ワケあり11人目㉙
「これから、本格的な首都攻めが来ます。ですが、我々には敵方に抗し得る戦力はもうありません。時間稼ぎは可能ですが、ただそれだけです」
とりあえずの戦後処理を終えてから、連合国首都の中央政庁にて、俺とヴァルキア代表とで、今後の協議を行っている。
協議、と言っても連合国側は初戦で有力な将が大方戦死しており、敵の戦力が数で覆せぬものである以上、ただ時間を稼ぐ以外の手段が存在しない。
それゆえに、今後の妥協点を探るための会議、という意味合いが殆どだ。
「王国としては、これからの方向性として3つの道を提示します。1つ目は、我々を含む現存戦力での電撃戦です。援軍は望めませんが、相手の主力を手早く潰せれば、一番勝ち目があるかと。2つ目は、王国と帝国に援軍を要請し、時間稼ぎに徹する事です。援軍到着まで耐える事ができれば、確実に勝ちに持っていけますが、個人的には現存戦力では些か厳しいかと考えます。仮に勝てたとしても、王国と帝国に多大な借りができる事、相手は略奪を躊躇しない相手ゆえに、進軍路にある街や集落は被害を免れない事、兵士たちの人的被害は相当数に上る、というデメリットがあります。3つ目に、全てを放棄し、王国へと亡命する事です。側妃様の姉妹であるヴァルキア代表を保護する用意が王国にはあります。が、当然連合国は滅ぶでしょうし、二度と戻る事は叶わないでしょう」
3つの選択肢を提示はしたものの、実質的に選べるのは2択かな、と個人的には考えている。
現存戦力的に、受けの戦いは勝ち目が殆ど無い。
うちの兵士たちは全員が騎兵での構成なので、攻める側に回れば強いが、受けはそれほどでもないし、いっそ馬を降りる事になるだろう。
それでも、1人が一般的な兵士の10倍くらいは強いはずなので、それなりに善戦はできるだろうが、数で大きく不利な状況の守りという消耗戦に耐えるのは無理だ。
というか、ヴァルキア代表が2つ目の選択肢を取った時点で、リベルヤ家としては支援を打ち切らざるを得ない。
絶対に負けるとわかっている戦場に兵士たちを出せないからな。
というか、有能な人材を犬死にさせたくないし。
1つ目と3つ目は、どっちもどっちではあるが、どちらに転んでも王国側に不利にはならない。
強いて言うのなら、1つ目は主にリベルヤ家の戦力が貧乏くじになるのだが、これで勝つ事ができれば連合国に多大な貸しを作れる。
その上で王国内での地位もより安定するので、ハイリスクハイリターン。
3つ目は、ただヴァルキア代表たちを連れて王国に戻るだけなので、これといってメリットもデメリットも無い。
連合国に援軍に出されるに当たって、独自の裁量権は持たされているので、これが落とし所だろうと思う。
「……リベルヤ伯爵は、勝てると思いますか?」
ヴァルキア代表は、弱り切った表情でこちらを見た。
まあ、国の存亡がかかっているのだから、即断即決というのも難しいだろう。
とはいえ、時間があると言えるわけでもないので、なるべく早めに決断してほしいものだが。
「攻めるなら、勝ち目はあると思っています。もっとも、1番負担のかかる場所は、兵力のある連合国側に担ってもらう必要はありますが」
完全に内容を明かすわけではないが、俺の構想を話す。
まずは俺たち王国の戦力は完全に攻撃に振り切る。
そのため、勢いのある敵の先鋒は連合国に受けてもらい、時間稼ぎをしてもらう必要があるのだ。
俺、カナエ、ジェーン、エスメラルダ、フリスは単騎でどうとでもなるので、100の騎兵はオルフェさんに預けて遊撃をこなしてもらう。
あとは単騎戦力が各々で敵の大将首を目指す。
それこそ周囲の被害を考慮しなければ、逃げるのはどうとでもなるし。
試用期間の3傭兵団には、連合国の補助に入ってもらう。
作戦規模的に、大なり小なり被害は出る事が確定しているので、そこは割り切る。
最善を言うのなら、犠牲が出ないのが1番ではあるのだが。
間違い無く、1番大きな被害を出すのは連合国だ。
とはいえ、既に相当数の被害を出しているし、連合国単体では既に負け確定の状況をひっくり返せるのなら、払う価値のある犠牲だろうと思う。
恐らく、戦後の復興には王国と帝国の力を借りるしかないだろうが、それでも国の滅亡という最悪の事態は防げるし。
「……ここで全てを放り出して逃げられたら、どれだけ楽だった事か」
ヴァルキア代表が、聞こえないよう、小さく呟いたであろうそれは、静まり返っていた部屋の中にハッキリと音を残した。
