ワケあり11人目㉝
「ようやく帰れるな……」
バイレンド傭兵団という主力を失い、勢いを失った傭兵国軍は、連合国軍に押し返され、最終的には連合国から撤退。
戦後処理を含めて開戦から、1ヵ月。
全ての処理を終えた後、ヴァルキア代表は初戦の敗退、その後の損害を出した責任を取って代表を退く。
後任の代表はヴァルキア代表の娘であるネレス様が引継ぎ、連合国は新体制となって再出発を果たした。
その間、俺たちは本国からの指示もあって、連合国の復興支援部隊として働く事になり、丸々1ヵ月を経た今、ようやく帰国できるというわけだ。
「これ、絶対に関係ありそうだよなあ……」
今は連合国と王国の国境を越えて少し経った辺りを行軍しているわけだが、手持無沙汰になったので、俺は懐からある物を取り出す。
ビー玉くらいの大きさの、透き通った石だ。
形状そのものはごつごつとしていて、どこにでも転がっている小石のようなものだが、恐ろしく透明度が高い。
それでいて、欠けたり傷が付いたりしている様子も無い、不思議な材質である。
この石は、気付いたら俺の懐にあったものだ。
これに気付いたのは、連合国に入ってすぐくらいの頃。
その時は忙しくてじっくりと考える事はできていなかったが、傭兵国を退け、連合国で復興支援をしているうちに、いくらか時間が取れるようになったので、色々と考えた。
考えて状況を整理していくうちに、1つの仮設に行き着いたのだが、それについて考えるきっかけになったのは、オルフェさんの一言。
『レイジュ様はどこへ行ったのですか?』
オルフェさんの言葉を聞くまで、俺はレイジュ様の存在が記憶から抜け落ちていたのだ。
俺以外の面々も同様で、国境を越える前まではレイジュ様の記憶があるが、国境前後以降、彼女が記憶から抹消されてしまったかのように忘れてしまっていた。
オルフェさんがなぜ覚えていたかと言えば、彼女もふとした拍子に思い出しただけで、それまではすっかり忘れてしまっていたという。
いかに戦時中とはいえ、こうも綺麗に人の存在を忘れるなど、あるはずがない。
何かしら記憶を改竄、あるいは記憶を消された可能性がある。
そう考えた時、いつ入手したか定かではない謎の石は、この件に大いに関係していそうなのだ。
「その石、精霊の気配がしますね」
うーむ、と悩んでいると、一緒に行動していた元連合国代表、ヴァルキア様から声がかかる。
今回の件で、王国への使者として俺たちにくっついて来ているのだ。
国家元首を退いた彼女は、立場的には外交大使のようなものらしい。
まあ、半分くらいは王国に嫁いだ妹に、久しぶりに会いに行く、という理由もあるようだが。
どのみち必要な事だし、わざわざ別口で行く意味も薄いので、護衛がてら俺たちは一緒に移動している。
この辺りは護衛の兵士を出す余裕の無い連合国と、帰るついでという俺たちの状況が合致した結果だ。
出発前に聞いた話では、折衝なんかもあるのでしばらくは王国に滞在するらしい。
「そういえば、精霊魔術師でしたね」
今は行方不明のレイジュ様も精霊魔術師だった。
同じ精霊に関わる者同士、何かしら感じるものがあったのかもしれないな。
「相当な力を持つ精霊の気配です。並みの精霊魔術師ならば、その石を持った瞬間、気配に当てられて失神するか気が動転してしまうでしょうね」
自ら騎馬を駆り、俺の隣にぴたりと馬を付けてまじまじと手元の石を覗き込んでくる辺り、なかなかに興味を引かれているらしい。
精霊関連の知識は殆ど無いので、有識者が近くにいるのは幸運だったのかも。
「私には何も感じられませんが」
「あなたのような化け物魔力量があったら、大概の事は気になりませんよ」
