ワケあり11人目⑭
「それじゃ、そっちは任せる」
「ええ。任せてちょうだい」
俺とエスメラルダは、それぞれ分かれて竜人族の里へ入る。
エスメラルダ率いる諜報部隊(という名の調査隊)はこの里の香辛料の栽培についての調査……に見せかけての竜人族の商人の手掛かり探し。
俺はカナエを護衛に連れて長と会談し、そっとはそっちで情報収集というわけだ。
レイジュ様はどっちに入れるか直前まで悩んだが、結局対応幅の広さと鉄壁の防御を誇るカナエがいる俺たちの方に同行させた。
というか裏とかに関係する方向の調査をしているエスメラルダに同行させて、6歳児にいらんもの見せるのもなー、という思いもある。
さすがに6歳児1人でお留守番はさせられないし。
良くも悪くも少数精鋭で来たのが仇になってしまったな。
「聞けば、以前もこの里に来た事があるらしいな」
俺たちがエスメラルダと別れて、案内役の竜人族の男と歩いていると、案内役の男が声をかけてきた。
以前は見た事の無い相手なので、どう対応すべきか微妙に悩む。
長であるプロテと親しい風に見せるべきなのか、はたまたそんな事は気にしないでいるべきか。
「以前に比べて人が来る事が増えたが、思いの他、里は荒れぬものだな」
どういう態度を取るべきか、なんて悩んでいると、案内の男が勝手に話を進め出したので、もうちょっと様子を伺う事にする。
「古来よりの伝統で、外からの客を拒んでいたが……暮らしも豊かになって、なぜ我々は外の者を否定していたのだろうなと思う」
「前例が無いと、一歩を踏み出すのは怖いでしょう。ですが、案外踏み出してみれば上手くいくものです」
月並みな言葉かもしれないけど、往々にして尻込みしている物事ほど、踏み出してみればアッサリ上手く行く事も多々あるものだ。
逆に、どんなに周到に準備を重ねていても、想定外の出来事で頓挫する事もある。
「そういう事もあるのかもしれないな。何にせよ、最初の一歩を踏み出した長は若いのに偉大だと思う」
話を聞いている感じ、案内役の男は長であるプロテに対して、かなり忠誠心がありそうだ。
あまり余計な事は言わない方がいいだろうな。
「長、客人をお連れしました」
「ご苦労様。あとはこっちで引き取るから下がっていいよ」
案内役の男に連れられ、以前と同じく小高い所にある長の住居に着くと、長であるプロテ自らが扉を開けて俺たちを迎え入れた。
以前に来た時は召使いのような女性たちがいたと思ったが、どういう風の吹き回しだろうか。
俺はてっきり、前回みたいに女を侍らせて待ってるかと思ってたが。
「しかし、護衛も置かずに……」
「下がっていいと言ったよ?」
案内役の男は護衛を置け、と言い募ったが、すげなく断られ、すごすごと引き下がる。
去り際にこちらを睨んで、何かあったらタダじゃおかんぞ、と圧をかけながら、案内役の男は去っていく。
「見苦しいものを見せたね。さあ、入りたまえ」
プロテ直々に部屋の中に招き入れられると、以前と同じように、絨毯の引かれた室内でそのまま座るスタイルのようだ。
念のため、出口側に座ってすぐに退路を確保できるようにしつつ、1年ぶりにプロテと対峙する。
相変わらず、胡散臭い糸目の男だ。
どこかやつれたようにも見えるのは、気のせいだろうか。
カナエは護衛という立場だからか、俺の後ろで座らずに立ったままだ。
レイジュ様は遠慮なく俺の隣に座っている。
「前に来た時に比べると、随分と寂しいですね」
俺の方から嫌味っぽく口火を切ると、プロテは力ない笑みを浮かべた。
「そうだね。闇奴隷商に関わっていた者を処断していたら、いつの間にか里が寂しくなってしまったよ。最近ようやく綺麗になった所さ」
自重するように肩を竦めてから、プロテは表情を引き締める。
「それじゃ、君たちの来訪理由を当てようか。竜人族の商人についてじゃないかい?」
あまりにもピンポイントで目的を言い当てられて、俺は思わず言葉を失う。
あまり情報に期待していたわけではないが、まさかこんなにもピンポイントで当たりを引くとは。
「その反応を見ると、図星みたいだね。もっとも、僕から語れる情報はあまり多くはないけれど」
情報は多くない、とプロテは言うが、逆に言えば語れる情報があるという事だ。
ほとんど手がかりらしい手がかりの無い俺たちからすれば、些細なものでも情報は喉から手が出るほど欲しい。
「随分と素直に話すんですね」
思わず、俺はこちらに協力的なプロテに疑いの目を向けてしまう。
これが何を意味するのか、と。
「なに、ただの打算さ。闇奴隷商と繋がりのある連中を処理した結果、うちの里は自衛も危うい状況だ。ならばこそ、打てる手は打つべきだと思ってね」
「情報の代わりに保護を求めている、と」
「そういう事だね」
我が意を得たり、とプロテは頷く。
まあ、俺としても有用な情報を得られるのなら、この里を保護するよう陛下に掛け合うなり、俺たちの方で戦力を出すなりの選択肢を取れる。
香辛料の交易相手としては、既に一定の実績もあるし、陛下も嫌とは言わないだろう。
「取れるだけの手段は取りましょう」
「交渉成立だ」
まだ口約束ではあるが、本当に貰える情報次第ではどうにでも便宜を図る価値がある。
とはいえ、空手形でこっちから動くわけにはいかないので、どんな情報を出すのか、と視線を向けてみれば、プロテは糸目を開き、とても真面目くさった顔(当社比130%)でこちらを見返す。
「いくつか話せる点はあるけれど、まず竜人族の商人というのは、うちの里から出た裏切り者の1人だ。僕に処断されるのを恐れて逃げ出した一派でね。逃げに関しては恐ろしく鼻が利く。当然、闇奴隷商の一味さ」
開示された情報の1つ目は、竜人族の商人がこの里の出身という事。
そして、当然ながら闇奴隷商の組織に所属している。
「そして、これはそっちでも掴んでいるかもしれないけど、今は本拠地を小国家群に置いている。そこで、戦力としてバイレンド傭兵団を中心とした傭兵たちをいくつも抱き込んで1大勢力を築いた。小国家群は、実質彼らの支配下と言っていい」
2つ目の情報に関しては、プロテの言うように、ある程度こちらでも掴んでいる情報だ。
だが、バイレンド傭兵団以外にも戦力を抱えていて、小国家群を支配下に置いている、と考えると、その総合戦力は3大国に勝るとも劣らない。
小国家群は、1つ1つこそ小さな国の集まりだが、その総面積は相当なものなので、それらが一致団結して動くとなると、3大国同盟ですら無視できない勢力となる。
あくまで小国家群として国が乱立しているのは、その地域では争いが絶えないからだ。
どこかの国が潰えれば、また新たな国が生まれ、それを繰り返す。
教国や連合国、王国と境を接する小国家は比較的安定している所が多いが、それでも定期的にどこかが滅び、また新たな国が興る。
そんな土地だからこそ、傭兵業が盛んであり、バイレンド傭兵団のような規格外が生まれるわけで。
どうやら、想像しているよりもスケールの大きい話になりそうだな、と思いつつ、俺はプロテの話に耳を傾けるのだった。
近いうちにおおよその地図を作製して乗せます。
その方が情勢を想像しやすいと思うので。




