ワケあり11人目㉚
「……どうしても、気は変わりませんか?」
傭兵国の主力を迎え討つべく、俺たちは西へと進んでいた。
あくまで連合国軍を先頭に、俺たち王国の戦力と試用期間の3傭兵団は、その後ろに続く形だ。
あと1時間もすれば、傭兵国の主力と接敵するであろう頃合いに、フリスから控えめながらも問い掛けられる。
今回の作戦においては、フリスにも前線に出て暴れてもらう。
そのため、俺の護衛がいない。
それが心配でたまらない、という事だろう。
元より過保護な感じではあるのだが、影という彼女の役目を考えれば、致し方ない部分もある。
「勝つにはこれしかないからな。どこかを欠かすと戦線が保たない」
今回、俺、カナエ、ジェーン、フリスの4人がそれぞれ単騎で動く理由の1つに、敵方のバイレンド傭兵団の戦力に4人の規格外がいるからだ。
第1から第4までの部隊長がそうなのだが、彼ら4人と総団長の5人が暴れ散らかして、連合国は初戦敗走の憂き目に遭っている。
同じ轍を踏むわけにはいかない。
一応、オルフェさんをどこかしらに宛てて、フリスを護衛に専念させるという手も無くはないが、状況に応じて動ける戦力がいないと、場合によっては時間稼ぎの連合国軍が瓦解しかねないというジレンマがある。
兵士の士気を上げる意味では、フリスを単騎で応援に動かすよりか、僅か100騎であろうと数の見える応援があった方がわかりやすいのだ。
あとは兵士を率いる問題もある。
一応、カナエとジェーンは元々部隊運用の知識を付けさせているのだが、今回は単騎戦力としての運用になるので除外。
エスメラルダも裏で1番負担のかかる場所を担当するので無理、俺も単騎戦力運用なので指揮をする余裕が無い。
フリスはそもそも単騎特化型なので指揮能力が無いし、消去法でもある。
しかし、平時には学びを得る目的で、時折激務の王城筆頭医務官の応援として働いているため、意外と人を使う事自体はできるのだ。
だからこそ、無理ではないと判断し、オルフェさんに騎兵100騎を預ける事にした。
なお、騎兵100人の指揮を命じられた本人は、現在緊張で1人百面相をしているが、何だかんだで本番に強いタイプなのであまり心配はしていない。
「ま、これもリベルヤ家の今後のためだと思って頑張ってくれ。俺の事が心配なら、ターゲットを手早く獲って合流するんだな」
一応、敵部隊長4人に関しては、おおよその情報と配置は暗部の働きによって掴んでいるので、各々を相性のいいであろう相手に宛がう予定の配置をしている。
それで、4人を倒したら全員で総団長に向かう、という筋書きだ。
戦闘が始まってしまえば、諸々と出たトコ勝負にはなるが、現状戦力で勝ちを掴むにはこれしかない。
想定外が起きても、その場で都度修正をするしかないのだが、できれば最初っから総団長が出張ってくるのは勘弁だな、と思う。
異変を察すれば出てくるだろうが、それまでに部隊長の1人か2人は減らしておきたいな。
そうすれば、局所的に人数有利を作りながらゆっくりと敵の大将格を削っていける。
「わかりましたよ……ですが、約束して下さい。絶対に、ぜーったいにご自分の命を優先して下さい。窮地に陥っても、時間させ稼いで頂ければ、私たちの誰かは必ず駆け付けます。それすらも間に合わないようなら、私たちを置いてでも逃げて下さい。主様は、もう代えの効かない存在なのですからね。何かあれば、奥様も悲しみます」
「わかってるよ。前から何回も言ってるけど、死ぬつもりは最初っから無いっての。状況が命懸けになる事を強要してくるだけだよ」
それだけ危ない事に首を突っ込んでてて、リスクを踏んでいるという話ではあるのかもしれないが。
でも、踏まないようにしてもリスクは向こうから当たり屋してくる事もある。
だから、俺悪くないと思うんだけどね。
「およそ20分後程度に連合国軍が接敵します」
フリスとあれこれ言い合っていたら、斥候に出している暗部から、状況の報告が来た。
今回は、こちら側から仕掛けに出てきているので、恐らくはヴァルキア代表が戦闘開始時に声を上げるはず。
ちなみに、戦闘が始まって、ある程度相手の動きが見えてくるまでは、俺たちは動かない。
一応、暗部に色々と調べさせているが、相手が直前に陣形を変えたりするような可能性もある。
より正確な情報を得て、確実に主力を潰す必要があるのだ
「ま、あとは連合国軍の頑張り次第だな」
ヴァルキア代表が決戦を行うと連合国軍に通達し、恐らくは戦死率の高いこの戦いにおいて、命を懸けて将来の礎となる覚悟のある者たちを募った。
その数は生き残った連合国軍全体のおよそ4割。
人数にして、2万にギリギリ満たないくらいだ。
残る3万弱の兵士たちを首都の防衛に残し、俺たちは出張ってきた、というわけである。
対する傭兵国軍は、およそ4万弱程度で、そのうちの1万はバイレンド傭兵団、残りは複数の傭兵団の組み合わせによる兵力なので、俺たちが1万を担当すると考えるのなら、およそ同数といったところ。
士気においてはあまり心配はしていないが、たっぷりと休息を取った傭兵国と、連戦続きで休息は最低限の連合国軍では、体調面においては不利だろう。
『連合国の兵士たちよ! 今こそ土足で国土を踏み躙る逆賊と雌雄を決しましょう! これが最後の戦いです!』
魔術で拡声されたヴァルキア代表の声が、こちらにも聞こえてきた。
それから間を空けずに、兵士たちがぶつかり合う音も。
予定通り、戦闘が始まった。
あとは、手筈通りに動くだけだ。
「よし、みんな所定の位置に付け。俺が合図の魔術を撃ったら、それぞれ目標に向かって前進。目標を倒したら、そのまま合流して総団長を討つ。あえて言う。誰も欠けずにこの戦い、乗り切るぞ!」
カナエたち幹部と、100人の騎兵たちに聞こえるよう、俺は最後の声掛けを行い、それぞれが所定の位置に付く。
あとは、折を見て戦況を動かすだけだ。
願わくば、この戦いで王国の戦力が損耗無く、連合国側も可能な限り被害を抑えられるようにあればと思う。
柄にも無い祈りを思い浮かべながら、俺は暗部が敵陣の配置情報を持ってくるまでの時間を待つ。
「敵配置、割れました。カナエ様たちの元にも同時に情報を送っております」
連合国兵と傭兵国兵がぶつかって、10分程度はかかっただろうか。
今か今かと緊張状態で待っていたので、この時間間隔に自信は無いが、とにかく時はやってきた。
暗部からの報告を聞きながら、俺は魔術を使うために魔力を編み上げていく。
開幕のドデカイ花火をな。




