ワケあり11人目⑦
「撤退、ですか」
俺たちが聖女の看病に入ってから2週間が過ぎた。
あらかた旧教国派の不穏分子を駆逐して、連合国と帝国がサンクリドへと戻ってきたのだが、そこで3大国首脳会議を行った所、連合国及び帝国が撤退を決定したという議題が上がったのだ。
当然、俺は困惑したが、よくよく考えてみれば、反乱の鎮圧とそれに付随する不届き者の粛清という、当初の目的そのものは既に達成済みなのである。
軍の運用だってタダではないので、長期間活動させれば余計な出費が嵩む。
目的を達成した時点で、目的外の出費を避けるのは何らおかしな事ではない。
「聖女はどうしましょうか?」
目的を達したのなら、国に帰るので問題は無いのだが、ここで考えなければならないのは聖女の処遇である。
結局、彼女は意識を失ったままで、意識が戻っていないのだ。
これで看病の甲斐無くお亡くなりになった、というのであれば諦めも付くというものだが、生憎と健在。
このまま連れ帰るか、意識不明のまま教国に引き渡すかの2択しかない。
「こちらとしては教国政庁に引き渡して問題無いと考えている。生かすも殺すも、教国次第だろう。手の限りは尽くしたのだから、リベルヤ伯爵が責められる謂れも無かろう」
「私も同じ意見……いいえ、むしろ余計なトラブルを避けるためには、このまま秘密裡に処理してもいいとさえ考えます」
帝国としては、もうやる事はやったのだからあとは教国に任せる、という意見だが、連合国からはもう聖女なんて見つけていなかった事にしてしまえ、という過激な意見が飛び出した。
とはいえ、聖女が今の教国においてトラブルの温床となりかねない以上、それを避けるためにいなかった事にする、というのはあながち間違いとも言い切れない。
難しい所ではあるな。
とはいえ、既に聖女の身柄は俺が扱う事が決定されている以上、連合国と帝国にこれ以上の手を借りる事は不可能。
そうなると、あとは聖女をどうするかを教国に委ねなければならないのも事実。
……まあ、こっそりと連れ帰るという第3の手段も存在するにはするのだが、それはあまりにもリスキーが過ぎるので、王国そのものに迷惑をかけかねない以上はこの手段を取れるはずもなく。
「……わかりました。聖女の身柄は教国政庁に引き渡しましょう」
こうして、教国に集った3大国は解散する事が決定した。
とはいえ、最終的にトラブルに発展する可能性を考慮し、俺が教国政庁に聖女の身柄を引き渡すまでは帝国と連合国も待機してくれる運びとなったので、俺は重い足取りで教国政庁の業務スペースの方へ移動する。
そこで向こうの代表であるノーマさんを探していると、俺の姿を見つけたのか、彼の方からこちらに来てくれた。
「お疲れ様です。何かございましたか?」
聖女という特大の爆弾を抱えているとは知らず、穏やかな表情でこちらに応対してくれているノーマさんだったが、これから爆弾を手渡す事になる。
ちょっとだけ申し訳なさを感じつつも、仕方のない事だと割り切って口を開く。
「実は混乱を避けるために公表していなかったのですが……聖女の身柄を確保しています。今は意識がありませんが、生きています」
大きな声で周囲に聞こえるのもどうかと思ったので、ノーマさんだけが聞き取れるような声の大きさにしたのだが、当のノーマさんは目を見開いてポカンと口を開けている。
まあ、そうなるわな。
「……これは失礼しました。あまりに衝撃的な事実だったもので、固まってしまいました」
たっぷり1分程度の時間をかけ、再起動を果たしたノーマさんは、隠すまでも無く困った表情でこちらを見た。
うん、俺も面倒事を押し付ける事になってごめんって思ってるよ。
でもさ、うちで預かっててもメリットが無いんだよね。
「……少々こちらへ」
さすがに他者の耳に入れるわけにはいかないと判断したのか、ノーマさんに空いている会議室の1つへと連れて行かれる。
扉を閉め、鍵をかけた所で、ノーマさんが大きな溜息を吐く。
「正直な所、今になって聖女が生きていた、というのは今の教国にとって面倒以外の何物でもありません。事が公になれば、間違い無く暴動が起き、聖女は殺されるでしょう。そうなる事そのものは別に構いませんが、それに付随する対処の方が面倒です。今の教国に自力で暴動を鎮圧するほどの力はありませんから、それが知れ渡ると、良からぬ事を考える者もいるかもしれません。これから、3大国には今回の件のご協力の謝礼を送らせていただきますが、王国には色を付けますので、どうか聖女の身柄をそのまま引き取ってはいただけないでしょうか?」
俺たちが聖女を連れ帰る事によって、元々聖女なんていなかったという事にしてほしい、という取引だ。
報酬としては、元々王国が貰う分の謝礼に色を付ける、との事だ。
教国の規模が縮小したとはいえ、国家予算から色を付けるとなれば、人間1人が平民として暮らすには充分すぎるだけの金額だろう。
「……わかりました」
教国から、聖女の身柄受け取りを拒否された以上、最悪はこのまま彼女を見なかった事にしても問題無いのだが、それはさすがに良心が咎める。
しょうがないから、このまま連れ帰って陛下に判断を仰ぐか。
まあ、十中八九はそのままうちで聖女を使えと言われる気がするけど。
そうなったら、鑑定の結果的にオルフェさんの補助に付ける形になるかね。
薬作ったりするの得意みたいだし。
「では、また会う事もあるだろう。その時はお互いに敵対していない事を祈る」
「今回はお疲れ様でした。3大国に人死にが出なかったのは幸運と言っていいでしょう。ソリド将軍の言うように、次に会う時には敵対していないといいですね」
結局、俺が聖女の身柄を預かる事になるのを共有した後、そのまま3大国は解散し、各々が帰路に就く事となった。
そうなった以上は長居をしても意味が無いので、俺たちもその日中に拠点としていた宿を引き払い、王国へ向けて出発を開始する。
リシアの方で王城と王都の屋敷にいるシャルに向けて早馬を出してもらって、俺たちは普通に移動だ。
何事も無ければ、恐らく半月もかからずに王都に着くはず。
結局、今年の誕生日は帰国中に迎える事が確定したのだった。
今回でハイトたちは王国に帰国となりましたが、この話自体はまだ続きます。




