ワケあり11人目③
「容体はどうだ?」
連合国との打合わせを終え、少しの休憩を挟んでから、俺はオルフェさんの所へ顔を出していた。
村人たちが暴れたりしていないか、聖女の状況はどうか、と確認するためだ。
「特に変わりありませんね。村人たちは一部を除いてほぼ元に戻っていますし、聖女さんはまだ意識が戻っていません」
手元で帳簿にカリカリとペンを走らせながら、オルフェさんは応じてくれた。
部下として彼女に付けた衛生兵たちも、せっせと仕事に励んでいる。
どうやら、上手い事手分けできているようだ。
「このまま何も無ければいいけどな」
簡易ベッドに寝かされている聖女を見ると、安らかな寝顔で規則的な呼吸を繰り返していて、本当に具合が悪いのかが疑問に思えてくるな。
まあ、発見当初もこんな感じではあったから、急変が無かったと言われればそれまでなのだが。
俺にしかわからない情報もあるかもしれないと思い、聖女に向けて鑑定をかけてみる。
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リーリフラン・フォリストヴァ
17歳
種族:樹人族
身長:155センチ
体重:54キロ
状態:休眠(薬物中毒)
生命力:15
精神力:20
持久力:10
体力:10
筋力:8
技術:10
信念:60
魔力:2
神秘:2
運:2
特殊技能
・武器熟練:祈術触媒
・製薬熟練
・植物の知識
・自然との融和
・祈術熟練
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鑑定してみてわかった事は、聖女の名前と身体の状態、持っている特殊技能だけだが、彼女が重度の薬物汚染に侵されているのに、生命活動を維持している理由がわかった。
状態が休眠状態、とあるので、恐らくは生命維持に必要な最低限の機能以外を停止し、身体への薬物の影響を最小限に抑えているのだろう。
逆に言えば、薬物の影響が無くならない限り、彼女が目覚める事は無さそうだ。
「そういえば、連合国から薬に関する資料の提供があった。王国で使われるもの以外もあるかもしれないから、役立ててくれ」
忘れる前に、オルフェさんに連合国から貰った薬の資料を渡しておく。
とはいえ、毒なら俺の魔術で抜けるだろうが、薬の影響となるとどうだろうか。
毒と薬は紙一重と言うけど……。
「樹人族、ね。そう言われてみれば、特徴はあるな」
眠る聖女を見下ろせば、鑑定結果にあったように、樹人族というのがよくわかる。
草木のような緑色の髪に、1輪の白百合が咲いており、生花を髪に挿しているようにも見えるが、これが樹人族特有のものだろう。
樹人族に咲く花は身体と繋がっており、神経も通っているらしいが、あくまで本で読んだ知識だ。
もしかしたら、よっぽどオルフェさんの方が詳しいかもな。
とりあえず、薬の影響を抜くなら、透析とかになるのだろうか。
とはいえ、この世界にはそんな技術は無いしな。
気長に待つしか無いのかねえ。
身体が休眠状態って事は、代謝も相当落ちてるはずだから、何かしら外部補助も欲しい所だ。
「聖女の治療については時間をかけるしかないですね」
「だよな。また何か変化があれば知らせてくれ。俺も色々と調べてはみる」
とりあえず、現状では有効な手段が無いという事で、俺はそのままオルフェさんのいる臨時救護所を後にし、休む支度に入る事にした。
とはいえ、もう天幕は張ってるし、あとは夕食を摂ったら寝る前に身体を拭くくらいなものだ。
エスメラルダに色々と情報を拾うように指示も出したし、やれる事が特に無い。
こういう時は……身体でも動かすか。
「カトレス、クルス、ちょっと運動に付き合ってくれ」
無心で身体を動かす事で纏まる思考もあるかもしれない。
そう考えて、双子を伴って広い場所へと移動する。
ちょうど、付け焼刃とはいえ祈術も覚えた事だし、練習にはちょうどいいだろう。
祈術と魔術を上手く使いこなせれば、俺はもっと強くなれるし、色々な状況に対応できるようになれるはず。
「ちょっと試したい戦法があるから、適当に2人で俺にかかってきてくれ。攻撃は寸止めでいいから」
軽い組手くらいならできるであろう広い場所に出てから、祈術触媒用のルナチェイニを背中の鞘から抜き放ち、両手で握る。
周囲の兵士たちの目があるが、どこに行ったって天幕内以外は兵士の目があるので、そこは割り切りだ。
黒い大剣はやや細身で見た目よりはずっと軽いが、それでも大剣だけあって重量は相応なので、片手で存分に振るうには些か俺の筋力が足りない。
カナエやジェーン、リシア辺りは普通に片手でも振り回すだろうが。
「えっと、うちら2人だけで大丈夫?」
「もっと人数いらない?」
そこまでガチガチな手合わせというつもりは無かったのだが、相手を頼んだ双子は不安そうにこちらを見る。
ああ、そういや俺の戦う姿は1回見てるんだっけか。
そりゃあ本気でやったら双子だけじゃ相手にならないけど、今回は実験と試運転の意味合いが大きいからな。
変に強い相手よりちょうどいい。
「試したい事があるって言ったろ。本気でやりたいなら最初からカナエとかリシアを呼ぶさ」
あんまり萎縮されるのもな、と思い、お前らは実験台にちょうどいいと挑発してみれば、双子は顔を見合わせてから、戦意を顔に宿して武器を構えた。
よしよし、そういう所は歳相応で素直だな。
その調子でかかってこい。
「強射撃!」
強く弓を引き絞って、クルスが戦技を放つ。
恐ろしく早い一矢だったが、さすがに初撃で見せられても当たるはずも無い。
避けるなり大剣で弾くなり、対応はいくらでもあるが、ここは早速実験をしようじゃないか。
「岩の盾」
咄嗟に大剣から左手を離し、空いた左手で祈術を発動。
自然魔力を利用して左手の先に丸い岩を生み出し、放たれた一矢を受け止める。
矢は深々と岩に突き刺さったが、貫通する事無く受け切った。
なるほど、あくまで生み出した物質に強度は依存するっぽいな。
この辺りは熟練度によるものもあるのかもしれないが、守りに使うなら、素直にそれ専用の祈術を使うべきかもしれない。
「たあっ!」
俺が足を止めてクルスの一矢を受け止めた所に、カトレスが槍を突き込んでくる。
なかなか鋭い一撃だが、寸止めのためか、やや勢いが弱い。
まあ、この辺りはハードル下げるために寸止めでいいって言ったしな。
これがカナエとかジェーンだと直撃したら死ぬような一撃を平気で出してくるから、かなり神経を使う。
その辺りは彼女たちなりに俺の実力を信頼しているからなんだろうけど……毎回気が気じゃない。
どこか遠慮がちな部分もある双子との組手にほっこりしながら、軽く汗をかくまで祈術を使いつつ、組手を行ったのだった。




