ワケあり11人目⑤
「帝国軍は気の毒だったな」
残る旧教国派の不穏分子を炙り出す作業に入った連合国、帝国と分かれ、俺たちはサンクリドへと戻ってきた。
拠点に落ち着いてから、今回の件に関して主だった人物を集めて話す。
なお、ほぼ徹夜だったオルフェさんは先に休ませている。
「相当な虐殺劇を見せられたのだろう。私も死体を見たが、あれは相当な力業だ。バイレンド傭兵団の総団長は、人間という括りでは最強格に近いのだろう。実物を見たわけではないが、状況証拠から得られる情報だけでも、真正面から戦うのは可能な限り避けるべき相手と言っていい」
リシアがここまで言い切るというのも珍しい。
というのも、リシアなら普通に用兵で勝てそうなものだと思うのだが。
「あたしでもああはならねえな。カナエほどじゃねえにしろ、あたしよりは力があると考えていい」
補足するように、ジェーンが自分よりも力がある、と付け加えたので、カナエ未満ジェーン以上の筋力がある、といった所か。
そう考えるとあの総団長が戦場に出てきた場合、マトモに相手取れるのはカナエくらい、という話になってくるな。
「どのくらい腕が立つかわからねえが、あの死体の損傷ぶりを見るに、単騎ではやり合いたくねえ。さすがに負けるとは言わねえけど、勝てるかって言われると難しいだろうな」
リベルヤ家の中でも恐らく最も好戦的なはずのジェーンが、タイマンでの勝負をやりたくないと言う辺り、よほど死体の損壊は酷かったらしい。
俺はみんなが一ヵ所に集めた死体を遠目から焼いただけだから、細かい所は全然見てなかった。
「万全を期すのなら、カナエとジェーンは最低でも一緒にぶつけておきたいな。確実にやるのなら、私も加わった方がいいだろう」
カナエ、ジェーン、リシアという、個人戦闘力では殆ど最上位の3人を集めてようやく確実に勝てる、という見積りになるのは相当だ。
あくまで得られる情報のみの判断で、実物を見ているわけではないから、正確性には疑問の残る見積りではあるが、変に侮って足元を掬われるよりはマシだろう。
「ま、バイレンド傭兵団と事を構えるのは、基本的には勘弁してもらいたい、ってのが実情なんだな」
俺が今まで出た情報をざっくりと纏めると、この場に集った一同は皆一様に頷く。
多分、勝てないという事は無いだろうけど、絶対に被害無しには済まないし、恐らくはどちらかが再起不能になるまでやり合うハメになる。
「辛気臭え話はここまでにするとしてよ。これからあたしらはしばらく待機だろ?」
「だな。表向きはサンクリドの治安維持に従事する事になってるが、裏では寝込んでる聖女の看病だ。そっちは基本的にはオルフェさん主導で動いてもらうから、リシアたちには表の方の仕事を頼む。エスメラルダは引き続き情報収集。教国内は一旦切り上げて構わないから、今度は小国家群と竜人族の商人について重点的に探ってくれ。今回の件、そこに鍵がありそうな気がする」
かなり周到な黒幕がいそうなのは予想できるので、今さら手がかりを残しているとは思えないが、それでも情報を洗い直せばわかる事もあるかもしれない。
エスメラルダがそれをしてないとは思わないが、俺にまで上がってきていない情報もありそうだし、案外違う誰かが見る事でブレイクスルーになる場合もある。
そういう意味では、1度情報を洗い直すのは悪くない選択肢ではないだろうか?
「わかったわ。明日にでも現状で集まってる情報を纏めて渡すわね」
「頼んだ。なるべく細かい情報も漏らさずにな」
とりあえず、現状の方針を決める打ち合わせとしてはこんなものだろう。
聖女の方はどの道それなりに時間がかかるし。
「みんなからは何か無いか? 無ければ後は休んでもらって構わないけど」
治安維持、と言っても定期的な巡回をするくらいなので、これといって業務は多くない。
実質、休暇に近いものがある。
なんだかんだ、今回は戦働きは少なかったけど、それでも要所で肉体労働はしてもらってるから、兵士たちにも交代で休暇を取らせたい所だ。
と言っても、教国内で休暇を与えたとして、これといってやる事は無い。
買い物をしようにも、品揃えが王都よりは数段落ちるし、以前の騒動で大聖堂は倒壊してしまったので、観光できるような場所も無いと、絶妙にやる事が無いのだ。
確認してみても、特にこれといって意見も上がってこないので、解散の宣言をすれば、みんなはそれぞれ自分の部屋へと戻っていく。
「あと1ヶ月くらいはここにいるハメになりそうだな……」
聖女の件がどう転ぶかわからないが、このままだとずるずると残業させられかねない。
それは勘弁だなあと思うが、実際問題、今回の騒動の背後関係が思ったよりも複雑なので、この辺りにケリを付けておかないと、また教国に呼び出されかねないしな。
後の禍根をしっかりと絶って、こんな面倒な事はこれっきりにしたい所だ。
あと、単純にシャルが恋しい。
「主様、浮かないお顔をされていますね」
ちょっとだけ帰りたい気分になっていた所に、フリスの声が聞こえたので、天井をボーっと見上げていた視線を下にずらす。
もはや気配無く現れるのがデフォになったフリスは、俺のベッドでごろごろしていた。
何やってんだ、と思いつつも、とりあえずは指摘しない事にして、俺は椅子の背凭れでだらけさせていた体勢をすこしばかり整える。
「王都の方は大丈夫か、とか色々と思う所はあるさ。まあ、シャルがいるから大丈夫だとは思うけど」
「奥様に会いたいんですよね?」
ベッドの上でごろごろしているフリスが、揶揄うような表情で俺を見た。
こればっかりはなあ。
さすがに長い事顔も見てないと、好きな相手が恋しくもなるさ。
もう教国に来てから1ヶ月以上は立ってるし。
「そりゃな。現状の王国の情勢上、俺しか適任がいなかったのはあるけど、積極的にやりたい仕事だったかと言われれば、ノーと言わざるを得ない。正直な所、騒ぎの原因そのものは潰したから、もう帰りたいってのが本音だよ。けど、ここで後始末を適当にしたら、また近いうちに呼び出されかねん。さすがにそれは勘弁願いたいからな」
「それもそうですねえ。そういえば、もうじき主様の誕生日が来ますね」
誕生日。
今の今まで、忙しくてすっかりと忘れていた。
4の巡りの26日で、俺は15歳になる。
とはいえ、このまま教国内で誕生日を迎える事になりそうだが。
「もう15かー。そう考えると、俺が生家を追い出されてちょうど1年になるんだな。今まであった事を考えると、まだ1年しか経ってないのが驚きだよ」
「他人からしたら、主様の経歴は色々と異常ですからね……よし、主様成分を補給したので、私は戻りますね。それでは、おやすみなさいませ」
俺の成分を補給ってどういう事……?
そんな内心の疑問に答えてくれるはずもなく、フリスは音も無く部屋から去って行った。
……うん、疲れたから俺も寝よう。
これ以上深く考えるのを諦め、俺はベッドに横になるのだった。
ベッドからは、ちょっとだけフリスの匂いがした……ような気がする。




