ワケあり10人目⑦
筆乗りが良かったので二度目の更新です。
「ハイト、連合国の代表が訪ねて来たわ」
色々と自分たちで動ける範囲で動いていた俺たちだったが、連合国の到着予定日の昼頃の事だった。
昼食を終えて少ししたら、連合国の代表を訪ねに行こう、なんて予定を立てていたら、向こうからこちらを訪ねてきたようだ。
油断していた所にエスメラルダから声をかけられ、俺は慌てて身支度を始める。
どうせ出掛ける前に支度をするのだから、それまでは部屋着でいいかと寛いでいたのが裏目に出たな。
「とりあえず少しだけ待ってもらってくれ!」
大急ぎで外行きの服に着替え、放置していた寝癖などを直し、おおよそ5分で身支度を整えてから、エスメラルダに代表を部屋に通すよう伝える。
幸いな事に、部屋そのものは散らかしてなかったのが救いか。
「お久しぶりです。以前の教国会議以来ですね。お元気でしたか?」
ノックと共に入室してから、連合国代表は小さく会釈し、部屋の中に入ってくる。
他に側近や文官と思われる人たちが2人一緒に入ってきたので、俺も会釈を返しておく。
「わざわざお訪ねいただきまして、まことにありがとうございます。昼下がりくらいに私から訪ねようと思っていたのですが」
「いえ、こちらこそすみません。我が国の民の事となるといてもたってもいられず。急な訪問にも関わらず歓待していただき、ありがとうございます」
とりあえず宿の部屋に備え付けてあるソファーの方に連合国の皆さんを案内してから、俺もその対面に腰を下ろす。
ちょうどそのタイミングを見計らって、エスメラルダがお茶を給仕してくれた。
相変わらず、よく気が利くな。
「連合国出身の方々は、先ほど連合国の宿舎にご案内いたしました。彼女たちから聞き出した名前や出身地の名簿はこちらに」
いつの間にかエスメラルダの方で人を動かしていたようで、従者として俺の後ろに立って控えつつも、必要な事を先回りしてやってくれている。
彼女の有能さに連合国の代表も気付いたのか、目を丸くしてこちらを、正確にはエスメラルダを見ていた。
「血染めの月の首領というと、もっと悪人らしい方を想像していましたが、こうして見ると、存外普通の人間なのですね。いえ、悪しざまに言いたいわけではないのですが」
「ええ、なんとなく仰りたい事はわかります。私ももう、彼女の働き無しではやっていけませんから」
エスメラルダの事で話が進んでいると、連合国代表の隣に座る男性がオホンと咳払い。
どうやら、とっとと話を進めろと言いたいらしいな。
「話が横道に逸れましたね。改めまして、私は連合国代表、ヴァルキア・ハルモニアと申します。この度は、我が国の民を保護していただき、感謝の言葉もございません」
隣の男性の態度に、苦笑いを浮かべた連合国のヴァルキア代表が改めての自己紹介をしてくれた。
「これはご丁寧に。改めまして、私はリアムルド王国所属、ハイト・リベルヤ伯爵です。今回の件は、たまたま縁あっての事。あまりお気になさらず」
一通り、自己紹介という名の通過儀礼を追えてから、改めてヴァルキア代表を眺めてみる。
柔和な表情ではあるが、目つきは切れ長で、どこか見覚えがあるような気がするな。
一体誰に似ていただろうか、と徐々に目線を下にスライドさせていくと、この世界では珍しく、胸元がかなりすとーんとしているのが目に入った。
ああ、思い出したぞ。
この人、側妃様にそっくりなんだな。
いや、胸元見て思い出すのも相当に失礼な話なんだけどもさ。
まあ、割と大きな違いもあるので気付くのに時間がかかったのだが。
何といっても、肌の色が違う。
側妃様は褐色肌のエルフ系、いわゆるダークエルフっぽい感じなのだが、ヴァルキア代表は色白で、通常のエルフやハイエルフと呼ばれる類の一般的なエルフ像に近い。
「ふふ、イヴァキアに似ているでしょう? あの子とは双子なんです」
俺の考えを呼んだか、はたまた顔に出ていたか、ヴァルキア代表は微笑みながら俺を見た。
陛下とは結構近しい関係というのも、伝わっているらしいな。
まあ、今初めて知ったけど、側妃様が双子の妹だっていうのなら、色々と情報が連合国に渡っていてもおかしくはないか。
無論、側妃様の事だから、流してもいい情報はもちろん厳選しているだろうけども。
「肌の色が違うので、気付くのに時間がかかりました」
俺が軽く頭を下げれば、ヴァルキア代表は慣れている、と言うように鷹揚に笑う。
「エルフというのは不思議なものでしてね。同じ親から生まれるのでも、肌の色が違う事があるんです。一説によると、先祖の血統が発現しやすい種族だからと言われていますが」
覚醒遺伝が起こりやすい、って事かね。
何だか、また話が横に逸れているような気もするが。
「オホン! 代表、話を進められてはいかがかな?」
話が脇道に逸れたなー、と考えていたら、側近らしき男性が再度咳払いをして話の軌道を戻しにかかる。
どうやら、かなりお堅い人物らしい。
「そうでした。それでは、我が国の民たちを保護していた間の費用をご請求下さい。ざっくりとした金額で構いませんから」
「いえ、それに関してはわざわざお支払い頂かずとも結構です。領収書のような物証が無い以上は、正確な証明ができませんから。なので、お礼をと考えて頂けるのなら、貸し1つという事で」
貸し、という言葉は便利だ。
とりあえず納得させてしまえば、こちら側から請求しなくていいし、もしも相手が本当に恩を感じてくれているのなら、何かしらのタイミングで返してくれる。
無論、相手が何も感じてなければ何も起こらないが、トラブルになる事も無い。
何とも使い勝手のいい言葉だろうか。
「……なるほど。どうやら、年齢に似合わず、なかなかに強かなようで。ですが、そういう事であれば然るべき時に、その貸しを返しましょう」
契約書も何もいらない、貸しという言葉一つで、面倒事を回避できる。
うーん、素晴らしい言葉だ。
これから先、何かのきっかけで連合国を頼る事があれば、この貸しを使ってある程度の融通も受けられるし、変に報酬を要求するよりずっと角が立たない。
何よりも、俺が必要としなければずっと請求する必要が無いのがいいな。
「せっかくですので、私たちが先行して掴んだ情報を共有しておきましょう」
便利な貸しという言葉で、費用請求がどうのという面倒な話題を打ち切ったので、また掘り返されないうちに俺たちが掴んだ情報を、ヴァルキア代表に共有していく。
バイレンド傭兵団の襲来、彼我の兵力差、旧教国の人間の暗躍。
話を聞くヴァルキア代表の表情は、みるみるうちに曇っていくのだった。




