ワケあり11人目⑨
「なるほど……なかなかに大変だったようだな。重ね重ね、お前を教国に行かせておいて正解だと思った」
俺が教国であった事を洗いざらい話すと、陛下は難しい顔で1つ頷く。
結果的にはそれで被害を抑えられたという節はあるんだよな。
特に地面を掘ってバイレンド傭兵団が急襲してきた時は、俺たちがいなかったら絶対にタダじゃ済まなかっただろうし。
仮にアーミル侯爵が教国に行っていたとして、負けるとは思わないが、被害をゼロで済ませるのは無理だったように思う。
あくまでうちの兵士たちが軽傷で済んだのも、カナエやジェーンが真っ先に暴れて敵の出鼻を挫き、リシアが上手く被害が出ないよう立ち回ってくれたからに過ぎない。
俺が行かなければエスメラルダも危ない所だったし、これで結構危ない橋は渡っていたのだ。
「急ぎはしないが、引き続き教国の件の背後関係を洗っておいてくれ。眼の方も動かすが、お前の暗部の方が情報が早かろう」
「既に最重要事項に指定して優先的に調べさせています。ただ、相手も相当に痕跡を隠すのが上手いみたいなので、相応に時間はかかるかと」
陛下の方でも今回の件はかなり重く見てるみたいだな。
まあ、国内は眼の方に任せて、国外をうちの暗部と諜報部隊で手分けして探る形にはなるか。
エスメラルダには眼と連携して事に当たるよう指示は出してるから、その辺は上手くやるだろう。
「さて、残る問題は教国の聖女であったか」
「ですね。教国では扱いに困るから、と押し付けられたとも言いますが」
俺が自嘲めいた笑みを浮かべると、陛下も苦笑いを零す。
「意識が戻っても、教国に帰す事はできんな。もっとも、本人が死にたいと言うのなら、余は止めぬが」
「まあ、1人で教国に戻ったって死ぬだけでしょうね。結局今回の騒動の旗印でもありましたから」
結局の所、旧教国の勢力がほぼ壊滅した今、聖女の存在はただの諸悪の根源に過ぎない。
薬によって利用されていたのだとしても、多くの教国の住民にはそんな事情は関係無いのだ。
それを弁解する場も、機会も、俺たちにとっては用意するに値しないし。
「お前の所で上手く使え。余からはそれしか言えん。もっとも、聖女がただ市井に降りて一般人として暮らすというのなら、戸籍くらいは作ってやるがな」
「ま、そうなりますよね。ワケありすぎる人物だし、他に回せるはずもない」
「もう一つ言うのなら、うちの専属医務官と同じか、それ以上の知識と能力を身に着けた医務官が常駐しておるのもある。いい加減、教える事がもう無いとうちの医務官が愚痴を零しておったわ」
あらま、オルフェさん俺が知らん間にもうそんなになってたのか。
医療を学びたいって言ってたから、陛下に頼んで場は整えて貰ったけども。
確かに王城に学びに行くようになってから、やけに成長が早いとは思ってた。
「さて、今日は帰って来た足で報告までしてもらって助かった。今は火急の要件も無いから、帰ったらゆっくりと休め。余らも、お前にあまり頼りすぎずに国を運営していきたいものだが……」
「俺が便利すぎるのが悪いって話ですよね。まあ、俺がっていうよりはうちの家臣団がって話なんですけど」
俺が日々実感してくらいだ。
陛下が折に触れて俺(家臣団含む)を便利に思うのもしょうがない。
だって、結構無理難題でも解決できちゃうんだもの。
タイラン侯爵の反乱の件然り、今回の教国の件も然り。
「否定はできんな。時にシャルロット嬢、今日は珍しくハイトと一緒に来ておるが、何か用事でもあったか?」
ひとしきり、教国周りの報告やらなんやらが終わったので、陛下が今日に限ってついて来ていたシャルに目を向ける。
ついでに、一緒に視界に映ったと思ったのか、双子がビクリと身体を跳ねさせたのだが、俺は生温かい目で見守っておいた(ちなみに俺は報告のために席を立って陛下の前にいた)。
「大事な話が済んでいないと思いまして」
陛下から水を向けられても、穏やかな笑みを浮かべて動じる事無く立ち上がったシャルは、真っ直ぐに陛下の目を見返す。
どこか、表情に比べて纏う雰囲気が剣呑な気がする。
「今回のハイトさんの働きに、どんな褒賞をお考えですか? まさか、タダ働きなんて事、ありませんよね?」
シャルの問い掛けに、陛下は石になったように固まった。
そういえば、そこらへんの話はしてなかったな。
いつも通りなあなあで済ましても俺はいいかなって思ってたけど。
そういう事してると良くないという話はあるかもしれない。
「……もちろん褒賞を考えておったとも。とはいえ、今回の件はかなり大きい案件ゆえ、この場で決定する事は難しい。決まり次第追って知らせようと思っていた」
表面上は普通に受け答えしているように見える陛下だけど、よーく見ると口元がヒクついてる。
あ、これ多分なあなあで済めばラッキーって思ってたな。
俺も今や伯爵家となったし、当然、貴族を領地関係の仕事以外で動かすとなれば、褒賞は必要だ。
動かす貴族家が大きければ大きいほど、褒賞も莫大になるわけで。
そして、わざわざシャルがこうして話題に褒賞の話を出すという事は、何か狙いがあるのだろう。
「でしたら、提案があります。聞いて頂けるでしょうか?」
シャルはあくまで穏やかに、控えめに。
けれど、その裏には提案を呑ませるという確固たる決意を持っているのだろうと予測できる。
というか、こうして自ら王城に乗り込んでいる辺り、勝算はかなり高いと見ているのではないだろうか?
