ワケあり11人目㉖
「それじゃ、これから首都を包囲している傭兵国軍を叩く。先鋒はカナエ、ジェーン、2人に任せる」
ちょうど主要メンバーが集まっているので、ここで軍議を済ませてしまおうと、俺は指示を出す事にした。
各々の傭兵団ごとに纏まって待機している傭兵組だが、こちらの話にはしっかりと耳を傾けている様子だったので、何か問われる事が無ければこのまま続けようと思う。
「2人が包囲に穴を開けたら、俺とオルフェさんは首都に入ってヴァルキア代表とコンタクトを取りに行く。向こうの状況を確認次第、戻って包囲軍を殲滅する。大筋はこれで行こうと思う。騎兵隊は状況に応じて敵の攪乱を。あと、10騎はネレス様のいる小砦に行って、出陣を促してくれ。実際に攻撃をしなくても、200以上の軍が近寄るだけで敵の意識は相当に分散される」
とりあえず、俺の陣営への指示はこんなものだろうか。
傭兵団の連中は、逆に扱いに困るな。
「傭兵団の諸君がどう動くかは、とりあえず任せる。ただし、一つだけ言っておくが、背後から俺たちを襲うような真似をしたら、その時は絶対に容赦しない」
とりあえず、適切な傭兵団の運用を考え付かなかったので、放置する事にした。
とはいえ、これ幸いと背後を突かれてはたまったものじゃないので、全力で殺気をぶつけて威圧くらいはしておく。
まあ、序盤は様子見に徹するとしても、カナエとジェーンの戦いぶりを実際に見たら、敵対しようとは思わないだろうけど。
よほどの極悪人でなければ、俺ならそうするし。
「疑問が無ければ、すぐに作戦行動に移るぞ」
特に疑問の声も上がらなかったので、俺たちはそれぞれ役割ごとに動き出す。
先鋒となるカナエとジェーンは、歩兵として敵陣に切り込む。
騎兵運用としない理由はただ一つ。
カナエの装備重量がヤバすぎて、馬が保たないからだ。
そのうちフル装備のカナエも乗せられる騎馬を手に入れよう、と思いつつも、そうなると馬ではなくてもいいのでは、という話もあって、先送りにしてしまっていたらこのザマである。
いざという時の準備は、してないものほど先にその時が来る事が多い。
「カナエ、ジェーン、傭兵国の連中に慈悲はいらん。手加減なんてしなくていいからな」
俺が言外に敵を原型留めさせる必要は無い、と声をかけると、2人は無言でそれに頷き、敵陣へと走っていく。
どう動くか、と様子を伺っていれば、途中から弾丸の如くジェーンが加速し、騎馬もかくやという速度で傭兵国の兵士に肉薄。
炎を纏った特大剣でもって、敵兵士を10人近く纏めて斬り飛ばす。
当然、傭兵国側も黙って襲撃を受けているわけではなく、敵が集まってくる。
が、ジェーンはすぐに踵を返してその場を離脱し、後ろから追ってきていたカナエの背後へと飛び退く。
矢や魔術が飛んできていたが、カナエは大盾を構えてその全てを弾き、そのまま敵軍の只中へと突貫。
正面から衝突した敵兵は、ちょっと見せられないよ、という感じの状態になっていた。
相変わらず、フィジカルがストロングすぎる。
「……これはエラいこっちゃな。ほんまに敵対せんで良かったわぁ。もしオーガスタはんの呼び掛けに応じてへんかったら、ウチらかてミンチにされとったな」
カナエとジェーンの一騎当千ぶりを目の当たりにして、ヘレンが頬を引き攣らせながら呟く。
まあ、実際敵としてこの場にいたのなら、カナエに轢き殺されるか、ジェーンに叩き斬られるか、俺の魔術で消し炭になるかの3択だ。
よほど危機に敏感な者なら逃げ出しているのかもしれないが、そうでない者はただ蹂躙されるのみ。
包囲軍に穴が開くのに、それほど時間はかからなかった。
「それじゃ行くぞ、オルフェさん。しっかり掴まってろ」
「はい。よろしくお願いします」
ヴァルツに俺とオルフェさんの2人で乗り込み、最短最速で包囲を抜けて首都入りする。
そんな作戦なワケだが、当然ながら、首都の門は閉ざされているわけで、破壊して中に入るわけにもいかない。
しかし、ヴァルツに作戦を伝えた所、あの程度の防壁程度(4メートル程度)は飛び越えて見せよう、と豪語したのだ。
であれば、そのまま防壁ごと門を飛び越えて首都に入り、そのままヴァルキア代表の下に向かえばそれで済む。
「ヴァルツ。頼んだ!」
『うむ、任せるが良い。しっかり掴まっていろ!』
ぐん、と一瞬で凄まじいGが身体にかかる。
それに数舜遅れでGを相殺する魔術を展開し、しっかりと体幹を保つ。
ほとんど数秒で最高加速に達したヴァルツが、まるでワープしたかの如く空中へと飛び上がり、予告通りに防壁を飛び越える。
あまりの速さに、防壁を守る連合国兵士もポカンと空を見上げるばかり。
そりゃまあ、いくら馬に乗ってるとはいえ、4メートルの防壁を軽々と飛び越えるなんて普通は思わん。
そんな事態を想像できるヤツがいたら、それはただの変態だろう。
「よし、首都内に入ったな。ヴァルツ、このままあの大きな建物を目指せ」
『うむ、心得た』
4メートルの高さを軽々と飛び越えたとは思えないほどの柔らかい着地から、間髪入れずに走り出すヴァルツの走破力には、本当に驚かされる。
フル装備の俺とオルフェさんを一緒に乗せているから、恐らくは150キロは超えている荷重のはずだが、そんなウェイトは無いも同然とばかりの様子だ。
さすがは魔生物と言わざるを得ない。
これで俺の魔力だけで生活できるってんだから、燃費がいいなんてものじゃない。
実質餌代がタダである。
まあ、これは俺のバカ魔力容量ゆえに成り立つ飼育方なのだが。
ともあれ、ヴァルツのおかげで無事に首都入りを果たし、恐らく首都の中心であろう部分にある大きな建物に向けて駆け抜けて行く。
非常事態という事もあってか、立派な街並みには人っ子1人おらず、さながらゴーストタウンと化している。
兵士たちが移動したり巡回しているのが見えるくらいだ。
「もし! そちらにおわすのは、リベルヤ卿か!?」
目印としていた建物に近付くと、少し豪華な装備の兵士が声をかけてきた。
名前は知らないが、教国の1件で顔を見た事がある気がする。
「そうだ! 貴国の危機を聞いて援軍に来た!」
1度ヴァルツに足を止めさせ、敵意が無い事を示すために地面に下りる。
すると、豪華な装備の兵士が左手を上げた。
直後、建物の影に隠れていたのだろう、連合国兵士がぞろぞろと俺たちを包囲するように出て来る。
まあ、さすがに戦時中だし、警戒はされるか。
とはいえ、連合国兵士も武器は抜いていないので、念のための備え、という意味合いが強いのだろう。
「しばしその場で待たれよ! これより代表に取り次ぐ!」
「承知した! よろしく頼む!」
さすがに元より顔が知れているからか、話が早い。
結構突拍子も無い手段で首都入りをしたので、さすがに攻撃されるかと思っていたが、意外と連合国兵は理性的だな。
もしかすると、何らかの手段でヴァルキア代表が俺の動きに気付いていて、あの豪華な装備の兵士を遣わせてくれたのかも。
とりあえずはいい流れができてる事に、俺は内心でホッとするのだった。




