ワケあり11人目㉘
「表の2人が止めなかったって事は、何か急ぎの用事でもあるんだろう?」
俺の天幕の入り口には、カナエとジェーンが警護に立っているので、不要な来客はシャットアウトされるはず。
そんな中で、傭兵団長の3人が通されたという事は、急ぎ、ないしは重要な要件があるという事だろう。
確認のために問い掛けてみれば、先頭にいたオーガスタが無言で頷く。
「俺たちは、このままアンタの……いえ、あなたの軍に恭順します。いかようにもお使い下さい」
最初に出会った時のような言葉遣いから、慌てて余所行きの口調に直して、オーガスタが頭を下げる。
彼に続くように、残り2人の傭兵団長も頭を下げた。
「まあ、言葉遣いは追々でいいし、身内しかいない場所なら、そこまで細かく言うつもりは無い。今みたいな公式でない場所なら、話しやすい言葉遣いでいいぞ。使い分けできるなら、だけどな」
恭順する、という意思を見せた3人に、返事をしないまま、言葉遣いに関して言い含めておく。
これに関しては、どうせすぐにわかる事だし、変に緊張させない意味もある。
細かい話は、これから詰めるのだが。
「で、恭順するって事だが、それについて今後の話をしよう。気に食わなければ出て行ってくれ。敵対さえしなければ攻撃したりはしない」
一応、念の為に雇用条件が気に入らなければ出て行ってもいいと言っておく。
敵対さえしないのなら、わざわざ攻撃する意味も薄いしな。
顔を上げた3人が頷いたのを見てから、俺は今考えている構想を話す。
もちろん、俺個人の考えだし、もっといい意見があれば変更はするつもりだが。
「まず、3人の傭兵団についてだが、そのまま運用するかどうかは保留だ。今回の連合国内の行動に限っては、各々の傭兵団を率いてもらうけどな。で、確認なんだけど、3人共うちの軍に入るって事でいいんだよな? 軍以外の希望があれば、一応考慮するけど」
傭兵団なんてやっているのだから、軍に入るものだという前提で考えているが、生活のためにやむなく傭兵をやっていて、別にやりたい事があるというのなら、それは選択の自由というものだ。
もっとも、俺の所でそれを叶えられるかどうかは未知数だけども。
「俺は元よりそのつもりだぜ。元々学なんて無いしな。部下たちも似たようなモンだ。何人か、少しばかり学のあるヤツもいるが、基本的には戦働きしか能の無い集団だと思ってくれていい」
先ほどの言い含めで堅苦しい態度はやめたオーガスタが、まずは俺の問い掛けに賛同の意を示す。
何人かは知恵者がいるらしいが、基本的には戦働きがメイン、という事らしい。
「己たちは騎兵による速攻と重装兵による守りを得意としている。編成としては半々。上手く使い分けてほしい」
相変わらず、淡々と話すのは涼風傭兵団の団長コルドス。
どうやら攻めか守りのどちらかに特化しているらしい。
なるほどな。
どちらにしても使い道の多い人材だと言える。
涼風傭兵団も、軍への編入を希望、っと。
「ウチらは主に商人や貴族の女性の護衛をメインでやっとった。今回は傭兵国にいい報酬で声掛けられたけえ、戦場に出てきたんやけど、正直足洗うか悩んどったんよ。何だか、傭兵国軍のウチらを見る目ぇがやらしくてな。女しかおらんけえ、そういう目で見られるんも珍しくないんやけど。戦力で言うたら、うちは歩兵ばっかで4分の1くらいは非戦闘員や。非戦闘員は、衛生兵やら雑用やらの担当やな。最低限、自衛訓練くらいはしとるけど、戦争で戦えるほどやない。戦える連中は、半分はクロスボウでの射撃担当、もう半分は普通の兵士や」
戦乙女傭兵団は、結構な割合で非戦闘員がいるらしい。
そういう人たちは、戦働きよりも使用人とかそっち方面で働かせたい感じか?
戦闘員は半数が射撃担当で、残りは近接担当、と。
護衛がメインという話だったし、攻めるよりは守る戦いの方が得意なのかもしれない。
「とりあえずおおよそは把握した。細かい希望はリアムルド王国に戻ったら個々人ごとに色々聞かせてもらうが、今はとりあえず傭兵団単位で動いてもらうから、そのつもりでいてくれ。細かい契約内容も帰ってから詰めるけど、今回の戦については、1人当たり金貨2枚、あとは功績に応じて上乗せする」
ざっくりと報酬について言及すると、3人は目を見開いた。
これはどっちの反応だろう。
ビックリするほど安いか、ビックリするほど高いかのどちらかだとは思うが。
「1人当たり金貨2枚だって? 随分と買ってくれるじゃねえか!」
嬉しそうに破顔するオーガスタ。
残る2人もうんうんと頷いている。
なるほど、高い方だったか。
1人当たり金貨2枚って、期間で考えたらそんなに割がいいわけじゃないんだけどな。
多分、この戦いも1ヵ月は余裕でかかるだろうし。
「傭兵国なんざ、団一つにつき金貨200枚だぜ? 俺たちなんて頭割りにしたら金貨1枚にもならねえ。これでも報酬はいい方なんだけどよ。それを上回る金額をポンと出すたぁ、伯爵様は相当儲かってるんだな!」
儲かっている、という点については否定しない。
王国中の交易を取り仕切っていると言っても過言ではない、ラウンズの統治をしているのだ。
税収は元よりかなりあったし、俺が統治するようになってから倍近く税収は増えた。
半分以上はシャルのおかげだけど、俺の意見なんかも入ってるし、それなり以上に頑張ったという意識はある。
それ以外に、王命調査団という立場で、国から直接貰っている報酬や、冒険者として稼いだ財産もあるので、資金繰りには困っていない。
むしろ増える一方なので、経済を回すためにも使い先を増やした方が良かったし、人材集めという点でも今回の話はちょうどいいくらいだ。
あとは、今回の連合国での戦いで3傭兵団をどうするか見極めればいい。
いわば、試用期間だな。
「文句が無いなら、一旦これで話は終わりだ。あとは働きで答えを見せてくれ」
俺との話が上手く纏まったからか、感情のわかりにくいコルドス以外の2人はホクホク顔で天幕を出て行った。
まあ、いきなり裏切るなんて事は無いだろうけど、信用しすぎるのも危ないだろう。
規模だけなら俺が元々連れて来てる兵士の5倍だ。
共謀して裏切られたら、さすがに被害無しには済まない。
とはいえ、人手が多ければ取れる手段が増えるのもまた事実。
王国に戻ったら色々と再編にはなるだろうけど、軍を率いた経験のある人物というのはなかなか得難い。
用兵回りは基本的にリシアに任せきりだし、そういった点でも彼女の負担を減らせるようになればいいが。
「よし……これで今日のやる事は終わりだな。明日以降もあるし、早いとこ身体を休めるとしよう」
優先タスクを終えたので、俺は魔術で身体の汚れを落とし、寝袋にくるまるのだった。
なお、すぐに眠りに落ちたのは言うまでも無い。