「提案を聞こう」
シャルからの提案に、陛下は変わらぬ表情ですぐに返したが、内心では何を要求されるのか、戦々恐々としているはず。
今のシャルからは、言い知れぬ圧を感じるからな。
「そのうち姫様たちをリベルヤ家に降嫁させるご予定でしたよね? ですので、姫様たちとの婚約を発表して頂けないでしょうか?」
シャルの口から述べられた提案に、陛下が目を剥く。
俺も、目を剥いた。
姫様たちの降嫁。
それそのものはもう、決定事項になってるから問題無いとしても、タイミングの問題がある。
伯爵家ともなれば、家格はギリギリ釣り合わなくもないが、それは降嫁させる姫様が1人ならの話。
4人もの姫を降嫁させるというのは、史上類を見ないだろうし、せめて侯爵家くらいじゃないと家格が足りない。
いや、むしろ公爵家でもないとダメだろう。
シャルのやつ、一体何のつもりで……?
「……なるほど。一気に娘たちを降嫁させるのは、国内貴族たちが荒れかねない。だが、今回のハイトの功績は相当なものだ。金銭で支払うとなれば、国庫が空になりかねん。そこで、娘の1人を降嫁させて褒賞とする……という事か」
大きな功績を上げた貴族に、褒賞として姫を嫁がせるという話は無いわけではない。
むしろ、王家の血筋を嫁がせるという事は、王家としては最大級の信頼を置いている、と示す事もできる。
新興貴族ながら短期間で伯爵位まで上がったから、特に古い貴族からやっかみが無いわけではない。
けど、王家が娘を嫁がせるくらい懇意にしている貴族ともなれば、変なやっかみは仕掛けた側が破滅しかねないから、リベルヤ家の影響力を安定させる事ができるだろう。
そういう意味では、国庫が空になるのは避けたい王家と、キッチリ貰う物は貰いたいうちとで利害は一致する。
当主である俺の気持ちが乗るかと言われれば、それはまた別の話なんだが。
「いい提案だ。だがなあ……誰が最初に嫁ぐかで、娘たちが喧嘩をしそうだな」
そう言って、がっくりと肩を落とす陛下の姿は、国王ではなく、父親としての顔を見せていた。
「そこは陛下が上手く舵取りをしていただければと。その決定に私たちは口を挟めませんので」
要求が通るなり、すぐにシャルは身を引いてしまう。
丁寧に言ってはいるが、要するにそっちの家のゴタゴタはそっちで解決しろ、という事なのだ。
「ハイト、お前の希望は……」
「それじゃ、疲れたので失礼します」
俺が誰を希望していたか、という免罪符を得ようとした陛下の問い掛けを喰う形で帰る事を告げ、俺はすぐに陛下の執務室を後にした。
さすがに、王家の姉妹喧嘩に首突っ込みたくはないんでね。
内心で頑張れ陛下、と念じつつ、足早に王城を後にする。
なお、後ろについてきているエスメラルダは、笑うのを頑張って堪えており、双子は本当に大丈夫なのかと心配そうな顔でオロオロ、シャルはいつも通りの微笑みを浮かべて歩いているのが対照的だな、と俺は他人事のように思ったのだった。
今回のあらすじ→教国の件の褒章は姫様に決定!




