ワケあり11人目⑲
数日前の投稿データが吹き飛んでいたので書き直してました。
「さて、初戦は危なげなく勝利、といった所だね。やはりレイジュ様の激励が効いているようだ」
「そうですな。兵士たちの士気が天元突破で、文字通り敵軍を叩き潰しておりました」
俺が準備を終えて、戦地となる西の国境砦に入ってから、傭兵国との初戦が始まった。
結果を見れば、出撃前にレイジュ様の激励を受けた兵士たちの士気が留まる所を知らないくらい上昇。
その勢いでもって完膚なきまでに敵兵を粉砕し、快勝と相成ったのだ。
数値に起こせば、王国軍の死傷者が総勢3万近い動員数のうち、100人未満なのに対し、傭兵国は死者だけで5000人を超え、負傷者を含めると被害は1万を超える。
傭兵国が5万の兵を動員してきた事を考えれば、その被害の差は相当なものだ。
こちらが砦で守りの戦いをしているから、攻める相手側は多くの兵が必要となるが、そのうちの1万を初戦で失ったというのは、相当な大敗である。
普通なら、とっとと退却を考えるレベルだが、今の所は傭兵国が退却する気配は無く、あくまでこちらを攻め落とす腹積もりらしい。
「敵の主力がこちらに来ていないとはいえ、ここまで差が出るとは思いませんでしたね」
目下、最大の脅威であるバイレンド傭兵団の方はこちらに出撃はしておらず、兵数の多い連合国側に向かったと情報が来ている。
王国は諸事情につきおよそ3万人の兵を動員するのが精いっぱいだったが、連合国側は最大で10万程度の兵を動員できるため、軍を分けて同時攻略戦を展開している傭兵国としては、どうしても半々くらいに戦力を割る必要があるので、およそ5万ずつで同時侵攻作戦をするしかない。
連合国か王国の片方だけを攻めるとなると、攻められていない方の国から援軍を出せてしまうので、同時に攻めてお互いを支援させないようにするのが、傭兵国側が勝利するための前提なのだ。
「堅牢な砦に備蓄も補給路も確保できているこの状況で、負ける方が難しいだろう」
アーミル侯爵以下、主要な貴族たちが集ったこの作戦指令室も、すっかり勝ち確の空気となってしまっている。
その中でも、総指揮官たるアーミル侯爵とその副官のタッキンズ伯爵は、油断無く不測の事態に備えているが、その他の軍閥貴族は少々油断していそうなのが少々心配か。
「……連合国側の戦況はまだ不明だけれど、バイレンド傭兵団が攻めてくる事を重く見たのか、最大動員兵数を国境に集結させたと聞いている。ほぼ倍の戦力をぶつけているのだから、そうそう敗退する事は無いと思うけれど、状況によっては西と南から同時に攻められる事もあり得る。各々、油断無く備えておくようにね」
さすがに今の空気をぶち壊すのは良くないと判断したのか、侯爵は諸侯にやんわりと注意するだけに留めた。
初戦を終えた現在、王国に攻めてきた敵は砦からの遠距離攻撃が届かない場所に布陣し、簡易拠点を構築し始めている。
どうも、腰を据えて戦争をするつもりのようだ。
もしくは、拠点構築を嫌って王国側が砦から出てくるのを誘っているのか。
実際の所、王国側はこの戦争に明確な勝利を得ずとも、ただ防衛するだけでいい。
現状の国内情勢では、王国の支配領域が増えた所で統治する人員が足りないし、そもそも3大国同盟のバランスが崩れて敵対される可能性も出てくる。
そういう意味では、攻めてくる傭兵国を叩いて敗北を認めさせ、賠償を貰った方が後腐れも無いのだ。
敵方がある程度の拠点構築が終えたら、俺やカナエで突撃して破壊してしまえば、相手方の戦意も折れる事だろう。
