ワケあり11人目⑩
「ここがハイト様のお屋敷なんですねー」
教国の件を報告した翌日。
陛下は国内に向けて俺の功績と、褒賞で姫様の1人を降嫁させると発表した。
それと同時に、リベルヤ家に嫁ぐ事の決まったレイジュ様が、私物を持って屋敷へとやってきたのだ。
事前連絡等は一切無かったので、うちとしては蜂の巣をつついたような大騒ぎになりかけたのだが、そこはシャルとリリスさんが迅速に動いてくれたおかげで、無事に事なきを得た。
「レイジュ様のお部屋は準備させて頂きましたので、ご自由にお使い下さいませ」
手早く部屋の支度をし、レイジュ様が持ってきた荷物を配置したリリスさんが、レイジュ様を部屋に連れていくのを見送って、俺は執務室内で大きく息を吐く。
せめて事前通告くらいくれよ、と思わないでもなかったが、レイジュ様が来てから10分後くらいに陛下から、勝手にレイジュ様が引っ越し準備をしてそっちに行ってスマン(要約)、と謝罪を述べた手紙が届けられたので、どうやら独断だったらしい。
のんびりでマイペースそうな割に、行動がアグレッシブだなあ、とどこか他人事のように思いながら、俺は今後どうするかを考える。
今は特に依頼とかが無いので、基本的には屋敷で執務をする事になるのだが、レイジュ様の相手もしないといけないだろう。
スケジュール調整をどうすべきか、と思案していると、執務室の扉がノックされた。
「入っていいぞ」
部屋の外へ声が聞こえるように、少しだけ大きめに返事をすると、扉が開いてレイジュ様とシャルが一緒に執務室に入って来る。
「ハイト様の使用人の皆さん、とっても優秀なんですねー」
ニコニコと上機嫌そうなレイジュ様は、使用人たちを褒めながら執務室内をとてとてと歩き、来客用ソファにぽすんと腰を下ろす。
まだ6歳というのを考えると、恐ろしく賢いのだろうけど、どこか年齢相応の子供らしさも同居している、不思議な感じだ。
「お仕事の邪魔はしませんから、見ててもいいですかー?」
「構いませんよ。ハイトさん、執務の続きを進めましょう」
レイジュ様の問いにシャルが答え、俺たちはレイジュ様が来た事で中断されていた執務を再開。
とはいえ、基本的に俺が不在の間はどうしても俺じゃないと決裁できないもの以外は、シャルが全部処理してくれているので、結構長い事留守だった割には仕事が溜まっていなかったりする。
それでも、数日は捌くのにかかるだろうな、という程度には仕事が溜まっていたので、レイジュ様の相手をせずに執務ができるのはありがたい。
「シャル、レイネスタが受けてた農具の生産依頼はどうだ?」
「予定通り、発注数の全てを納品済みです。先方からはお礼の手紙と料金が届いてます。追加で他にも生産依頼が来ていますので、そちらは決裁待ちとなっていますね」
手元で書類を捌きつつ、気になっていた事をシャルに聞いてみれば、相変わらず淀みなく返答が返ってくるのはさすがの一言。
多分、追加の生産依頼の方は俺が捌いている書類の中に入っているだろう。
「人員補充の件は進んだか?」
「ラウンズの方は7割方の募集が終了しております。内訳でいうと文官は想定必要人数に達し、使用人は9割、規模を拡大した領軍のみが6割の達成率となっています」
「期間の割には進んだな。結構厳しい制限を設けたと思ったが」
「主に平民からの登用が多いですね。ハイトさんが決めた制限だと、貴族の方が適合しにくいですから。逆に広く門戸を開いたおかげで領内での雇用が生まれ、各事業の方も順調に人手が集まっています。進めている病院と学校の方は、施設の建築が半分程度まで終わりましたので、人員の募集要項を纏めている段階ですね。また、領内の孤児院も各地の状況を確認し、設置数を調整しました」
元々、俺がやりたい事はシャルに全部伝えてはいたけども、何年もかけてゆっくり進めればいいと考えていた。
が、シャルにかかると下手すりゃ今年中に大部分が終わりそうで、ちょっとばかり焦る。
いつも言ってる気がするけど、うちの嫁が有能すぎる件。
「王都邸の方は現状必要数に達していますので、ラウンズに送る人員の教育に入っています。もちろん、異動を受け入れてもらってます。ハイトさんの言っていた、定期的に人員を王都邸と入れ替える形は、短期間で実施した所、概ね好評です。これから期間を調節しながら落とし所を決めていく段階ですね」
怒涛の報告の嵐だが、俺とシャルは手元で書類を捌きつつ、当たり前のように仕事を進めているからか、こちらの様子を伺っていたレイジュ様は、目を丸くしてこちらを見ている。
それでも、こちらの邪魔はすまいと何かを聞きたそうにしてはいるものの、我慢してくれている辺り、本当にできた6歳児だと思う。
「……よし、1度休憩にしよう」
2時間くらい執務を進めた辺りで、机の上にある呼び鈴を鳴らす。
すると、即座にリリスさんが執務室に入ってくる。
休憩するので飲み物とお茶請けを、と指示しようと思ったら、既に準備を終えていて、手早く人数分の紅茶とお茶請けを配膳すると、あっという間に去っていった。
リリスさんも有能すぎん?
「……いつもこんな仕事をしてるんですかー?」
休憩、と口にしたからか、配膳された紅茶で喉を潤してから、レイジュ様が躊躇いがちに問いかけてくる。
「そうですね。いつもこんな感じです。シャルやリリスさんが優秀だからこそ、ですが」
「お父様がこの光景を見たら、発狂しますねー」
しみじみとした様子でお茶請けのクッキーを口に入れ、目を輝かせるレイジュ様は、本当に賢さと子供らしさが同居した稀有な人物なのだな、と思う。
コロコロと表情は変わるが、必要以上に感情を荒げるでもなく、むしろ様々な事に対して広く理解を示す。
そして、ちゃっかり王城とうちを比べて、陛下が見たら発狂するとまで言っている辺り、思った以上に色々な事を理解していると考えて良さそうだ。
本当に6歳児か?
「お姉さまたちに勝負で勝てて、本当に良かったですー」
昨日は陛下がげっそりしてたし、恐らくは今回の縁談話で誰が最初に嫁ぐかで、相当揉めたのだろうなー、と考え、レイジュ様が勝ち上がるという事は、一体何をもって勝負としたのだろう?
気になったが、何か底知れぬ深淵に触れそうな気がしたので、俺は小休憩を終えて、すぐに執務へと邁進したのだった。
選ばれたのはレイジュ様でした。




