっかくなので色々と産業にも手を入れようと決めたのだ。
アーミル侯爵領から来た職人たちとの技術交流も始まっており、少しずつレイネスタの弟子兼補助要員も採用し始め、リベルヤ家生産部門として正式に発足している。
「ハイトさん、陛下から領地の候補地が決まったと連絡が来ていましたが、私の方で候補地を全て頂けるよう交渉を決めてきましたので、王家直轄地になっていた旧シヴィリアン領の南側は全てリベルヤ家の領地となりました。現在、エスメラルダさんの方で各地の情報収集と裏方面の統括を進めています」
「相変わらず仕事早いな!?」
移動中の馬車内で、シャルからしれっとトンデモ業務連絡が来て、俺は思わず声を上げてしまう。
侯爵家ともなれば、領地が広大になるのはしょうがないが、まさか貴族になって2年と経たずに侯爵家まで昇爵するとはこのリハクの目を持ってしても想像できなくってぇ……。
「一度やった事だし、もう明確な基準も決まってるから、あと1週間もあれば裏方面の掌握は終わると思うわ。今回はそれほど大物もいないみたいだから、もしかしたら数日で終わるかもしれないわね」
「みんなして仕事早すぎィ!?」
エスメラルダもエスメラルダで仕事が早すぎて恐ろしいわ。
最近は急ぎで調べるような事も無かったし、彼女自身は比較的屋敷にいる事が多いなとは思っていたけども。
500年以上生きてるってのは、伊達じゃないって事かね。
「先日うちに来た傭兵団の連中は、再訓練の上で再編させてもらったが、各団長はかなり優秀だった。団員も粒揃いだし、もう少し教育したら、それぞれ騎士団として分けようと思っている。各領地の治安維持を担当する巡回騎士団、戦闘行動に特化した戦闘騎士団、要人警護専門の警護騎士団の3つだ。正式名称はまだ決めていないが、それぞれ巡回騎士団はコルドス、戦闘騎士団はオーガスタ、警護騎士団はヘレンに長を任せる予定になっているぞ。詳しくは後で報告書を呼んでくれ」
リシアの方もめっちゃ話が進んでるなあ。
というか、報告書とか見た記憶無いな?
「報告書なら今朝出したばっかりだ」
俺の内心の疑問を読み取ったのか、リシアはいい笑顔でそう言った。
なるほど、そりゃ朝イチで屋敷を出て来たんだから報告書を見れるはずも無く。
「奇遇ね。私もよ」
エスメラルダ、お前もかい。
シャルから業務連絡事項が出たから2人とも便乗で口頭報告した、って感じか。
ホント、周囲がみんなしごできで肩身が狭いよ俺は。
…
……
………
「通行証を確認しました。どうぞお通り下さい」
今回はそこまで急いでいない事もあって、ゆっくりと連合国へ向かった俺たちだったが、国境の関所で早速通行証の威力を目にした。
普通、国境を超えるとなると荷物や馬車も検査されるものだが、なんと通行証だけでスルーである。
さすが、永久に使える特殊通行証だ。
「……何だか、空気が澄んでいるような気がします」
連合国内に入り、何度目かの休憩を取った際に、シャルがぽつりと呟く。
確かに、言われてみればそんな気がしないでもない。
「連合国は自然を大切にしているし、元より精霊魔術を使える人物が他国に比べて圧倒的に多いから、国全体として精霊の恵みを受けやすいんでしょうね」
「お国ガラってやつね」
今回の外出メンバーの中ではぶっちぎりで博識なエスメラルダが、連合国の特色を解説してくれた。
元々自然が多めかつ、精霊の恵みによって自然の効力が高い、という事なのだろう。
前に来た時は戦時中だったから、そんな事を気にしてる余裕は無かったな。
「皆さんお茶と軽食をどうぞ」
今回、デキるハイパーメイドのリリスさんが同行している関係で、他の使用人やメイドは一切連れてきていなのだが、本当に彼女の仕事ぶりはすごい。
今も休憩に入ってまだ数分といった所なのだが、恐ろしく早く湯を沸かしてお茶を淹れ、いつの間に準備していたのかわからないが、手が汚れないように紙で包んだ大きめのクッキーをみんなに配っている。
「茶は今淹れたとして、クッキーは今焼いたわけじゃないよな?」
配られたクッキーを口にし、サクサクの触感と程良い甘みを楽しみつつ、ついついリリスさんに聞いてしまう。
すると、彼女は小さく首を傾げた。
まるで当たり前の事をしているのに、どうして疑問に思うのか、というような反応だ。
「宿泊した宿の調理場を借りて昨晩に焼いたものですよ? 湿気らないよう多少の工夫はしましたが、この程度はメイドとして当然でございますとも」
うーん、しごできぶりが異常なのに本人が気付いてないやつだこれ。
本当にリリスさんの仕事ぶりはすごくて、俺のお世話は元より、シャルたちの事も完全に全部1人で面倒を見切っているのだ。
時折、残像が出るくらいの動きで仕事をしているのを見る時があるが、間違い無く1人でメイド10人分くらいの仕事をしている。
かと思えば、誰よりも遅く寝て誰よりも早く起きるし。
「当主様にお仕えするメイド長たるもの、周囲の手本となれなければなりませんので」
見本がヤバすぎる件について。
リリスさん並みの仕事ができるメイドは絶対にいないと断言してもいい。
多分、王家の1番仕事ができるメイドを捕まえて、リリスさんの仕事ぶりを話しても絶対怪訝な表情を浮かべるだろう。
何なら、それ人間ですか?
って聞かれるレベルだと思う。
それでいて、しれっと不審者や盗人なんかをお掃除していたりするのもまたヤバイ。
前に模擬戦見た事もあるけど、本当に何でメイドやってるのこの人ってくらい強い。
相性問題もあるけど、うちの最強暴力装置であるカナエやジェーンを単騎で抑え込むばかりか、今まで負け無しだった彼女たちに初めて土を付けたくらいだし。
まあ、おかげで恐ろしく快適な道中だし、ゆったりと観光気分でここまで出掛けてこれたという話もあるのだが。
相変わらず、うちの家臣団は色々とバグってる人多いなー、と再認識しながら、俺はクッキーとお茶を楽しむのだった。




