ワケあり11人目㊳
「余らをわざわざ呼び出すほどの事なのであろうな?」
「それはもう。というか正直な話、既にこれから話す事について考えると胃が痛いです」
王城での報告会を終えてから、俺は陛下にレイジュ様の事を打ち明けるために、屋敷の方へ来てほしいと打診してみた。
すると、善は急げとばかりに陛下と王妃様と側妃様の3人が屋敷に来る事が決まり、俺は王族3人と共に馬車に揺られている、というわけだ。
成長したレイジュ様を王城に連れて行く事も考えたのだが、場合によっては事件になりかねないので、とりあえずは屋敷から動かさない方向で話を進めたかったからな。
とはいえ、王族3人のフットワークの軽さよ。
レイジュ様に関する事とも言ってないのに。
まあ、俺がわざわざ相談事があるから屋敷に来てくれ、と言うのも珍しい話ではあるから、それで本気度が伝わったとも取れるが。
「リベルヤ侯爵の屋敷に行くのは初めてです。確か、陛下とイヴァは行った事があるのでしたね?」
王妃様は初めて屋敷に来る、というのもあって、少しウキウキしてそうだ。
とはいえ、場合によってはブチキレで俺の首を刎ねに来そうなので、ドキドキものではあるのだが。
程なくして馬車が屋敷に着いたので、王族3人を応接室に案内し、俺はレイジュ様を連れて来るのに一時退席。
「予定よりも早いですねー?」
「俺もまさか3人とも来ると思わなかったよ」
部屋に行ってレイジュ様を呼び出し、王族3人が揃った事を伝えると、目を丸くしていた。
が、特に気負った様子が無いのはさすがと言うべきか。
「戻りました」
身体の成長したレイジュ様を伴って応接室に戻れば、王族3人の目線がすぐにレイジュ様へと向く。
「……レイジュ、であるな? その姿……一体何があった?」
やはり陛下も親だからか、成長した姿であっても、レイジュ様にすぐに気付いた。
まあ、面影はバッチリ残ってるし、若干戸惑ってもすぐに気付きはしたんだろうけど。
とりあえず、問題無くレイジュ様と認識してもらえたので、俺はかくかくしかじかと事情を説明。
話を聞いていた陛下たちは、徐々に表情が抜け落ちていく。
「……以上が、今回の顛末です。レイジュ様を危険に晒し、あまつさえ守れなかった責は甘んじて受け入れますので、いかようにも」
首を刎ねたければそうすればいい、と俺は土下座で床に頭を擦り付ける。
応接室内に、沈黙が満ちた。
とりあえず、俺の首が落ちるという事は無く、しばらくは嫌な沈黙が流れていく。
果たして、俺が土下座を披露してからどのくらいの時間が経っただろうか。
体感では相当に長く感じたが、案外、実際の時間は大した事が無いかもしれない。
「……面を上げよ、ハイト。そのままでは話が進まぬ」
陛下から声がかかり、俺は恐る恐る顔を上げた。
すると、困惑の表情を浮かべている王族3人が目に入る。
土下座態勢から席に戻ると、陛下が小さく息を吐く。
「事情はわかった。が、お前が不意を突かれたという時点で、それを責められるものか。余は常時索敵魔術と防護魔術を発動させながら、日常生活を送っている化け物をお前以外に知らん。お前で無理ならイライザであろうとイヴァキアであろうと結果は変わらぬであろう」
「ですね。リベルヤ侯爵を始め、配下の方々も含めて動きを封じられたというのは気になりますが、それだけの相手だったという事でしょう。むしろ、その窮地を救ったレイジュの機転を褒めるべきだと私は思います」
「また色々ときな臭い存在が明るみに出てきましたわね……はぁ、また忙しくなりそうですわ」
三者三様の反応ではあったが、共通しているのは、俺を責めるつもりが全く無い、という事だ。
「だがまあ、レイジュはしばらく公式の場には出せぬな。まあ、どの道挙式は何年も先であろうし、その時には成長が早かったと理由が付けられるであろう」
陛下の判断もごもっともである。
というか、俺も人目に触れさせたらまずそうと思ったから、陛下たちにご足労願ったわけで。
6歳児が急に16歳の見た目になったらそりゃ驚くわという話。
「しかしこうして見ると、レイジュは本当にイライザに似ておるな」
「ですね。私の若い頃みたいです」
「目元のタレ具合は本当にそっくりですわ。まあ、イライザはあまり気の抜けた表情はしませんけれど」
重かった空気が、急にほのぼの家族空間になっていく。
さっきから空気変わりすぎじゃね?
とはいえ、こうして王族3人の反応を見る限り、実の親ではなくても、側妃様にもレイジュ様はちゃんと愛されて育ったんだな、というのがよくわかる。
「ハイトがわざわざ余らを呼び出すから何かと思えば、これは確かに外に出せぬ話題よな。お前の判断は正しかった」
「そう言ってもらえると少しは救われる気がします」
話したい事は無事伝えられて、とりあえずお咎めも無し、と。
さすがに殺される可能性は相当低いとは思ってたけど、お説教の1つや2つは覚悟してたんだがな。
まあ、丸く収まったのだから良しという事にしておこうか。
「とはいえ、色々と新しい情報が出てきたのは確かだ。傭兵国には先の戦争を仕掛けてきた事に対する落とし前を付けてもらわねばならぬ。今、連合国と帝国に打診を入れ、奴らに自分たちが何に手を出したかわからせてやろうとしているのでな」
ただ殴られただけで済ませられる段階を過ぎている、という事だ。
特に連合国に与えた打撃は凄まじいし、今は戦力を失って大人しくしている傭兵国も、戦力が整えばまた同じ事をしでかさないとも限らない。
であれば、今のうちに叩いてしまおう、というわけか。
こうして争いになるのは悲しい事だが、将来的に火種になる事がわかっている存在を放置するわけにもいかないし。
多分、裏で糸を引いているのは闇奴隷商の組織のような気がするけど、その証拠が無いし、糸口であるマジャンを捕えようにも、傭兵国を黙らせる必要がある。
結局、戦いは避けられないというわけだ。
「ハイト、今回に限ってはお前に出てもらう必要も無いだろう。仮に開戦するにしても、準備にある程度時間がかかるのもある。ゆえに、しばらくはゆっくりするといい」
ゆっくりできる、というのはありがたいが……果たしてそう上手くいくのだろうか。
そんな身も蓋も無い事を考えながら、俺は今後の予定を考えるのだった。




