ワケあり11人目②
「細かい事は帝国と合流してからになるでしょうが……絶妙に扱いに困りますね」
俺の思い付くような事だ。
連合国という大きな国を取り仕切るヴァルキア代表が気付かないはずが無い。
詳細は帝国と合流してから決めるにしても、ある程度の方向性は考えておくべき、というのは俺たちの間では共通認識だろう。
「意識は戻っていないとの事ですが、どのような容体なのですか?」
「酷い薬物汚染の形跡があり、かなり酷い状況のようです。ただ、生命の危険は全く無いようで、うちの医務官の見立てでは祈術で自分の身体を保護していたとの見解ですね」
薬漬けにして、聖女を自分たちの都合のいい旗頭にしようと画策していたのだろうな。
当然、非人道的な手段である。
内容を聞いたヴァルキア代表も、隠すまでも無く顔をしかめた。
「薬、ですか……。場合によっては後遺症が残る事も考えられますね。うちの軍に薬学に詳しい者がいますから、資料を後で用意しましょう。王国で使われていないようなものもあるかもしれませんから」
保護した以上は放置するわけにもいかないので、ヴァルキア代表も聖女の回復に力を貸してくれるようだ。
正直、王国で使われていないような薬物を使われていた場合、その対応が後手に回ってしまうので、かなり助かるな。
もっとも、機密的な部分もありそうなので、貸しとなるのが恐ろしくもあるが。
それこそ、一子相伝の秘薬だとか、そういう類のものはさすがに渡してこないとは思うが……こないよね?
「ご厚意に感謝します」
とはいえ、資料を渡すという事は、連合国はメインで聖女に対応する気は無い、という意思表示でもある。
そういう意味では多少の機密を俺たちに渡しても、面倒事の塊は背負いたくない、という強かさも感じられるので、落としどころとしては案外いいものなのかもしれない。
メイン対応をさせられる側としては、納得したいとは言えないが、かと言って第1発見者となってしまった以上は、わざわざ他国に対応を委ねるのもな、といった所だ。
これが連合国の出身者を見つけたとか、帝国の要人を保護したとかなら、その国に引き渡してハイ終わりで済むのだが。
「聖女に関しては、容体が回復するまでは存在を秘匿すべきでしょう。仮に何かあって、我々に責を問われるのも癪ですし」
ヴァルキア代表の言う事ももっともだ。
現状、教国は3大国の補助を借りねば立ち行かない状況であるため、非常に肩身が狭い。
最終的には自分たちの国が、損をしないための好意で3大国が教国を助けているに過ぎないのだが、これで状況が変わって植民地のような扱いを受けた場合、教国側に抗う術が無いのだ。
元より、武力や経済において3大国に勝てるはずもないが、自分たちの扱いや立場を向上させるために、聖女の扱い等に対して文句を付けてくる可能性もある。
聖女を保護したのはたまたまなので、その事で責を問われる謂われは無いのだが、大国ゆえに僅かな瑕疵が大局に影響する可能性があるので、そういう意味では言いがかりだったとしても変な噂は極力立たない方がいい。
そのために火消しの手間を取られるのは面倒だし、苦労が割に合わないのだ。
そういう意味では、面倒を避けるためにこちらの瑕疵になりそうな事案は避けるべき、という考えなのだろう。
「となると……しばらくはうちで聖女を預かる事になりますかね」
「そうですね。申し訳ありませんが、負担をおかけします。代わりと言ってはなんですが、残る旧教国派の不穏分子の割り出しは、連合国と帝国が主導で行い、王国軍にはサンクリドの防衛を担って頂くという割り振りにしましょう。裏で聖女を匿ってもらう事になりますが、それ以外の負担は極力こちらで引き受けるという事でいかがでしょう?」
軍を動かすにも金がかかる。
そういった金銭的負担を積極的に払ってでも、聖女という爆弾を内には抱えたくない、というのが連合国側の本音なのだろう。
まあ、俺が逆の立場ならそうするだろうし、実質の実働人数が1番少ない王国軍が、サンクリドの守護を固めるというのはあながち間違ってもいないのだ。
人数は一番少なくとも、戦力的に何か急変があった際に対応できるだけの実力があるメンツを揃えているわけだし。
まして、今回捕らえた旧教国派の人間から情報を引き出した上で、広範囲に渡って捜索を行うとなれば、人手も必要になるから、連合国と帝国が中心になって動く方が都合もいい。
「わかりました。それから、村人たちからも軽度ですが薬物反応が出ていますので、それが落ち着くまではこの場に留まる必要があるかと。うちの医務官の見立てでは明日には殆どが抜けて影響無くなるとの事ですので、明日を待ってから帝国と合流する形になるでしょう」
明日、村人たちから薬の影響が抜けて後遺症などが無い事を確認したら、国境を守る帝国との合流に動く事になる。
既に主要な旧教国派を捕らえた以上、依頼者がいなくなり、報酬を支払われなくなったバイレンド傭兵団はすぐに手を引くはずだし、それから可能な限りの旧教国派を炙り出して捕らえる事ができれば、今回の教国の争乱は収束したと見ていい。
事態の収拾まで、あともうひと踏ん張り、といった所か。
「では、こちらで帝国の方に明日合流に向かうと伝令を送っておきますので、王国はもうお休み下さい。村人たちの保護や聖女の対応をお任せする以上、些事はこちらで受け持ちますので」
「わかりました。ご厚意に甘えさせていただきます」
結局、聖女に関してはうちで預かる事になってしまったので、それ以外の些事を引き受けるというヴァルキア代表のお言葉に甘えて、俺たちは連合国の野営地を後にした。
自分たちの天幕に戻り、とりあえずホッと一息吐く。
「ふう、緊張した。うちら、場違いじゃなかった?」
他人の目が外れたからか、カトレスが素の口調で問うてくる。
基本的に後ろに控えていただけなので、双子がどういう状態だったかは見ていないのだが、変に注目を集めるような事も無かったし、問題は無かったんじゃないかと思う。
結局はただ黙って控えてるだけだしな。
「別に問題無かったと思うぞ。教国にいるうちはあんな感じで黙って立ってるだけでいい。国に戻ったら国王陛下と俺が顔を合わせる事も増えるから、もっと緊張するぞ」
今で緊張してたら、心臓が保たないぞ、と暗に伝えると、双子は露骨に嫌そうな顔をしたが、これから俺の従者兼護衛という役割を続けていくつもりなら、我慢して役割を果たしてもらわないといけない。
それがわかっているからか、嫌そうな顔はしつつも、2人とも否は唱えなかった。
まあ、こういう場で嫌な顔をするくらいなら細かく言うつもりは無いし、ちゃんとその時には役割を全うしてくれればいいだけだ。
そう考えると、やはり元貴族というだけあって、俺より年下でもしっかりしてるなと感じる。
あとは、聖女関連で面倒事が起きないといいな、と希望的観測をしながら、俺は身体を休めるのだった。




