ワケあり11人目㉗
「リベルヤ伯爵……よくぞご無事で」
程なくして、先ほどの豪華な装備の兵士に連れられたヴァルキア代表が、俺たちの前に姿を現した。
戦時中だからか、革鎧に剣で武装した出で立ちである。
目に見える部分に負傷は無さそうで、顔色もいい。
ただ、長く包囲攻撃に晒されているからか、少しやつれた様子が見て取れるな。
まして、同士討ちを指示しなければならなかった立場だし、その心労は察して余りある。
「ヴァルキア代表こそ、ご無事で何よりです。先触れを出しておいた通り、我が国は戦況がほぼほぼ確定しましたので、救援に来ました」
「あなたという戦力が援軍に来たというだけで、とんでもない価値があります。本当に、厚く御礼申し上げます」
顔合わせの挨拶もそこそこに、俺たちはヴァルキア代表の案内で首都中心の大きな建物へと入っていく。
ヴァルツは連合国の兵士に一旦預け、俺とオルフェさんだけが建物に入る形だ。
「ネレス様はここに来るまでに救出しました。今は250程度の兵を率いて首都近くの小砦に。ここに来る前に首都攻略戦の助力を願う伝令を送っています」
「ああ、娘は無事だったのですね。本当に重ね重ねありがとうございます」
会議室のような部屋へと移動するまでの間、ネレス様を無事に救出した旨を伝えたのだが、ヴァルキア代表は両目に涙を浮かべて深く頭を下げてきた。
今のは、1国の代表という立場ではなく、1人の母親としての顔なのだろう。
「さて、喜んでばかりもいられません。具体的にどうこの戦況を押し返すかを考えなくては」
会議室に到達する頃には、ヴァルキア代表は為政者としての顔を取り戻しており、頼れる代表の顔になっている。
会議室内のテーブルの上に首都の周辺地図が置いてあり、既に色々と話し合っていたのだろう。
地図の上には敵や味方を示す駒などの目印が置かれていた。
「とりあえず、俺たちが進んで来たルートの邪魔な傭兵国軍は、ある程度蹴散らしているはずです。今は督戦部隊を順に叩きに向かっている頃合いかと。とはいえ、さすがに敵軍の数は相当な数ですから、さすがにうちの軍だけではどうにもならないです」
どうにもならない、とは言ったものの、それは周辺の状況を考慮するなら、である。
周辺の状況や連合国兵を考慮しないのなら、俺やカナエの広域殲滅で一網打尽なのだが。
「今、首都を包囲している連合国軍に呼び掛けて反撃させましょう。私の精霊魔術なら、同時に全兵士へと声を届けられます。どの道、全ての兵を救う事はできませんから、彼らには申し訳ありませんが、優先順位を付けさせてもらいます」
ヴァルキア代表の判断も致し方なし、という所か。
敵に脅されて、自らの命を守るためには仕方が無かったのだとしても、自国へと弓を引いた事は確かだし。
とはいえ、捕虜として捕らわれた味方を救出できなかったヴァルキア代表にも過失があると言えばそうだし、これに関してはどちらが悪いという問題でもない。
強いて言うのなら、いきなり攻め上がってきた傭兵国が悪い、という話だ。
「反転した連合国兵とうちの軍、あとはネレス様が率いる250の軍で、ある程度敵の戦力は分散させられますから、勝算は充分にあるでしょう。あとは、ヴァルキア代表の許可次第で私が広域殲滅魔術を放ってもいいです。一応、ある程度はコントロールしますが、それなりに巻き込むのは覚悟してもらう事になりますけど」
外にいる捕虜兵はある程度見捨てる、と発言したヴァルキア代表に、俺が纏めて大規模魔術をぶっ放すという選択肢もあるぞ、と提示してみれば、彼女は小さく首を横に振る。
「それは最終手段にしておきましょう。犠牲以外にも、地形に相当な影響が出そうですし」
それはそうだ。