援軍でも来ない限りは、王国側の趨勢は決まった、と言えるような状況だ。
「ハイトくん、少しいいかい?」
既に勝利の空気に呑まれ、ありもしない新領地を得る想像をしている貴族もちらほらいたが、諸侯が思い思いに語らうような空気になったところで、アーミル侯爵から手招きされ、俺は目立たないように侯爵の元へ。
「敵が築いている拠点だけれど……」
「頃合いを見て俺たちで叩きますよ。ある程度出来上がってから破壊されたら、敵方の心も折れるでしょうし」
正直、今回の王国軍は半分くらいが軍閥貴族の私兵で構築されているため、連携が怪しい部分がある。
わざわざ俺に拠点攻撃を提案しようとする辺り、侯爵は一部を除いて信用していないのだろう。
「お願いするよ。早まりそうな諸侯を留め置くのに、私はこれから腐心させられそうだからね」
俺が答えを先読みしていた事に苦笑いを浮かべ、侯爵は肩を竦める。
横にいる副官のタッキンズ伯爵も、同じく苦笑いを浮かべている辺り、俺たち3人の認識は同じという事か。
「伝令! 伝令です! 連合国側の戦況が来ました!」
既に戦勝ムードに沸く指揮所内に、アーミル侯爵家の家紋を刻まれた装備の兵士が勢い良く駆け込んでくる。
これで連合国側も勝っている、あるいは膠着状態にある、というのが王国側としては一番ありがたい状況だが、駆け込んできた兵士の声からして、あまり状況は良くなさそうだ。
「そんなに慌てずとも、戦勝の結果は変わるまい。落ち着いて報告したまえ」
空気を読めていない軍閥貴族の1人が、アーミル侯爵の兵へと勝手に命令を下しているが、侯爵は何も言わない。
が、こめかみの辺りに青筋が浮いてはいるので、越権行為ではあるのだろう。
後でお説教されるんだろうな、と俺が空気の読めない貴族に憐憫の視線を送ると、アーミル侯爵はそのまま報告に入れと無言で兵士にハンドサインを出す。
それを見た兵士は姿勢を正すと、指揮所内に声を行き渡らせるべく、大きく空気を吸い込む。
「連合国はバイレンド傭兵団を始めとする主力とぶつかり、大敗を喫しました! 10万の兵のうち4万を失い、国境砦を落とされ、首都アクウォタへ撤退を余儀なくされたとの事!」
連合国の大敗。
戦勝ムードに沸いていた指揮所内は、しんと静まり返った。
「……被害状況はわかるかい?」
正直、バイレンド傭兵団が連合国側に攻めたと聞いて、負ける可能性も考慮してはいたのだが。
まさか全兵力の半数近い被害を出す、歴史的大敗を喫しているとは思うまい。
色々な歴史物小説でも、1回の戦闘で4万の兵を失うというのはまず無いだろう。
そんな静まり返った指揮所内に、落ち着き払ったアーミル侯爵の声が響く。
「失われた4万の兵のうち、死者は1000名程度だそうです。大小問わず負傷者が8000人ほど、残りは捕虜として捕らえられたとの事。特に捕虜開放のための交渉は無く、敵軍は落とした国境砦を掌握し、拠点としている模様です」
動揺の見えない侯爵の様子に落ち着きを取り戻したのか、伝令の兵士は声の大きさはそのままに、焦りの滲み出るような報告ではなくなった。
しかし、およそ3万の兵が捕虜になったと考えると……俺の想像通りの動きが起きたら、連合国はたいぶヤバい。
早急に判断を下す必要があるだろう。
「アーミル侯爵、友好国にはすぐに援軍を向けるべきかと愚行いたします」
「いや、10万の兵があって大敗を喫するような相手に、貴重な我が国の兵士を消費する必要もないだろう!」
報告を聞いた軍閥貴族たちが、自分勝手にあれこれと発言を始めてしまい、アーミル侯爵は溜息を1つ。
はてさて、雲行きが怪しくなってきたぞ……。




