ワケあり11人目⑥
「今の所は平和だねえ……」
サンクリドで聖女の看病を始めて1週間。
特に事件らしい事件も起こらず、連合国と帝国も順調に旧教国派を捕らえて回っている。
一部逃げおおせている連中もいるものの、不穏分子の炙り出しも最終段階に入っていると言っていい。
欠伸を噛み殺しながら、こちらへと飛来する矢を剣で弾く。
「うちら2人を相手にしてるのに、余裕ありすぎてムカつく!」
「ほーら、感情的になるなー。動きが単調だぞー」
あまりにもヒマだったので、俺自身の訓練がてら、双子と組手を行っているのだが、思考が脇道に逸れていたのに気づいたカトレスが、大振りで槍を突き込んでくる。
感情に任せた一撃は、威力こそ充分だが、あまりにも大振りすぎて難なく躱せてしまう。
ここ最近でわかった事は、基本的にはしっかりしていても、双子は年齢相応に子供な部分もある、という事だ。
意識していれば隠せるようだが、結構感情が表に出やすいし、挑発なんかも結構効く。
2日目には俺の方が2人の動きに慣れてしまったので、思考が脇に逸れてても反応できてしまうのだ。
年齢を考えれば、2人とも相当に実力がある部類なのだが、いかんせんうちの戦闘要員たちは規格外が多い。
とはいえ、カトレスとクルスもやられっぱなしではなく、飲み込みも早いので、着々と弱点を潰してきている。
昨日までなら、大振りの一撃を繰り出した後に、体勢を整えられずに反撃をもらっていたカトレスだが、手応えが無いと見るや、即座に槍を引き戻して体勢を立て直し、俺の反撃を躱して見せた。
とはいえ、躱すのはギリギリだったので、大きく体勢を崩してしまう。
普通なら、敵前でそんな隙を晒せば追撃を加えられてしまうが、そこは後ろからクルスが矢を連続で射って俺の動きを封じてくる。
元より双子だからか、連携能力はうちの誰よりも高いと言っていい。
よく組んで敵に当たる事も多いカナエとジェーンも、連携というよりは役割分担で各々の強みを生かしているに過ぎないので、真の連携とは言い難いのだが、双子は互いに互いを巧みにカバーし合う。
個々の戦闘能力で言えば、恐らくはB級冒険者中位から高位相当なのだが、2人で連携を組めば、それはA級最上位すらも狙えるレベルになるのだ。
「拒絶の壁」
連続で射られた矢は、祈術の防壁で防ぐ。
さすがに防御専用の祈術だけあって、難なく矢を弾いてくれる。
いつも通りなら、剣で斬り払うか魔術での相殺を狙うが、祈術による防御は手軽な割にかなり安定するな。
魔術にも似た系統のものがあるが、魔力効率や展開速度が全然違う。
今はまだ魔術の方が慣れているから魔術で防ぐ方が早いし安定するが、これで同程度の習熟度になったのなら、間違い無く防御系の祈術の方が硬くて速いし、消費魔力や展開速度の観点から祈術が優位だ。
今後を考えるのなら、間違い無く習熟しておいて損は無い。
「カバーありがとクルス! よし、今度こそ!」
俺が矢を防いでいる間に体勢を立て直したカトレスが、再び俺に挑みかかってくる。
クルスの弓矢による的確な援護と共に、カトレスが槍で攻めるという、なかなかに面倒な連携。
とはいえ、こちらもただ攻めさせるだけではない。
「弾ける火球」
空いている左手に掌大の火球を生み出し、距離を詰めてくるカトレスに向かって放り投げる。
真っ直ぐにカトレスに向かって飛んだ火球は、少し進んでから無数の細かい火球へと拡散し、彼女へと襲い掛かった。
「熱っつ!? 火傷しちゃうでしょ!」
本来なら回避不能な無数の小さな火球に襲われ、カトレスはたまらず後退。
直撃しそうな火球を槍で打ち払い、無傷で済ませたものの、熱の余波までは防げなかったらしい。
まあ、訓練用に威力はかなり抑えてるし、仮に当たったとしても軽い火傷くらいで済む。
軽い火傷なら治療用の魔術なり祈術なりですぐに跡も無く治る。
とはいえ、年頃の女の子ともなれば火傷して跡が残ったりするのは気になるだろう。
「カトレス、大丈夫?」
