ワケあり11.3人目
「くたばれ……ッ!」
踏み込み1回でオーガスタの懐に潜り、その勢いのままに特大剣を突き出す。
それなりくらいの相手なら、一撃でカタが付く。
そのはずだったが、オーガスタは間一髪で得物を自分の身体の前に滑り込ませ、あたしの一撃を逸らす。
武器同士が擦れ、火花が散った。
「肝を冷やさせてくれる……!」
仕返しとばかりに、頭部が人間の頭よりも大きい鉄棍が横薙ぎに振るわれ、あたしはそれを地面に伏せるようにして躱す。
目標を失った鉄棍は、重苦しい風切り音を響かせながら、空を切る。
「ちっとはやるじゃねえの!」
鉄棍を振りぬいたオーガスタの胴体目掛けて、あたしは体を起こしつつ左の貫手を突き出す。
ヤツはこれにも反応はしたが、躱しきる事は叶わなかったようで、左手が肉に埋まる感触が伝わってくる。
が、刺さりは浅い。
ちょうど指先の第一関節まで刺さったかどうかくらいだろう。
相手の得物からして、取っ組み合いになるのは良くないと判断し、オーガスタの身体を蹴って後方に飛び退き、一度態勢を立て直しておく。
「団長!」
「来るな! お前たちでは犬死にするだけだ!」
あたしが一撃を通したのを見て、オーガスタの部下が参戦しようとするものの、ヤツは大声でそれを咎める。
あくまで自分でやる、って事らしいな。
「別に纏めてかかってきてもいいぜ? むしろ、そっちの方が手間が省ける」
仮にオーガスタを始末したら、どうせ部下の方も始末せにゃならんし、纏めてかかって来てくれた方が、あたしとしては楽なんだが。
実力の程はおおよそ知れた。
そろそろ引導を渡してしまおう。
「……何の真似だ?」
次の一撃で決める、と決めた瞬間だった。
オーガスタは得物を手放し、両手を挙げる。
「俺では逆立ちしてもあんたに勝てんとわかった。だから、交渉だ。俺の首はくれてやる。だから、部下は助けてくれないか?」
あたしの実力を正確に推し量った、って事なんだろうが、ここに来て潔く降参を選ぶか。
しかも、自分の首を差し出して部下の助命を嘆願してくる。
……殺すには惜しいな。
「一つ聞かせろ。お前は何のために傭兵国に与してる? 大儀も正義も無い、こんな戦争に参加して、何を願ってる?」
あたしの問い掛けに対し、オーガスタは少し考える素振りを見せた。
真剣に答えるか否か、迷ってるくせえな。
「……団員たちを食わせ、守るためだ。俺たちは金づくで仕事を受ける傭兵団。仕事は選べない」
少しの迷いの後、オーガスタはあたしの顔を真っ直ぐに見据え、返答。
その目に、嘘偽りは無さそうに見える。
「……もう一つ聞く。選べる状況で同じ依頼額なら、いけ好かない雇い主の護衛と孤児の殺し、どっちを選ぶ?」
2つ目の質問は、オーガスタの人間性を見るためのものだ。
ストレスが溜まるであろう護衛の依頼と、ただ弱い孤児を殺せば済む簡単な依頼。
多くの傭兵は後者を選ぶだろう。
そのくらい、この世界の孤児の命は軽い。
「護衛だな。罪も無い子供を殺して貰った金で食う飯が、旨いはずがない」
オーガスタは、一瞬の迷いも無くそう言い切った。
「いけ好かない依頼主なら、最悪殴り飛ばしても心は痛まんしな」
追加で挑戦的な笑みを浮かべ、気に入らなければ依頼主を殴り飛ばすと言う。
なるほど、こいつは筋金入りのバカだ。
だが、信頼できるバカだな。
「……お前ら、あたしの部下になる気は無えか? お前らがその気なら、傭兵団丸ごとだ」
この場で死なせるには惜しい。
おおよそオーガスタの人間性の下に集った連中なら、規律を守る事も期待できる。
今後、ハイトはもっともっと勢力を広げるはず。
ただでさえ人手不足だし、有能な人材はいくらいても困らねえだろ。
「おいおい、俺たちは総勢200人はいるぜ? それを丸ごと部下にだって?」
「あたしは本気だ。ちなみにだが、あたしの雇い主はあたしよりも強え。本気出されたら、勝てる未来なんて見えねえくらいにな」
あたしの表情と雰囲気で、本気なのが伝わったのか、オーガスタは考え込む素振りを見せる。
「……断ったら?」
苦虫を噛み潰したような表情で、あたしの提案を断った際の事を問うてきたオーガスタだが、恐らくあたしの返答は予測してるだろう。
それでも、現実は突き付けておいた方が話はスムーズか。
「お前らはこの場でくたばってもらう。明日、戦場に団員が残ってるなら、そいつらも容赦無く潰す」
敵に容赦はしない。
ただそれだけの事だ。
「……実質、選択肢が無いじゃないか。わかった。俺たち鉄火傭兵団はお前に降る。これでいいだろ?」
よし、言質は取った。
こいつくらい義理堅そうな男なら、ここで逃がしても裏切りはしねえだろ。
「そんじゃ、今日は戻って明日、全員を連れて合流してこい。あたしの方から雇い主に話は通しておく。ついでに、信頼の置ける他の傭兵団も、連れて来れるなら連れて来ていいぜ? 人手が増えるならいくら増えたっていいからな」
「わかった。いくつか信頼できる傭兵団に伝手がある。声だけでもかけておくとしよう」
「そんじゃ、また明日な」
話は付いた。
合流したらハイトに話を通しておく必要はあるだろうが、嫌とは言わねえハズ。
まあ、根拠を言えと言われたら、あたしの勘と言うしかねえけどよ。
でも、ハイトも勘が云々で動く事あるし、細かく言わねえだろ。
◆――――――――――◇
「……団長、本当に降るんですか?」
あまりにもあっさりと、自分たちを放って姿を消した女を見て、オーガスタの部下は確認するように自分たちの団長へ訪ねる。
どこか、冗談であってくれ、という念も含まれているが、そんな部下の反応に、オーガスタは黙って首を横に振った。
「あんなバケモンみてえな女を超えるバケモンが主だってんなら、こんな戦場からはとっとと足を洗った方がいい。死にたくなけりゃな。常にどこでどんな危険があるか、察知できるようにならんと傭兵としては長生きできん。そんなわけだから、戻って引っ越し準備だ。俺は帰りにいくつか知り合いの傭兵団と接触してくるから、お前らは明日の移動準備をしとけ」
部下に指示を与えながらも、九死に一生を得たオーガスタは、内心で己の危機管理力を自分で褒め称える。
途中でされた質問の返答を間違えていたら、間違い無く自分と部下たちの命は無かっただろうと。
それどころか、大口の契約になりそうな話まで生えてきたのだから、僥倖どころの騒ぎではない。
この後、馴染みの傭兵団にも声をかけるのだが、ここで多くの勢力を味方に引き入れれば、降った先でも高い評価を得られるのではないか、と脳内で算盤を弾きつつ、オーガスタたちも帰路に着くのだった。




