ワケあり11人目①
今回からワケあり11人目の開始です。
大筋では教国騒乱編の中編といった所ですので、まだしばらく教国絡みの話が続きます。
「結果が出ました。村人たちは軽度ですが薬物反応があり、旧教国派に扇動されたと見て間違いありません。正確な成分はわかりませんが、麻薬の成分が検出されています」
色々あって、俺たちは旧教国派の残党を処した村の付近に野営していた。
連合国と俺たちとで別れて2方面作戦を取ったのだが、その両方が当たりだったのだ。
俺たちの方は巨大コブラという怪物が出たが、連合国側は殆ど戦闘力の無い者ばかりで、制圧にはそれほど手間取らなかったという。
それで解決、といけば良かったのだが、俺たちと連合国側のどちらも、村人が激しく抵抗をしてきたので、その全員を捕らえており、その後の扱いに難儀していたので、すぐに対処が終わらないと判断して野営の支度をしたのだった。
野営の支度が一段落といった所で、村人たちの異常な興奮状態を検査させていたオルフェさんが、俺の天幕へとやって来る。
「薬物反応、ねえ。まあ、村人たちの異常な興奮状態からして、判断力を鈍らせて扇動したんだろうな。それで、村人たちの容体は改善しそうか?」
「今夜1晩時間を置けば、それなりに落ち着くと思われます。幸いにも、現状では禁断症状のようなものは見られていませんので」
とりあえずは、今晩が峠といった所か。
まあ、命が危なかったりはしなさそうだから、そういう意味では安心とも取れるが、薬というのは何があるかわからない。
遅効性の副作用で急に容体が急変する、という事も無いわけじゃないだろうし。
ともあれ、医療関連は専門家に任せるしかないので、俺には警備の兵を厚くしておくくらいしかできないな。
「聖女の方は?」
巨大コブラの残骸から発見された聖女。
依然として意識は戻っていないが、生きてはいるので、こちらもオルフェさんに預けて容体を看てもらっていたのだが、その後の状況はどうなっているのだろうか。
「まだ意識は戻っていませんね。検査もしましたが、かなり酷い薬物汚染に侵されています。生命機能を保っているのが奇跡的と言っていいくらいですね。その上で、今の状況と彼女が発見された当初の状況から、私なりに仮説を立てたのですが……聖女からかなり強い祈術の残滓を感じたので、恐らくは無意識下で自分を保護する祈術をかけていて、重要な身体機能を守っていたのではないかと」
「オルフェさんから見て、聖女はどのくらい祈術が使えると思う?」
彼女の見立てでは、祈術で生命を維持してるとの事なので、聖女はもしかすると相当な使い手なのかもしれない。
それこそ、オルフェさんを越えるほどの。
「相当の祈術の使い手ですね。術の出力に関しては、私よりも間違い無く上です」
「で、治療にはどれくらいかかりそうだ?」
「しばらくの間かかると思います。具体的な期間に関してはもう少し経過を観察しないとわかりませんが」
命に別状は無いみたいだけど、回復の見込みは立たないといった所か。
とはいえ、聖女の扱いは少々難しい所がある。
教国においては影響力の大きい人物ゆえに、今の状況を公表するかとか、色々デリケートなのだ。
まあ、連合国のヴァルキア代表には共有済みだし、今後3大国で協議する事になるだろう。
「わかった。報告ありがとう。それじゃ、引き続き村人たちの経過観察と聖女の処置を頼む」
報告を貰ってから、オルフェさんに通常業務に戻ってもらい、俺はこの後控えているヴァルキア代表との会談に向けて話す事項を纏めておく。
こちらの戦果と被害状況に関しては、まあサックリでいいだろう。
被害は軽傷が10人くらいで軽微だし、戦果に関しては敵対勢力を撃滅して聖女を助け出せた。
問題は、助け出した聖女をどう扱うかという問題なのだが。
まあ、俺たちが最後まで面倒見る義務は無いとして、そのまま教国政庁にでも預けて帰るのが濃厚かね。
とはいえ、懸念点もある。
聖女という存在がいる限り、またそれを担ぎ出して反乱を企てる間抜けがいるという可能性もあるのだ。
そういう意味では、3大国のどこかで引き取るという話も無くはないのだが……。
いかんせん、面倒になるのがわかりきっている上に、聖女を受け入れるメリットが3大国に無いという問題だ。
何なら、丸々余分に1人分の余計な食い扶持が増えるわけで。
まして、あの会議の時の箱入り具合からして、何か国の役に立つかと言われれば……うん、一旦1人で考えるのはやめよう。
良くない事ばかり考えてしまうな。
ヴァルキア代表との打ち合わせに向かうべく、俺は自分の天幕を出る。
すぐ外にリシアがいたので、声をかけるべく彼女の側へ歩いていく。
「リシア、俺はこのままヴァルキア代表と打ち合わせに行ってくる。一応、捕らえた村人たちが暴走しても抑えられるように、警備は厚くしておいてくれ」
「うむ、心得た。ちゃんとカトレスとクルスを連れて行くようにな」
「わかってるよ」
捕らえた村人たちが暴れ出しても抑えられるよう、警備を厚くするようリシアに申し付けてから、俺はカトレスとクルスの双子を伴って、連合国側の天幕へと向かう。
連合国の兵士に声を掛ければ、お待ちしていました、とヴァルキア代表のいる大きな天幕へと案内される。
「お待たせしました」
別にいつから打ち合わせ、と決めていたわけではないものの、俺の方から顔を出すと申し出ていたので、挨拶として軽く頭を下げておく。
「それほど待っていませんよ。むしろ兵たちを少し休ませる事ができました。それではどうぞ、お掛け下さい」
天幕内の中央に設置されたテーブルとイスの方へ座るよう促され、俺は双子を背後に控えさせた上で設置されている椅子に腰を下ろす。
ヴァルキア代表と向かい合う形になって、今回の報告会が始まる。
「まずはこちらからいきましょう。連合国側の戦果としましては、旧教国派の主犯格をほとんど捕らえる事に成功しました。あまり腕の立つ者もいなかったので、被害としては軽傷者が50名程度ですが、いずれも大した事はありません」
連合国側の戦果は上々で、負傷者の人数こそ俺たちより多いが、いずれも軽傷との事なので、これといって問題は無いだろう。
あとは捕らえた旧教国派の主犯格を尋問し、残る不穏分子を洗い出せばおおよその対応は完了といった所か。
本当に、こっちで見つかった聖女という面倒事が無ければ、気持ち良く事態の収拾を迎えられたというのに。
「こちらは敵の切り札である生物兵器と思われる怪物を撃滅し、被害は軽傷者が10名程度と非常に軽微です。それと、行方不明になっていた聖女を確保しました」
聖女を確保した、という言葉に、ヴァルキア代表の眉がピクリと動く。
「現在、意識不明ですが命に別状は無いという事で、こちらの医務官に観察を処置を任せています」
「……そうですか。いっそ、見つからなかった方が、対応が楽だったんですが」
僅かばかり表情をしかめたヴァルキア代表の様子から、やはり想像通り、聖女の存在は面倒事だったんだな、と確信しながら、俺はこの後の話し合いをどう進めるかを考えるのだった。




