ワケあり10人目⑧
新年明けましておめでとうございます。
今年もワケありをよろしくお願いします。
今回の更新はほんの少し短めです。
「なるほど……想像以上に状況は深刻、というわけですね」
俺が一通りの情報共有を終えると、ヴァルキア代表は大きな溜息を吐く。
彼女が連れてきた側近2も、苦い表情を浮かべている辺り、なかなかに状況は悪いと言える。
「代表、いかがなさいますかな? 増援は間に合いませんし、そもそも教国に肩入れする義理も無いでしょうと愚考いたしますが」
連合国の側近が言う事にも一理あるな。
結局の所、教国から面倒を押し付けられている割には、3大国側が得られる利益が限りなく薄い。
自分たちの兵力に損害を出してまで守る必要があるのか、と問われればノーと答えたくもなるだろう。
「……この件は持ち帰りましょう。この場ですぐに答えを出す事ではありませんし、帝国が合流してからでも遅くはないでしょう」
ま、そうなるわな。
結局の所は3大国の共同で支援をしているからこそ、今の教国は成り立っているわけで。
ここで仮にリアムルド王国が支援続行、連合国が打ち切りを表明しても、帝国が支援続行を選んだ場合、連合国側が足並みを乱したという形になってしまう。
とはいえ、国に利益にならない所に投資をしても旨味が無い。
支援の打ち切りを考えてしまうのも無理からぬ事だ。
「この話は、現状進まないでしょうから、話を変えましょうか。我が国の民を拉致していた不届き者たちの所属はどこです?」
帝国も交えないと決まりようが無い話題を続けてもしょうがない、と連合国側はある意味での本題である人攫いについて尋ねてきた。
今までの柔和な表情から一転し、ヴァルキア代表は殺気すら感じさせる目でこちらを見ている。
その迫力は、嘘はごまかしは許さないという気迫に満ちており、思わず生唾を飲み込む。
とはいえ、ここで動揺を表に出してしまうようでは、陛下から全権代理人を任された意味が無い。
「正確な情報は何も。我々も独自に捜査をしていますが、未だに尻尾を掴めていません。現時点で判っている事は、実行犯は竜人族が多かった事、また、それを隠す手段を持っていた事の2点です。リアムルド王国としては、背後に闇奴隷商組織が関与していると見ていますが、以前より3大国で協調しての捜査を行っていても、全く尻尾を掴めない相手ですので、あくまで推測の域を出ませんけど」
この件に関して、どこまでの情報を開示するかは全権代理人の俺の判断となるわけだが、元より友好国であり、闇奴隷商についても共同戦線を張っている連合国なら、今の最新情報を出しても問題無いだろう、と判断した。
とはいえ、こちらでも探り切れているわけではないし、色々と想像の域を出ないからな。
いっそ、連合国にも検証や推測を手伝ってもらった方が有意義なんじゃないかと思った次第である。
「なるほど……闇奴隷商絡みですか。以前よりも活動が活発になっているようですね。特に我が国は、多種多様な種族が暮らす関係上、物珍しさで奴隷としての価値が高いらしく、3大国の中でも特に被害が多いのです。なかなか足が付かない事も多く、もしも詳細を知っているのならと、少し殺気立ってしまいました。申し訳ありません」
「いえ、自国民を攫われたとなれば、無理からぬ事かと。現時点では情報共有しかできませんが、何か進展があれば、我々も全力で協力しますので」
「そう言っていただけると助かります。それでは、私たちはこれで一度失礼しますね。帝国が合流してきたら、またお会いしましょう」
今後の事に関しては、帝国が合流してきてから決めようと言い残して、ヴァルキア代表は去って行った。
色々と考えるべき点も多かったし、俺の中で教国を見捨てるという選択肢が無かったので、今日の会談は非常にタメになったな。
全権代理人、という事は王国の利益を最大限に考えなければならなかったという事。
視野が狭かったのだな、と思い知らされた時間だ。
「……で、あなたはどうするつもり?」
連合国のお偉方が帰ってしばらくして、沈黙を保っていたエスメラルダが口を開く。
「俺個人としては、見捨てるべきという意見にも一理あるとは思ってる。心が納得できるかは、別問題だけどな。正直な所、教国にはいい思い出なんて無いし。けど、領地を持った身だからこそ、こういう所で誰かを切り捨てるような真似をしてもいいのか、って考えてる。全てを救う、なんて綺麗事なのはわかってるんだけどな」
「そう。でも、決断の時は、そう遠くないわよ」
俺の考えを否定するでもなく、肯定するでもなく、エスメラルダは困ったような笑みを浮かべる。
どこか困った親戚の子供を見守るような眼差しだが、彼女からすれば俺なんてよちよちの赤ちゃんに等しいだろう。
子供扱いするな、と反抗心を覚えないわけではないが、彼女と俺とでは積み重ねてきた時間がまるで違うのだ。
「わかってるよ。精々悩むとするさ」
俺は肩を竦めるに留め、結局は思い悩む事にするのだった。
帝国の合流まであと数日。
現状では、それほど大きな問題は起きていないが、旧教国勢が何か行動を起こさないとも限らないので、警戒を緩めるわけにはいかない。
「……難しい問題だな。本当に」
領地を持つ為政者として、陛下の全権代理人として、1人の人間として。
立場が変われば、考える事も、要求される事も違う。
それでも、最終的には切り捨てるという判断を下さざるを得なかったとしても、俺は考える事をやめてはいけないのだ。
ただ慣例や損得にだけ判断を委ねるのは、考える事をやめて逃げているのようなものだから。




