ワケあり11人目㉓
「おー、派手にやってるな。よし、俺たちも行くぞ」
待機地点で待っていると、カナエたちが動き出し、地響きと雷鳴が轟いた。
敵もかなり浮足立ったようで、混乱の様子が見られる。
どうやら連合国の捕虜兵はそのまま砦攻めを継続させ、バイレンド傭兵団側がカナエたちの対処に当たるようだ。
この流れなら、俺たちにとっては好都合だな。
「まずは督戦部隊を蹴散らす! 俺に続け!」
ヴァルツの腹を軽く蹴り、俺が先頭となって捕虜兵を見張る役割の督戦部隊に突っ込む。
恵まれた馬体と持ち前の走破力で、邪魔なバイレンド兵は跳ね飛ばすか踏み潰し、それに俺が便乗して大剣を振るう。
督戦部隊はおおよそ50人程度といった所だったが、かなり隊列を乱せた事だろう。
俺の少し後から、80人の兵士たちが乱れた督戦部隊に痛烈な突撃攻撃を加えた事により、督戦部隊はほぼ壊滅。
僅かに生き残ったバイレンド兵も、味方のいる方に退いて行った。
「よし、ここまでは作戦通り、と。負傷者はいるか?」
念のため、と思って声をかけたが、兵士たちに負傷者はいなかったので、そのまま小砦の方に向かう。
事前情報では300人程度の捕虜兵が動員されているとの事だったが、小砦を包囲している捕虜兵は、およそ200人くらいまで減っているように見える。
まあ、敵が少ない分には楽ができるので、敵が少ないに越した事は無いのだが。
「魔術で連合国の捕虜兵を止める。あとはそのまま小砦に行くぞ。重力の枷」
重力の魔術を小砦の外をぐるっと抑えつけるように展開。
士気が低いながらも、砦攻めをしていた捕虜兵たちが、地面に這いつくばる。
全身に強力な重力干渉をかけているから、ほとんど動けないはずだ。
あまり強くしすぎると、兵士たちが地面の染みになってしまうので、加減が難しい所だが、どうやら1発で適度な負荷に設定できたみたいだな。
捕虜兵の動きが止まった事を確認して、俺と兵士たちには重力が干渉しないよう調整し、そのまま小砦の出入口の方に向かう。
「私はリアムルド王国のリベルヤ伯爵だ! 連合国の状況を聞き、援軍に参った! 周囲の兵士たちの動きは抑えている! ネレス様はご無事か!?」
こちらの様子を伺っている守備兵が見えたので、大声でこちらの所属を明かし、兵士に手で合図してリアムルド王国とリベルヤ家の旗を振らせる。
守備兵たちは不安そうに顔を見合わせていたが、周囲の捕虜兵たちが這いつくばって動きを止めているのを見て、やにわに動き出す。
やがて、程なくして1人の女性が防壁上に姿を現す。
「リアムルド王国のハイト・リベルヤ伯爵とお見受けします! 包囲の兵を止めていらっしゃるのは、あなたの魔術で相違ありませんか!?」
遠目なのでハッキリとは見えないが、金髪の女性がこちらに負けじと大声を返してくる。
あれが、恐らくはヴァルキア代表の娘さんであるネレス様だろう。
「相違無い! 今、部下がバイレンド傭兵団の部隊を蹴散らしている! 捕虜たちを戦わせていた督戦部隊は既に撃滅した! こちらの兵士たちに停戦を呼び掛けてもらってもよろしいか!? その後に魔術による拘束を解く!」
近くの捕虜兵にも聞こえるよう、俺たちがどういう行動を取っているかをネレス様に聞こえるよう伝えると、すぐにネレス様は小砦を包囲している捕虜兵たちに停戦するよう声をかけてくれたので、それから様子を見て重力の枷を解く。
すると、這いつくばっていた状態から起き上がった捕虜兵たちは、大人しくその場に留まっていたので、作戦は成功と見ていいだろう。
「ハイト、こっちは終わった」
ネレス様がどう動くかの様子を見ていると、バイレンド傭兵団の部隊を壊滅させたカナエとオルフェさんが合流。
