ワケあり11.1人目
今回は連合国サイドのお話。
視点はヴァルキア代表です。
「……無様ですね」
西の国境砦の籠城戦で、敵を堅実に削り、持久戦に持ち込む。
そのはずでした。
しかし、その目論見は、ただ1人の異常者によって簡単に打ち砕かれ、10万の兵のうち、首都に生きて戻れたのはたったの2万程度。
そのうち、負傷していないのは1万人いればいい方で、半数以上は何かしら負傷しています。
私ですら、肩に矢を受けたほどですから。
今は治療も終えて、傷も塞がっていますが……状況は絶望的と言わざるを得ません。
「代表! 攻撃が開始されました! 変わらず捕虜を前面に押し出しての攻撃です!」
今日も始まりましたね。
捕虜とした連合国兵を前面に押し出し、傭兵国側の犠牲を減らす手法。
加えて、我々は同士討ちを余儀なくされ、士気が下がる副次効果付き。
敵ながら随分と底意地の悪い戦法を取ってくるものですね。
捕虜となった兵たちには申し訳ないですが、攻撃してくる以上は敵として討たねばなりません。
首都の高い防壁と固い門が、数的不利を補ってくれていますが……これでまだ敵の本隊が来ていないというのがまずいです。
本隊を率いるバイレンド傭兵団は私たちから奪取した国境砦を掌握して、身体を休めているそうですから、数日後には万全の態勢を整えた敵本隊が襲い来る……。
「……防戦の指示は変わりません。ここで首都を落とされては、連合国の民たちが更なる危険に晒されます。いえ、もはや国としての存亡が関わっていますから、踏ん張るしかないのですよ」
「……かしこまりました」
指示を与えた兵士が退出していって、私は指揮所でただ1人、待つ事に。
受けた矢傷はとっくに魔術で癒えているものの、敵本隊が来る前に魔力を消耗しないために、待機せねばならないのが歯痒いです。
今も前線では連合国の国民同士が殺し合っているというのに、私だけが安全な場所にいるというのは、申し訳ない気持ちで一杯ですね。
「ヴァルキア代表ですね?」
知らぬ男の声が背後から聞こえて、護身用の小剣を抜き放ちつつ振り返れば、そこにはとても凡庸な男がただ1人。
特徴という特徴の無い、人混みに埋もれれば、絶対に見失うであろう、そんな男です。
見た限りでは武装もしておらず、危害を加えるつもりは無いというアピールなのか、両手を上げていますが……怪しいですね。
「暗殺にでも来ましたか?」
声が震えそうになるのをどうにか堪え、私は小剣の先を男に突き付けます。
男の方はそれに動じず、ただただこちらを見るのみ。
「暗殺のつもりなら、声をかけずにやってますよ。それは、あなた自身が一番おわかりのはずでは?」
男の言葉が耳に痛いですね。
私とて、本業は精霊魔術師ですが、それなりに剣や徒手空拳でも戦えます。
つまりは、それなりに相手の実力や気配を感じられるという事。
しかし、この男は私の感知範囲にいても、その存在を知らせなかった。
精霊の警戒網があるのにも関わらず、です。
男の言うように、もし彼が暗殺者であれば、労せず目的を達していたでしょう。
「なら、何が目的ですか?」
意味があるのかどうかはわからないけれど、小剣を構えてすぐに動けるようにしつつ、男と対峙していますが、不気味なほど敵意を感じませんね。
「僕はリベルヤ伯爵の暗部に属する者です。職業上、名は明かせませんが、所属で信用して頂くしかないですね。本日こちらに伺ったのは、うちのボスがこちらへ応援に向かっている事をお伝えするためです」
男の言葉を信じるのなら、リベルヤ伯爵が援軍に来てくれる、という事ですが……これが本当なら、これほどの朗報は無いですね。
問題は、私たちがそれまで持ち堪えられるかどうかですが。
「ボスたちは既に連合国内には入っており、明日中には首都周辺に到着します。あと、首都へ敗走する途中ではぐれた、あなたの娘さんの所在を掴んでおり、こちらも救援予定となっておりますれば」
「ネレスは無事なんですか!?」
男の発した言葉に、思わず私は反応してしまいました。
首都に退却する途中、激しい追撃に遭って娘であるネレスと逸れてしまっていたのですが、彼の口ぶりからすると無事のようです。
てっきり、既に敵の手に落ちているか、命を落としているものとばかり思っていましたが……。
「現在、首都付近の小砦に立て籠もり、包囲に抵抗しておられます。こちらと同じように捕虜を前面に押し出した攻撃に晒されていますが、現状はまだ耐えておりますね。明日、首都包囲軍を急襲し、敵の混乱を誘いつつ、その隙にボスが小砦の救援に入ります」
「娘を、よろしくお願いします」
ここに来て、彼を疑う理由はありません。
私は何もできないので剣を引き、頭を下げるしかありませんが、私が頭を下げて娘が助かるのなら、安いものです。
夫との子宝になかなか恵まれず、結婚して100年以上経ってから、ようやく生まれた娘です。
目に入れたって痛くない、愛する1人娘を守れるのなら、私は地面だって舐めましょう。
「ボスに伝えておきましょう。あとは何か、我々に伝えておきたい情報はありますか?」
用事は済んだ、とばかりに男は踵を返そうとしましたが、思い出したようにこちらを振り返り、確認を取ってきましたね。
これだけは、伝えておきたい事……。
「バイレンド傭兵団の総団長にはご注意下さい、と。ただ1人で砦の門を切り開き、万軍の兵を相手取る異常な強さです」
「情報、感謝します」
今度こそ、男は姿を消しましたね。
まるで、この場に最初からいなかったかのように。
「ああ、忘れる所でした。ボスが連合国入りしているのはまだバレたくありませんので、今日の事はヴァルキア代表の胸の内にしまっておいて下さい。では、ご健闘をお祈りしております」
最後に声だけを残し、本当に今度こそ男は、その存在を消しました。
なるほど、まだ存在をバラしたくない、と。
おそらくは、以前教国で共に戦った時のように、少数精鋭で速度重視で来た、という所でしょう。
まだこちらが救援要請を出していないというのに、恐れ入りますね。
これに関しては、リアムルドの盾と名高いアーミル侯爵の差配かもしれませんが。
「明かせぬとはいえ、希望があるのと無いのとでは違います。要はリベルヤ伯爵の名前を出さなければいいのですから、やりようはいくらでもあります」
魔力を通して精霊に呼び掛け、首都全域に聞こえるよう、魔術を張り巡らせて、希望を伝えようではありませんか。
「皆さん、お聞き下さい。しばしの間耐えれば、リアムルド王国から援軍が来ます。秘密裡に放っていた伝令が、王国に我らの窮状を伝えて下さいました。盟約に基づき、王国からは既に援軍が派遣されています。援軍が到着するまで、しばし耐えるのです。ここが正念場ですよ」
絶望の先に見えた希望に、首都内が、守備兵が、士気と気力を取り戻していきます。
目に見えてわかるほどに、息を吹き返した守備隊が、同士討ちも厭わず敵を押し返して……。
「感謝します。リベルヤ伯爵。あなたという希望が、連合国の未来を繋ぎ留めました」
この場で、私が今やれるべき事はやりきりました。
あとは全力を尽くして、救援が来るのを待つだけです。
リベルヤ伯爵、あなたには最大限の感謝を。
追い詰められた連合国にもたらされる、一筋の希望。
次回はジェーン視点でお送りします。




