ワケあり11人目㉛
「風刃大竜巻!」
がっちりと正面からぶつかり合う、連合国軍と傭兵国軍。
ちょうど連合国軍の頭上を飛び越した先、傭兵国軍の中腹の辺りに、俺は広範囲を風の刃で斬り裂く魔術を発動。
いきなり現れた斬撃の嵐に、傭兵国軍は浮足立った。
その隙に、俺たち個人行動担当は、敵陣のバイレンド傭兵団部隊長をそれぞれ目指していく。
結構な広範囲を指定したし、それなりに敵に被害を与えてくれるだろう、と思っていた風の魔術だが、程なくして勢いを失い、効力を失う。
自然に消えるにしては、早すぎる。
間違い無く、俺の魔術に干渉した誰かがいるな。
俺の魔術に干渉した何者かを警戒しながら、ヴァルツを駆って敵陣を突き進む。
恐慌状態に陥っている敵兵士を、雷を纏ったヴァルツが蹂躙し、踏み砕く。
順調に進めば、このまま目的の部隊長を見つけられそうだ。
『む、雑兵とは比べ物にならぬ気配があるぞ』
「こっちでも捉えてる。どうやら、向こうから出張ってくれたみたいだな」
敵陣を突き進みながら、ヴァルツが注意を促す念話を飛ばしてきたが、俺の方でも気付いてる。
明らかに目立つ、大きな魔力。
俺には遠く及ばないが、それでも人という括りで見れば、相当な魔力の持ち主だ。
恐らく、俺の討伐目標であるバイレンド傭兵団代4部隊長、フォルカ・クアッドだと思われる。
どっしり構えてるかと思いきや、向こうからこっちを止めに来たらしい。
まあ、大規模魔術は向こうに止めないとヤバイ魔術師がいるぞ、という警告の意味もあるので、誘い出しに乗ってくれたとも言える。
「……子供か。さっきの風の魔術はお前の仕業だな?」
立派な黒馬に跨り、俺たちの行方に現れたのは、細身の神経質そうな男。
右手に剣、左手に短杖を持った、魔術剣士スタイルの男だ。
奇しくも俺と同じ構え、という事か。
「いかにも。そっちから顔を出してくれるなんて、探す手間が省けたってもんだ。フォルカ・クアッド第4部隊長?」
右手のルナジアムをフォルカに向けて不敵に笑えば、ヤツはあからさまに顔をしかめる。
「僕の事を知っているか……さしずめ、魔術が使えるから、僕を抑えに来たという所だろう。だが、残念だったな。僕は魔術も剣術も普通より断トツに強い。お前のような子供に、負ける道理は……」
前置きが長い。
いかにも、自分の都合のいいようにしか物事を解釈しなさそうな相手だ。
付き合うのもアホらしい、と俺は無造作に風の刃をフォルカの首に向けて放つ。
これで幕となるなら、楽ではあるけどなあ。
「おい! まだ僕が喋っているだろうが! 他人の口上の途中で攻撃するとは、一体どういう教育を受けたらそうなるんだ!」
さすがに、サラッと首を飛ばして終わりとはいかないか。
視覚的に見えにくくした魔術に気付き、抵抗を決めてくる程度には魔術に通じているらしい。
どうやら、少々ナメすぎたようだ。
「全く、これだから戦の美学を理解しない子供は……こうなったら、僕が教育してあげるよ!」
さすがに不意打ちは頭に来たらしく、フォルカは次々と魔術を放ってくる。
連射の効く魔術で弾幕を張りつつ、時折威力の高いものを混ぜ込んでくる辺り、かなり手慣れたものを感じるが、俺の魔術防壁を抜くには威力が足りない。
あまり時間をかけてもいられないし、ササッとケリを付けるか。
さすがに大規模魔術をこの辺りで撃つと、味方を巻き込みかねないので、封印。
かと言って、威力と範囲を絞った魔術では時間がかかりすぎる。
そこで、俺は魔術防壁の固さを頼りに、真っ直ぐとフォルカに向けて距離を詰めにかかった。
「魔術戦で勝てないと見て、近接戦に来たか。けど、僕は剣もつよ――」
「瞬雷の突撃」
俺とヴァルツは、人馬一体の雷となってフォルカを通り過ぎる。
念のため、と振り返ってみれば、遅れてフォルカの上半身と下半身が2つに分かれた。
手早く決めるのに、魔戦技を使ったけど……うん、ちょっとオーバーキルだったかもしれん。
まあ、いらん時間を食うよりは良しとするかね。
この後に総団長というバケモンが待ってるし。
『口ほどにもない人間であったな』
「ま、幹部と言っても末端だ。カナエたちに強い連中を押し付けてるし、俺たちは少しばかり雑魚を念入りに掃除して、連合国が擦り減らないようにしようぜ」
『心得た』
フォルカを討ち取った俺とヴァルツは、周囲のバイレンド傭兵団を減らしながら前に進んでいく。
このまま、とんだ化け物と噂の総団長と対峙する事になりそうか。
とりあえず、しばらくは時間稼ぎに徹しよう。
敵陣に深入りした結果、王国軍の大将である俺がうっかり死ぬのが一番良くないし。
「フォルカ部隊長がやられてるぞ!?」
「他の部隊長に救援を依頼しろ!」
「悪いが、圧倒させてもらう!」
態勢を立て直そうと動く、小隊長ポジションの兵士に狙いを定め、俺とヴァルツが襲い掛かる。
そうこうしているうちに、とてつもない威圧感のある存在が、こちらに近付いているのが感じ取れた。
恐らく、このただならぬ威圧感は、総団長のものだろう。
「真打登場、ってトコか」
浮足立つ傭兵たちを掻き分けて、無骨な大剣を担いだ大男が馬でこちらに向かってくる。
馬の方も相当に大きいはずだが、あの大男はそれを超えており、馬が小さく見えてしまう。
身長は間違い無く2メートルを超えており、見るからにパワーファイターという様相だ。
しかも、顔は髭面で威圧感がすごい。
どうやら、俺がフォルカを即殺しすぎて、最初に目を付けられたみたいだな。
ちょっと計算外だ。
「ハイト・リベルヤだな」
「いかにも」
俺を目視できる距離で足を止め、総団長がこちらを睨む。
ヴァルツほど立派でないにしろ、恵まれた馬体の馬だが、やはり彼を乗せるには小さそうだ。
「1度ならず2度までも邪魔をするか」
「大人しく小国家群で縄張り争いをしてれば良かったのにな。こうして出てくるから叩かれるんだ」
捕捉されたからには、戦闘は避けられない。
正直、誰かしらの救援が来るまでは耐えられると思いたいが、リシアやジェーンですらタイマンを拒否するような相手だ。
油断などできようはずも無いわけで。
少なくとも舌戦で負けるわけにはいかない、とちっぽけな虚勢を張る。
震えそうになる足に力を入れ、精一杯に虚勢を張りつつ、あわよくば会話で時間稼ぎにかかっておく。
無駄な会話で時間を使ってくれれば、俺の勝ちの目が増えるのだ。
そう自分に言い聞かせて、俺は頭脳をフル回転させるのだった。