2人とも無事な様子で、俺は内心ホッとできた。
「2人ともお疲れ様。無事で何よりだ」
とりあえず、2人にねぎらいの言葉をかけていると、小砦の方が開門し、ネレス様率いる守備隊が外に出て来るのが見える。
そのまま外の捕虜兵を纏めに行くようだ。
督戦部隊がいないのなら、捕虜兵たちが同胞と戦う理由も無いもんな。
それから30分程度の時間をかけて、捕虜兵を纏めた連合国側は、待機していた俺たちの方へやってくる。
規模としては、守備兵と残っていた捕虜兵を合わせて、おおよそ250名といった所だろうか。
少し離れた位置で連合国軍は歩みを止め、その中から先ほどのネレス様と思われる金髪の女性が、護衛を1人だけ伴って、こちらに歩いてくるのが見えたので、俺もカナエだけを連れて彼女の方へと向かう。
「ハイト・リベルヤ伯爵。あなたのおかげで窮地を脱する事ができました。我が国の兵士たちにも手心を加えて頂いて、誠にありがとうございます」
お互いの姿をしっかりと確認できる距離になって、金髪の女性はこちらに深く頭を下げた。
緩く波打つ金髪は、背中くらいまで伸びていて、平時であれば艶やかなのだろうけど、今は戦時中という事もあってか、艶を失っている。
「改めまして、私はネレス・ハルモニカ。現連合国代表、ヴァルキア・ハルモニカの娘でございます」
俺たちへの礼を終えた所で、顔を上げたネレス様は、ヴァルキア代表を彷彿とさせる笑顔を浮かべ、握手を求めるよう右手を差し出す。
切れ長の目であるとか、顔周りはやはりヴァルキア代表や側妃様の血縁なんだな、といった感じ。
そして体型もその血縁なんだな、という感じで全体的に凹凸が少ない。
皮鎧なんかを身に着けているせいもあるだろうけど、やはり全体的にシルエットが平坦というか。
「ハイト・リベルヤです。まずはご無事で何よりです」
ネレス様の握手に応じると、思ったよりも剣ダコのある、固い感触が。
これは、日常的に剣を振っている手だ。
戦場に出ているのだから、戦えはするのだろうと思っていたが、思ったよりも武闘派っぽいな。
「戦時中ゆえに、ろくな歓待もできませんが、今日はこちらの砦で身体をお休め下さいませ。その際に、今後のお話もさせて頂ければと」
「お気持ちはありがたいですが、首都包囲軍の攪乱を行っている味方がおりますので、そちらと合流します。その後、身体を休めて明日、首都包囲軍の攻略に移りたいと考えています」
小砦で休んでいけ、というネレス様の提案を遮り、俺たちはジェーンとの合流を優先すると伝えておく。
理由はいくつかあるが、完全に彼女を信用しているわけではない、というのがまず1つ。
もう1つが、単純にジェーンたちが心配だからだ。
あともう1つ、彼女らが戦力としてはあまり期待できない、という点だ。
俺たちも強行軍で連合国に移動してきたが、最初から戦闘しっぱなしの連合国兵ほどではない。
であれば、少しでも砦のスペースを自軍の兵士を回復させるように使うべきなはず。
「……わかりました。お心遣いに感謝いたします」
果たして、俺の思惑が正しく伝わったのか、ネレス様はすんなりと引き下がった。
察しがいい分には助かるかな。
「それでは、私たちはこれで。準備が整えば、首都包囲軍の攻撃に参加して頂ければと」
さすがに首都包囲軍はすぐには崩せまい。
ある程度長期戦になるのを見越して、ここで生き残った連合国軍には戦力を維持してもらう方が良いだろうという狙いだ。
引き止められるわけでも無かったし、この場での判断としては間違っていないだろう、と判断し、俺たちはこの場を離れるのだった。