王国内で俺が大規模魔術をぶっ放した時も街道が1つ潰れたし。
ヴァルキア代表も、さすがに魔術で味方を巻き込んでまで勝利を得たいというわけではないらしい。
「それでは、ある程度方針も纏まったので、私は外の味方の指揮に戻ります。うちの医務官を置いていくので、負傷者の治療にお役立て下さい。攻め始めるタイミングはお任せします」
オルフェさんに目配せをすると、彼女は無言で頷く。
おそらく、負傷者はたくさんいるだろう、と事前に話し合っていて、助けられる命があるなら助けたい、というオルフェさんの意向を尊重した形だ。
「……何から何まで、本当にありがとうございます。この御恩は、いつか必ず」
手短に打ち合わせを済ませ、俺はすぐに首都を発った。
帰り道は、来た時と同じようにヴァルツで大ジャンプである。
飛び上がった状態から、眼下の様子を見てみれば、傭兵国軍と戦っているうちの軍。
それと、少し戦場から離れた位置に、纏まって移動する連合国軍が見えたのだが、これはネレス様が率いる軍だろう。
うちの伝令が届いてすぐに出てきてくれたっぽいな。
『ハイトよ、そろそろ暴れてもいいだろう?』
「おう、敵に限っては遠慮しなくていいぞ」
重力に引かれ、自由落下に移った辺りで、ヴァルツからそろそろ暴れさせろ、という念が届く。
最近、あんまり運動させられてなかったもんな。
どの道、ここからは俺も戦闘に参加するし、ヴァルツが暴れてくれるのなら、俺はそれに便乗すればいい。
『では、遠慮無く行かせてもらうとしようではないか!』
ヴァルツの3本角に雷が集まり、すぐにバチバチと強力な放電現象を引き起こしたかと思えば、その身に雷を纏う。
普通なら、俺は感電してしまう所だが、ヴァルツがジャンプする前から魔術で防壁を纏っているため、影響は及ばない。
直後、一条の落雷と化したヴァルツが、一瞬で戦場に降り立つ。
余波で周囲にいた傭兵国の兵士たちは、感電して身動きが取れなくなるか、そのまま感電死して事切れる。
身動きの取れなくなった者を容赦なく馬蹄で踏み抜き、即座に走り出したヴァルツは、3本角から周囲に放電を撒き散らしながら縦横無尽に戦場を駆け回っていく。
その流れに乗りながら、俺は剣と魔術で敵を攪乱しつつ仕留める事で、傭兵国全体に混乱を伝播させる。
『連合国の勇猛なる兵士たち! 隣国の援軍が傭兵国の兵士を混乱させています! 今こそ反撃の好機! 同士討ちを強いた傭兵国へ、報いを受けさせるのです!』
まるで計ったかのようなタイミングで、ヴァルキア代表の声が戦場全体に響き渡り、今まで首都を攻撃していた連合国の捕虜兵が一斉に反転攻勢へ。
やりたくない事をやらされていたからか、捕虜兵として同士討ちをさせられていた連合国兵は一気に士気を燃え上がらせ、痛烈な打撃を包囲軍へと与えた。
さすがに形勢の不利を悟ったのか、包囲軍は主力のいる国境砦の方へと引き上げて行く。
こっちが寡兵かつ、一時的にハイになっていた捕虜兵も、恐らくは連日の戦闘の疲れが出る。
ゆえに、俺は追撃を禁じ、すぐに態勢を立て直す。
連合国側もヴァルキア代表が捕虜兵たちを収容し、首都内で再編に勤しむ事となった。
また、ネレス様も首都への合流を果たし、最悪の状況からは脱したと言っていい。
「うちは死者無し、軽傷者が数名っと。ま、上々だな」
俺たちが首都の外に野営陣地を展開して、連合国兵と協力しながら死体の埋葬などをこなしていると、今回は好きにさせていた3傭兵団の団長が、指揮所となっている俺の天幕に入ってきた。
その誰もが神妙な顔付きをしている事から、何かしらの話があるのだろう。
できれば夜は早く寝たいな、と思いつつも、俺は天幕に入ってきた3人を手招きするのだった。




