ワケあり11人目㊱
「おかえりなさいませ、ハイトさん」
「無事に戻って何よりだ」
「無事のご帰還、お喜び申し上げます」
長時間の行軍を終え、ついに俺たちは王都に帰り着いた。
先触れをこまめに出していたからか、屋敷に到着した時点でリリスさんやシャルたちが出迎えてくれている。
ああ、やっと帰ってこれたな。
「連絡はこまめにしてくれていたが、こうして無事な顔を見るのが一番安心するな」
「ですね。色々と積もる話もあるでしょうけれど、まずは旅の汗を流していただいて、ゆっくり休息を取ってもらいましょう。陛下からは明日以降、準備が整ってからの謁見で良いと伝言を頂いていますので」
リシアとシャルも安心したような表情でこちらを見ているので、こまめな連絡をしていたとはいえ、やはり心配ではあったのだろう。
そして陛下も長丁場で外国に行っていた俺たちの事を配慮してくれていたようで、ある程度休息してからの報告会で良い、と言ってくれている。
本当にありがたい限りだ。
「はじめまして。あなたが連合国のヴァルキア代表様ですね」
続いて、同行してきたヴァルキア様にシャルが挨拶を交わす。
ヴァルキア様の件も一緒に知らせてはおいたけど、どういう扱いになるんだろうな。
王城での賓客になるのか?
「元、代表ですよ。今は娘が代表を務めていますので。今の私は王国駐在外交官です」
元代表、という部分を強調している辺り、あまり元の立場に未練は無いっぽい。
まあ、権力欲に取り憑かれているよりはいいか。
「明日以降、ハイトさんが陛下に謁見する際に一緒に登城するように、と陛下から伝言を預かっています。それまでは当家でお寛ぎ下さいませ。リリスさん、ご案内を」
あ、そっちも伝言預かってたのね。
とりあえず、ヴァルキア様はうちに滞在する事になるらしい。
あとは陛下と会ってからだな。
「歓待に感謝します。それでは、少しの間ですがお世話になりますね」
テンプレ的な挨拶を交わしてから、ヴァルキア様はリリスさんに案内されて客間の方に歩いて行った。
しかしまあ、相変わらずシャルは如才ないね。
「ハイトさんたちも、まずは汗を流して身体を休めて下さい」
「シャルの言う通りだ。兵士たちの方は私に任せておけ」
ここまで気遣いをされるのもむず痒い感じがするが、長旅で疲れているのも間違い無いので、お言葉に甘える事にする。
荷物の類を自室に置いて、すぐに風呂へ。
疲れた時に大浴場で浴びる湯は、格別だ。
この辺りは割とまだ日本人っぽい感覚が残っているのかも。
少し熱めの湯に、疲れが溶け出していく気がする。
温泉とかがあれば、なおいいんだけどな。
さすがに高望みしすぎか。
とはいえ、この世界にも温泉はあるんだよな。
王都は立地上、温泉が湧かないっていうだけで。
「はぁ~……このまま寝れそうだ……」
身体が温まり、夢見心地になってくるが、このまま寝ると大惨事になるので、ほどほどの所で風呂から上がっておく。
メイドさんたちが身体を拭いてくれたり、着替えの介助をしてくれるのも、随分と久しぶりだ。
最初こそ抵抗感があったけど、今となってはすっかり慣れてしまった。
やっぱ人間、向いてないと思ってても適応する生き物なんだなって。
「入浴お疲れ様でした。お食事はいかがなさいますか?」
「夕食は食べるけど昼はいい。それまで寝る」
「かしこまりました。それではそのように」
風呂上がりで湧き上がってきた眠気に抗おうとせず、俺は寝室に戻って仮眠。
やはり長旅で疲れていたのだろう。
ものの数分で寝付いてしまい、時間にリリスさんが起こしにくるまで目覚める事は無かった。
目覚めてから、簡単に身支度をして夕食へ。
晩餐の席には俺以外にシャルとリシアとレイジュ様とヴァルキア様が同席。
まあ、リベルヤ家サイドとしては婚約者3人と当事者、って感じだな。
「それでは、無事の帰還を祝って乾杯」
一応、この場で一番立場が上なのが俺であるため、自ら号令をかけて乾杯する。
普段は使用人や兵士たちが食事をする方の食堂で済ませるのだが、今日はヴァルキア様という賓客がいるので、来賓をもてなす用の食堂で貴族仕様の晩餐だ。
シャルとリシアとレイジュ様も貴族らしいドレスに着替えていて、それぞれの魅力が引き立てられていた。
ヴァルキア様も連合国の正装で食事に臨んでいる辺り、ちょっとお堅い感じの食事会、といったところ。
なお、俺たちは未成年なので果実水か水を飲んでいるのだが、ヴァルキア様にはおもてなし用のいいワインを出している。
ここいらは一応腐っても伯爵家なので、張れる見栄は張っておこうという所だ。
とはいえ、基本的にはこういった部分はリリスさんとシャルに丸投げなのだが。
「ハイトさんはいつ謁見のご予定ですか?」
貴族らしくコース料理をマナーに沿って食べていると、シャルから今後の予定を尋ねられたので、口の中の物を飲み込んでから答える。
「一応、明日の朝にでも使いを出して、陛下側の予定を確認してからだな。何も無ければ明日中の謁見になるとは思うけど」
「リベルヤ伯爵は働き者ですね。1日や2日休んでからでも文句は言われなさそうですが」
「先にできる仕事を後回しにしたくないだけですよ。それで痛い目見るのが嫌なので」
適度に話しながら、コース料理を黙々と腹に収めていく。
実は結構もう寝たい欲が強い。
そのため、事前に手回しをして、俺の分の夕食は結構軽めにしてもらっている。
夕食を終えて、身支度を済ませたらとっとと寝ようと思う。
不在時の仕事の残りとか、そういうのはもう明日の俺に丸投げだ。
「しかしレイジュ様がまさかこんなに成長するなんて、不思議な事というのはあるものですね」
一応、手紙や先触れでおおよそ起こった事はシャルたちに伝えてはいたが、やはりこうして見ると驚きが勝るようで。
自然と食卓での話題もレイジュ様に向き、俺は黙々と食事を進められた。
コース料理のデザートを終え、食後の茶をしばいてから、俺は疲れが残っているので休むと告げて寝室へと戻る。
シャルたちとヴァルキア様はまだしばらく歓談するらしい。
俺と同じ道を行軍してきたというのに、ヴァルキア様は元気だなー、と思う。
「ふー……あと明日の俺に任せるとするかー……」
歯磨きを済ませ、再度ベッドに横になると、案の定すぐに睡魔が襲ってきたので、抗わずに眠りに入る。
陛下との謁見が無事に終わりますように、と祈りながら、俺は再度夢の世界へと旅立つのだった。
次回は王城であれこれあります。




