ワケあり10人目⑥
大変久しぶりの更新になります。
年末のお仕事が忙しくて更新が進みませんでした……。
とりあえず、失踪はしていませんのでご安心下さいませ。
「戻ったわ」
予告通り、エスメラルダは自由行動をさせた翌日に帰ってきた。
時間としてはちょうど昼下がりくらい。
特に疲れた様子は見受けられないので、無理はしていないようだ。
「色々わかったわ。それはもう、嫌になるくらいにね」
最初っから不吉な前置きをされているのが気になるが、元より教国の状況が悪いのは周知の事実。
ならば、そこまで焦ってもしょうがないだろう。
無言で報告を促せば、エスメラルダは懐から丸めた紙を取り出して、俺へと差し出す。
何が書いてあるのやら、と受け取った紙を開いてみれば、思わず顔をしかめてしまう。
「バイレンド傭兵団が国境に迫ってる、か」
いくつか頭の痛くなる情報が書かれてはいたものの、一番目を引くのはバイレンド傭兵団が拠点としている小国家群側から教国に向かっている事。
到着予想は1週間後であるため、3大国が集結するまでの時間的余裕はある。
が、傭兵団の規模が問題だった。
「……総勢1000人からなる大部隊か。うちはともかく、連合国と帝国がどれくらいの人数を連れてくるかだな」
傭兵団、というくらいだから、そこそこの人数がいるとは思っていたが、まさか1000人も引き連れてくるとはな。
下手な国軍より厄介じゃないか。
大軍戦において、統率の取れた集団を相手取るのは難しい。
ましてや、恐らくは俺たち3大国の方が寡兵となるだろう。
王国よりマシだろうとはいえ、わざわざ教国の援護に大量の兵は出さないだろうし。
俺でもそうする。
「およそ半数は末端とはいえ、半分は精鋭ときた。さすがにカナエたちに勝つような相手じゃないとは思うが、数の上での不利は拭えそうにないな」
紙面の情報を読み進めていけば、連合国と帝国の軍勢についても調査されていた。
連合国は騎兵100騎に歩兵200人の、計300人を連合国代表が直々に率いてくるそうだ。
帝国からは歩兵200人の派遣で、将軍が皇帝代理として全権を委任されているとの事。
総数で言えば、3大国ひっくるめて600人の兵力。
数の上では倍近いとなれば、真正面からぶつかるのは得策ではないか。
王国の領土であれば、陛下に許可を取ってさえおけば、俺が前にやったみたいに上級魔術で脅してもいいんだが、あれをやると確実に付近の土地が荒れるからな。
さすがに他国で取れる手段ではない。
もう半年くらい経つが、あの時の上級魔術で破壊した街道は、未だ復旧が終わっていないのだ。
「どちらにしても、示威行為で怯むような相手じゃないわよ。ましてや、私たちの方が数で負けているもの」
「連合国も帝国も、大軍用兵器なんて持ってきてないだろうしな。さすがに野戦となると数の上で不利だろうし、どっかの地形で有利を取りたいとこだけど……」
地形ないしは砦のような防衛陣地で、ある程度は数の不利は補えるようにしたいなと思うが、この辺りはリシアたちも交えて話した方がいいだろう。
「一応、こっちで遅滞工作はしているけれど、あまり効果は見込めないわね。物資の入手を妨害しても、行く先で略奪していくし、街道を封鎖しても自分たちで道を整備して乗り越えるもの」
「それだけ金を積まれてるんだろうな。妨害されてもやる気があるって事は、略奪なんかを止めるような契約じゃないんだろ」
「でしょうね。一応、迎撃に向いた地形を調べさせてるから、あと数日ちょうだい。その上で、連合国と帝国が合流してきたら関係者を交えて軍議を纏めるべきだと思うわ」
さすが、俺の考えてる事をよくわかってるな。
既に迎撃地点の選定までしてるとは。
伊達に諜報部の頂点をやってないな。
「それと、こっちはあなたの名前を使って、連合国側に行方不明者を保護した件を知らせておいたのだけれど、向こうから合流次第引き受けると返事が来てるわ」
次にエスメラルダが懐から取り出したのは、見慣れない封蝋を押された封筒だった。
紙質は上質なもので、封蝋は連合国のものなのだろう。
エスメラルダの懐にしまってあったためか、少しばかり曲がった封筒から中身を取り出せば、女性らしい字で書かれた1通の便箋が。
4つ折りにされていた便箋を開いて内容に目を通していく。
[リベルヤ伯爵へ。
まずは我が国で行方不明となっていた民を保護して頂き、誠にありがとうございます。
後ほど合流した際には、民たちの身柄をこちらで引き受け、それまでにかかった費用を負担いたします。
また、民たちを保護した際の事も詳しくお聞かせいただけると非常に助かります。
教国で合流した際には、また改めてお礼を申し上げたいと思います。
それでは、教国でまた会いましょう。
連合国代表 ヴァルキア・ハルモニカ]
連合国代表が、わざわざ手紙を書いてくれたようだ。
確か、予定通りであればあと1日程度で連合国側は教国入りするはずだし、返事は出さなくてもいいか。
というか、出してもすぐ会う事になるだろうし。
わざわざ手間をかける事も無いだろう。
「とりあえず、明日は連合国の代表と面会かね。いつ到着するかはわからないけど」
「トラブルが無ければ、明日の早朝には到着するでしょうね。こちらから尋ねるのなら、昼過ぎくらいに行けばいいわ」
「ほんと、周到さに恐れ入るよ」
シャルもそうだが、おおよそ俺の欲しがる情報なんかを自主的に先回りして拾ってくるの、ほんとに有能だよな。
それゆえに暗部系統の統括に俺の側仕え兼護衛という、過労死枠の労働を強いられているわけだが。
俺の側仕え兼護衛が他に用意できたら、エスメラルダは暗部系統の統括に集中させられるんだけど。
元々が貴族で礼儀作法を始めとした色々な知識に精通してて、気も利くとなれば、そうそう代わりの人員なんているはずもないのだが。
「ふふふ、褒めても何も出ないわよ」
とはいえ、言葉にして褒められるのは満更でもないようで、彼女は上機嫌そうに微笑む。
元より美人ゆえに、その笑顔には人を虜にする魔性の色香がある。
時には、その美貌さえ武器とするのだろうな、と何となく考えつつも、これからの予定を脳内で組んでいく。
とりあえずは、叩き台となるようなバイレンド傭兵団の迎撃作戦をあらかじめ考えておきたいので、主要なメンバーを集めて会議をする必要があるか。
「エスメラルダ、みんなを集めてくれ。今回の情報共有と、今後の方向性について協議しておきたい」
「了解よ。ふふ、あなたのそういう聡明な所、私も嫌いじゃないわ」
みんなを集めるように指示を出せば、意味ありげに妖艶な笑みを浮かべてから、彼女はみんなを集めに出て行った。