この言葉が出るという事は、決断した、という事だろう。
「……戦いましょう。元より民たちを守るのが我々の役目。被害を最小限にできなかったのは、私の落ち度ではありますが、責任を取るのは事態を収拾してからです。リベルヤ伯爵、肝心要の攻撃の方を任せきりにしてしまうのは申し訳ありませんが、最後までご助力頂ければ幸いです」
「元より、こちらも打算あっての提案ですのでお気になさらず。それでは、細部を詰めましょう」
ヴァルキア代表の決断が鈍らぬうちに、と作戦行動の細部を煮詰めていく。
とはいえ、敵軍の矢面に立ち、攻撃を受け止めて時間を稼ぐのは連合国以外に務まらない。
主力を悉く失ったとしても、万単位の兵士というのはそれだけで一定の暴力なのだから。
こればっかりはリベルヤ家の戦力がいかに精兵だろうと埋めようが無いのだ。
「……それでは、決戦は3日後ですね」
「そうなります。お互いに極力被害が出ないよう祈りましょう」
自軍の兵士たちを説得するのはヴァルキア代表の仕事である。
連合国側は、きっと再度正面衝突をするとなれば、拒否反応を起こす兵士も多いだろう。
ハッキリ言って、連合国側が早々に潰走してしまえば、俺たちも勝ち目が無くなる。
とはいえ、そうなれば俺たちは自分たちだけスタコラサッサと逃げ出すだけだ。
さすがに見える滅亡に付き合う意味は無いからな。
そういう意味では、騎兵のみの構築なのは身軽でいい。
3傭兵団に関しては、各々で何とかしてもらうしかないだろう。
とはいえ、俺たちが逃げる状況が見えたら逃げの指令は出すので、あとは各団長の指揮能力次第といった所か。
「では、明日以降もよろしくお願いします」
話すべき事は話したので、俺はヴァルキア代表の元を辞して、首都外に野営している仲間たちのところに戻っていく。
ヴァルツを駆って野営陣地に戻る道すがら、どういう指示を出すかを考えていたら、ものの数分くらいの体感で、陣地に到着してしまっていた。
「エスメラルダ、いるよな?」
自分の天幕に入ってから、適当にエスメラルダの名前を呼んでみれば、暗闇から浮かび上がるようにして、エスメラルダが姿を現す。
恐らく、何らかの魔術で姿を消していたのだろう。
「ちょうど、戻ってくる頃だと思ってたわ」
少しだけ疲れた様子だったが、彼女はいつも通りの調子だ。
違う所があるとすれば、いつものスーツ姿ではなく、暗殺者らしい薄手の黒装束を纏っている所か。
色が黒いので目立たないが、所々に血痕があり、少し鉄臭い。
「ああ、これは返り血だから気にしなくていいわよ。私は怪我してないわ」
俺の視線が血痕にいっているのに気付いたのか、エスメラルダは苦笑いを浮かべながら立ち姿勢を少し楽なものにした。
怪我を庇っているような様子が無いのを確認し、俺は今後の指示を彼女に伝えていく。
「敵の斥候は潰せてるか?」
「ほとんどはね。けれど、数は向こうの方が多いわ。こちらの手の内を極力晒さない、という制限があると全部を排除するのは無理ね」
元々、俺はエスメラルダに敵の斥候を潰していくよう指示を出していた。
先発の首都包囲軍が敗走したとなれば、相手が斥候を増やして情報を取ろうとするのは想像できたからだ。
とはいえ、今回のヴァルキア代表との打ち合わせ次第では、決戦の際にエスメラルダの全力を使ってもらうポイントが絶対に出てくる。
なので、俺はエスメラルダに体力を温存しておくよう指示を出していた、というワケだ。
「それでいい。恐らく、決戦の日は俺やヴァルキア代表を狙う腕利きの暗殺者が出てくるはずだ。そこだけは必ず止めてくれ。それまで余力は残していい。その代わり、ヤバい暗殺者が来たら全力で獲ってくれ」
「了解よ。全力で警戒しておくわ。ちょうど、敵の斥候は手痛い被害を与えて追い返しておいたわ。いくらか情報は向こうに渡るでしょうけれど、こちらが攻めに転じるという情報は渡らないはずよ」
「わかった。引き続き頼む」
指示を終えると、エスメラルダは赤い霧となって、天幕から姿を消す。
とりあえず、状況に応じて指示を変えにくいエスメラルダと話す事はできたので、次の指示は……と脳内を整理しながら、俺は次の人物を呼び、各所に指示を行き渡らせていくのだった。
次回、傭兵国との決選がスタートします。
ワケあり11人目は、恐らく過去最大のエピソード数となります。
区切りとしては、傭兵国との戦争終結までになりますが、お楽しみ頂ければ幸いです。




