ワケあり11人目㉜
「部隊長の中では1番弱かったとはいえ、こうも容易くフォルカを屠るか……どうやら、お前の事を見くびっていたらしい」
ちらりと俺の後ろに転がるフォルカの死体を見て、総団長は忌々しげに顔を歪めた。
かと思えば、担いだ大剣を構えるでもなく、こちらを見据えている。
問答無用で襲い掛かって来ないのは、こちらとしてはありがたい。
とはいえ、何を企んでいるのやら。
「……お前、俺たちと組む気は無いか?」
むっつりと黙ったかと思えば、総団長は意外な提案をしてきた。
部隊長という大きな戦力を失った割には、友好的というかなんというか。
「俺が、そっちと組むって? それで俺にどんな得がある?」
時間を引き延ばせるのなら願ったり叶ったりなので、とりあえず総団長の話に乗っかっておく。
こっちとしちゃ、頷く気は一切無いけどな。
「お前はバイレンド傭兵団という極大戦力を自由に動かせるようになる。そうすれば、大陸に覇を唱え、統一する事も、世界を掌握する事もできるだろう」
世界。
世界ね。
自分たちが強いと自信を持つのは結構だが、世界進出とは大きく出たな。
とはいえ、何となくヤツらの目的は見えた。
要するに、自分たちの実力を誇示し、その力で征服する範囲を増やしたいのだろう。
征服範囲が増えれば、それだけ広い範囲で色々なものを略奪できる。
彼らのような、略奪に抵抗感を持たない傭兵団ともなれば、それは魅力的なはず。
何なら、足りないものを補うために、それを持つ相手を襲い、奪う。
自分たちで生み出す努力をせず、奪う事で目的を達するという事だ。
「ハッ、随分と大口を叩くじゃないか。そこまで言う割には、部隊長はお粗末だったぜ? 多少魔術の腕はあったみたいだが、それだけだ。それに、略奪行為に抵抗の無い猛獣を飼うのは御免被る。躾をするにゃ、あまりにも労力がかかりすぎるしな」
ちょっとした挑発を織り交ぜて、お前らと組む気は無い、と返してやると、総団長の顔が怒りに歪む。
さすがにこれはキレるか?
「……そちらの考えは、良くわかった。我々の敵となるなら、この場で討ち滅ぼすのみ」
さすがにスイッチが入ったようで、総団長は馬を駆って、こちらへと突っ込んでくる。
真正面からあの巨体と打ち合う気は無いので、俺は合図を出してヴァルツを反転させ、ギリギリ相手が追い付けそうで追い付けないくらいの速度で逃走。
「逃さん! 後の障害となる者は、この場で殺す!」
左手で手綱を操りつつ、右手のみで分厚い大剣を小枝のように振り回す総団長から、俺とヴァルツは逃げ回っていく。
時折、近くのバイレンド傭兵団の集団に突っ込んで身代わりにしてみたものの、ヤツは味方を巻き込もうとお構い無しで大剣を振り回す。
どうやら、多少味方を巻き込んででも俺の事を抹殺したいらしい。
『味方も構わずとは……あの者の仲間には同情せざるを得んな』
「同感だ。でも、さすがにアレと正面からやり合うには、今の俺じゃ色々足りん」
俺たちという目標に当たらなかった総団長の大剣は、味方を巻き込み、不幸な者は肉塊へと変えられた。
その威力たるや、斬り飛ばすだけでなく、余波で死体を大きく損傷させている。
振るっているのが大剣でなく、鈍器系統だったのなら、人間の肉体など爆散しているだろう。
これは本格的にカナエの防御力が欲しいな。
一応、魔術防壁で防げない事は無いだろうが、もし万が一にも、総団長が魔術を無力化できるような戦技を使える場合を考えると、なるべく直撃はもらいたくない。
であれば、逃げの一手で時間を稼ぐ。
戦力が足りないのなら、整うまで時間を稼ぐのも立派な戦略だ。