相当な気配とやらも、俺には感じ取れなかったのだが、その事を素直に伝えると、ヴァルキア様に呆れた目線を送られてしまう。
なまじ、復興支援中に俺がバンバン魔術を使いまくっているのを見ていたからだろうか。
街道整備やら死体焼却やら、それはもう派手に魔術を使いまくったからな。
無理も無い事ではあるのだが、それはそれとして化け物扱いされるのは甚だ遺憾である。
「それで、何か精霊の気配以外にわかる事はありますか?」
「それ以外には何も。ただ、その石が精霊に所縁のある品なのだとしたら、その時が来るか、あるいは関連する場所に近付けば、何かしらの反応があるかと」
「要するにわからない、って事ですね」
何か手がかかりを得られるか、と思ったものの、そんなに都合のいい展開にはならず。
とはいえ、全く手掛かりが無いというわけでもないし、収穫も無しではない。
タイミングか、あるいは場所か。
とにかく、なにかしらのきっかけが必要な状態であるようだ。
「場所……か」
タイミングに関しては、恐らくはこちらから、どうこうできるものではない。
従って、現状では場所について考察する事が精一杯だ。
わかりやすく考えるのなら、記憶の飛んでいる国境付近、あるいはレイジュ様の精霊が王城付近で知り合った、という話が有力か。
王城は嫌でも行く羽目になるから、消去法で国境付近を探るのが良さそうだ。
とはいえ、ヴァルキア様という同行者がいるので、あまり長々と寄り道はできない。
「この辺りで、精霊の力や気配を感じる場所はありますか?」
「いいえ、この辺りはむしろ精霊の気配が薄いですね。野生の精霊の力を借りるには少々苦しいかと……」
餅は餅屋とばかりにヴァルキア様に問い掛けてみるものの、むしろ精霊の存在が薄いと返されてしまう。
となると、やはり王城の方か?
思考の海に意識が沈みかけた時だった。
「何だ……?」
「身体が……!?」
突如として、身体の自由が奪われる。
俺以外の人物も例外無く、謎の力で動けない。
魔術によるものなら、俺のバカ魔力で無理矢理突破できるはずだが、そうならないという事は、魔術以外の何かなのだろう。
力が抜ける、というよりは、喋る事はできるがその場で全く動けない、といった状態だ。
「まさかバイレンド傭兵団を破るとは、恐れ入ったぜ。おかげで計画がパーだし、上納品のアテも外れだ。やれやれ、これじゃお上にどやされちまう」
聞き覚えの無い男の声。
風に香る煙草の匂い。
十中八九、俺たちの身体の自由を奪った犯人だろう。
「ま、エルフと竜人族と鬼人族と吸血鬼族、あとは……よくわかんねえ獣人族っぽいやつ、5人も珍しいのがいれば、まァ何とかなるか」
姿を隠すでもなく、真正面から姿を現したのは、見覚えのある男だった。
「マジャン……ッ!」
片目が傷で潰れている竜人族の男。
目下、捜索していた重要参考人。
「おん? お前みたいな子供に名乗った覚えは無いが……どっかから情報が漏れたかァ? まあいい。どうせ目撃者は消す事になるんだ。せいぜい無駄吠えしてな」
身体の自由さえ効けば、あんなヤツ……速攻で取り押さえてやるのに!
「ま、大人しくおねんねしてな。そしたら、楽にあの世に送ってやるからよ」
マジャンは、懐から巾着袋のようなものを取り出し、その中から粉を撒いた。
ちょうど風向きは俺たちに向かっているようで、風に舞った謎の粉が俺たちの方に飛んで来る。
吸い込んだらまずい、と息を止めるも、粉が肌に触れた瞬間、急激に眠気で意識が遠のいていく。
クソ、これ触れただけでアウトかよ……ッ!
このままじゃ……意識……が……。
不意打ちの絶体絶命大ピンチ。
果たしてどうなる?