「平気。うー、今日こそ一本取るよ! クルス!」
「うん!」
気合い充分で、双子が俺に攻めかかってくる。
今度はクルスも矢を射放ちながら距離を詰めてきたので、相対的に手数が増えた。
とはいえ、弓兵が前に出てもそれは襲って下さいと言っているようなもので。
「よっ、と! 後衛が前に出てくるのは感心しないな!」
先に槍で仕掛けてきたカトレスを弾き飛ばし、俺は前に出てきたクルスへと攻めかかる。
すると、クルスの方は俺が剣の間合いに入ったと見るや、手にしていた弓を真上に放り投げた。
そのまま、右手に握っている矢を俺へ突き立てようとしながら、左手で予備武器の短剣を抜く。
なるほど、ここで俺を引き付けて態勢を整えたカトレスと挟撃するつもりか。
考えたな。
けど、そんな付け焼刃の戦術でやられるほど、俺はヤワじゃないぞ。
「考えは悪くない、けど、それまでだ!」
突き出された矢は身体を捻って躱し、剣で反撃。
クルスはどうにか短剣で捌こうと努力したものの、3回打ち合った段階で、受け切れずに短剣を手放してしまう。
こうなっては、もう抵抗はできない。
「クルス、死亡扱いだな」
審判をしていたジェーンが、無慈悲に言い放つ。
遅れて、フォローが間に合わなかったカトレスが俺に打ちかかってくるも、単騎でどうこうできるはずもなく。
すぐにジェーンから負けを言い渡されてしまう。
「また負けたー! 悔しい!」
「余裕綽綽って顔して……もっと焦らせたかったなあ」
負けを言い渡された双子は、大の字になって地面に寝転がった。
作戦面はそんなに悪くなかったが、各々の実力が若干追いつかなかった、という所だろう。
「ふむ、クルスは短剣よりも曲剣の方が合うやもしれんな」
指導役であるリシアから、クルスの得物について言及が入る。
確かに、それなりに筋力はあるけど、どちらかと言うと技量寄りな能力値だったし、曲剣という選択はアリな気がするな。
その性質上、受け止めるよりは受け流しの技量がいるし、そっちの方が向いてそうだ。
短剣というのは性質上、どうしても武器で攻撃を受けるのに向かない。
「あとは短弓と長弓を使い分けるのもいいだろう。せっかく足が速いなら、移動撃ちの技術を使いこなせれば、より動きの幅を増やせる。カトレスは槍を扱うのなら、もっと突きをコンパクトにして、相手に間隙を突かせないようにした方がいい。せっかくのリーチも懐に入られては意味が薄いからな。あとは、どうしても懐に入られる事も状況によってはあるだろうから、そういう時のために小剣を持つべきだな。小剣ならば閉所でも扱いやすいし、取り回しもいい」
ここ1週間の間、訓練風景を見ていたリシアが、双子にあれこれと自分の知識を授けていく。
向上心著しい双子たちは、寝転んでいた状態から身体を起こし、リシアの話を真剣に聞いている。
うんうん、やる気があるのはいい事だな。
「ハイト、祈術全然使ってない」
横から、突然カナエに言葉の刃で刺される。
気にしてはいたのだ。
祈術の練習をするはずが、負けるわけにはいかないと、割かし本気で近接戦を挑んじゃったんだよな。
自分の祈術の腕を、信用しきれていない証拠だ。
「実戦で使いこなすのは、なかなかに難しいな」
本気モードのオルフェさんを思い浮かべて、俺は肩を竦める。
高度な祈術を使用しながら、斧槍でもって近接戦もこなすその姿は、実は自己評価が低い割にはかなり上位の強さだ。
カナエやジェーンを相手にする時は、祈術で七面撃ちにして彼女たちを寄せ付けず、やっとの思いで距離を詰めたと思えば、祈術の衝撃波で吹き飛ばされて仕切り直させるし。
彼女自身は近接戦闘のみに絞ると、うちの上位ランカーの中では下の方だと自己評価が低いのだが、そこらの冒険者なんかよりはよほど強い。
祈術を含めるのなら、S級冒険者一歩手前くらいにはなるのではなかろうか。
理想はまだまだ先だな、と思いつつ、俺はもっと祈術の練習を頑張ろうと決意を新たにするのだった。




