ワケあり11.4人目
今回は傭兵国側の視点です。
「総団長! 首都を包囲してた連中が逃げ帰って……」
先行させて連合国首都を包囲させていた部隊が潰走してきた、という緊急事態を伝えにやってきたバイレンド傭兵団員は、総団長の部屋に駆け込むなり、その思考を停止させた。
咽るほどに濃い情交の臭い。
連合国攻略拠点として抑えた国境砦の1番大きな寝室だったが、そのベッドに全裸で寝転がっていた筋骨隆々の大男、総団長は、突然の来客に煩わしそうな表情を浮かべながらも、文句までは言わずに起き上がる。
両手足は丸太のように太く、熊ですら小さく見えるほどの巨漢。
加えて、髭面の強面とくれば、かなり威圧感がすごい。
「随分と慌てていたが、何かあったか?」
総団長は服を着るでもなく、全裸のまま腕を組んで仁王立ちし、突然の闖入者を見た。
(いいから服くらい着ろ)
総団長補佐を担う男は、この大男のズボラさに内心で溜息を吐く。
とはいえ、部屋の中にいる女性たちを見ると、ある意味でご愁傷様、と言いたくなってしまう。
ここに来るまでに略奪で得たか、捕虜の中から彼が気に入った女性を集めた人数は20人近いが、全員が総団長との行為を強要され、相当に激しく犯されたようで、例外無く全身を痙攣させながら気絶している。
たった1晩でこの有様なので、きっと彼女たちはもう、普通には戻れないだろう。
そんな益体も無い事を考え、いつもの事だと総団長補佐の男は小さく頭を振った。
「首都に向かわせてた部隊が潰走してきた。うちの団員も半数くらいまで減ってるし、同行させてた傭兵団の3つが裏切って敵方に付いたらしい」
味方の裏切り、団員の損害。
その報告を聞いた総団長は、眉間にシワを寄せる。
ただでさえ威圧的な強面が、更に威圧感を増したが、いつもの事なので総団長補佐の男は気にせず続けた。
「それで、どうする? あちらさんも万全ではないとはいえ、それなりに態勢を立て直してるだろう」
本格的な首都攻撃を前に、駆け足で連合国攻略に来た本隊の休息を取っており、数日中には進軍を再開する予定だったわけだが、根本的な動きを変えなくてもいいのか、と訴えかけて返事を待つ。
「……進軍は予定通りに進める。が、陣形は変える。それと、情報が欲しい。斥候を多く出して情報を拾わせろ。大方、王国からの援軍だろうとは思うが、こちらの警戒網には情報が来ていなかったな?」
「ああ。おそらくだが、少数の部隊か、小分けにした部隊で警戒を抜けられたな。これに関しちゃ相手が上手だったと言わざるを得ない。一応、西側の国境はかなり密に押さえてたはずだが」
王国に攻めた側が大敗を喫して敗走した、という情報自体は拾っていたので、そのまま王国軍が南進してこちらに合流してきても対応できるようにはしていた。
しかし、警戒網を抜けられたのか、その情報が無かったため、首都包囲軍への奇襲を許してしまった、というわけだ。
状況を整理するように総団長はむっつりと黙り込み、両目を閉じて黙想する。
総団長補佐の男は、そのまま黙って待つ。
想定外の状況に当たった際には、毎回こうなるからだ。
「……もし、王国側の趨勢が決まりきる前に、向こうが援軍をこっちに寄越していて、警戒していた西側でなく、南側の国境を越えてきたとしたら? それなら説明が付くと思わないか、ダズール?」
総団長が出した想定に、総団長補佐の男——ダズールは、なるほど、と頷く。
王国側の総指揮官は戦巧者として知られるアーミル侯爵だ。
バイレンド傭兵団をもってしても、損耗を考えれば真正面から戦いたくはない。
そんな評価を下されている人物だけに、相手側が早々に流れを読み切り、こちらへ援軍を差し向けていた、というのは充分に考えられる。
だからこそ、王国と連合国を同時に攻める事で、本命であった連合国への攻撃を通そうとした。
さすがに自国を攻められた状態で、アーミル侯爵自身が動く事はできないだろう、という作戦だ。
だからこそ、数だけは立派な傭兵団を中心に、大きな戦力を用意させたわけで。
もっとも、数を頼みに大きくなった烏合の集で、傭兵国としての動きにはあまり協力的ではなかったので、完全に切り捨てるつもりだったのだが。
「元より連合国と王国は昔から仲がいい。相互に情報共有をしていてもおかしくはないし、国境砦での敗走の時点で、既に王国側に情報を流していたと考えるべきだろう。ダズール、こっちに潰走してきた連中に話を聞いて、相手の情報を洗い出しておけ。それと、本隊は後ろに下げて使い捨ての傭兵団連中を前に出す。奴らには勲功のチャンスとでも言っておけ」
具体的な指示を受け、ダズールは無言で頷くと、各所に指示を割り振りに部屋から出て行った。
残された総団長は大きく息を吐くと、そのまま再度ベッドへと横になる。
どのみち、指示が行き渡って動き出すにはしばらくかかるだろう。
大軍というのは、そういうものだ。