「おのれ逃げるか! 伯爵ともあろう者が、恥ずかしくないのか!?」
後ろから迫る総団長が怒号を発するが、俺は受け流して逃走を続ける。
逃げるは一時の恥、負けるは一生の恥ってね。
要するに、勝てば良かろうなのだ。
「こんな子供1人捕まえられないようじゃ、最強の傭兵団の実力も、たかが知れてるな! 鈍足の傭兵団に名前を変えたらどうだ!?」
背後から追ってくる総団長に、挑発を返す。
ヴァルツの走力なら、この場から総団長を振り切って離脱するのは容易いが、この特記戦力を自由にさせると、さすがに戦況が壊れかねない。
連合国軍に至っては、ヴァルキア代表が説得して兵士を連れてきているが、それは俺たちがバイレンド傭兵団を請け負うからだ。
バイレンド傭兵団を俺たちが受け持てず、連合国軍に向かってしまえば、たちまち士気が落ちて戦線が崩壊してしまうだろう。
さすがにうちの戦力だけで万単位の相手をしながら、特記戦力とも戦うのは無理がある。
だからこそ、カナエたちが応援に来るまでは、俺が総団長を釘付けにしておく必要があるわけで。
幸い、こちらに執着してくれているので、付かず離れずの距離を維持しながら追いかけっこを演じているというわけだ。
「さて、そろそろ反撃の時間か」
こちらへと向かって来る強大な気配を察知し、俺はヴァルツを止まらせ、総団長へと向き直る。
今まで逃走していた俺が急に足を止めたので、罠を警戒しているのか、総団長は怪訝な表情で足を止めた。
しかし、今までの追いかけっこで限界を迎えていたのか、総団長の馬は脚を折ってそのまま横転。
動かなくなってしまう。
まあ、あの巨体と大剣の重量を考えれば、いくら馬体が大きくとも相当な負担がかかる。
むしろ、相当頑張った方だろうな。
「チッ、馬が潰れたか」
動かなくなった馬を忌々しげに睨み、総団長は大剣を正眼に構えた。
どうあっても俺を逃がすつもりは無いらしい。
「もう逃げるのはやめたか!?」
「ああ。もう時間稼ぎは終わりだ」
「なら、死ね!」
一足飛びに俺へと距離を詰め、大剣が振り下ろされる。
本来なら、慌てて避けるか防御する所だが、もうその必要は無いため、俺は何もせずにその場に佇む。
直後、俺と総団長の間に割り込む存在があった。
大剣と大盾がぶつかり、鈍い金属音。
「俺の一撃を、受け止めただと……?」
「お待たせ」
総団長が両手で握る大剣を、左手の大盾で防いだカナエは、そのまま左手だけで総団長を押し返す。
後ろに飛び退きながら、総団長は困惑の表情でカナエを見る。
「ハイトは私が守る」
「お前だけいいトコ持ってくんじゃねーよ!」
カナエが来た、という事は。
空中から魔力の弾丸が総団長を襲う。
それを放った張本人であるジェーンが、カナエのすぐ横に降り立つ。
「もう1人だと!?」
「私が最後ですか。そこそこ時間がかかってしまいました」
ジェーンが追加で合流してきたかと思えば、恐らく返り血を浴びたであろう、フリスが悠然と歩きながらこちらへ合流してくる。
3人目の増援に、総団長が無言で目を剥く。
「さて、俺の味方が合流してきたって事はだ。そっちの自慢の部隊長たちは、全員討ち取られた。残るは、お前だけだ」
作戦通り、と俺は笑みを浮かべた。
もはや、ここまで戦況が思い通りになってしまうと、笑わずにはいられない。
バイレンド傭兵団には、正確には背後にいるであろう竜人族の商人には、色々と辛酸を舐めさせられたものだ。
今から、それに熨斗を付けて返してやるぜ。
全員集結完了。
次回から、合流までの各視点を順に入れます。




