ワケあり10人目⑤
「彼女たちの様子はどうだ?」
保護した少女たちの世話を任せた女性兵士に声をかける。
声をかけた女性兵士は元より良かった姿勢を正し、敬礼。
確か、元々領軍にいたはずだけど、たかだか数ヵ月でここまでビシッとさせる辺り、リシアの調練手腕には驚かされるな。
「はっ。保護した当初よりは落ち着きを取り戻しております。まだ数名落ち着いていない者もいますが、おおよそは問題無いかと。それと、つい先ほどまで、教国政庁の方が確認に来られておりましたが、教国出身者はいないとの事です」
「わかった。これから少し話をしに部屋に入る。引き続き警護と世話を頼む」
ノックをして、少し間を置いてから、保護した少女たちのいる大部屋の扉を開く。
ゆっくりと中に入れば、サンクリドに到着してから用意した簡素な服に着替えた少女たちの姿があった。
まだ僅かに怯えの色は見られるが、悲鳴を上げられるようなことは無かったので、内心でホッと息を吐く。
「少しだけ話をしたいんだけど、いいかな?」
なるべく怯えさせないよう、少し離れた位置から声をかける。
声色も可能な限り優しく聞こえるよう配慮したが、すぐには返事が返って来ない。
「……その、うちらは、どうなるの?」
1分くらいたっぷりと待って、返事が無かったので出直そうか、と考えた辺りで、控えめな声で返事を返してきた少女がいた。
不安と恐れ、僅かばかりの決意が入り混じった表情でこちらを見ているのは、大きな狐耳の少女。
こちらを警戒しているのか、ピンと立った尻尾がブラシのように毛を立てている。
年齢は、俺と同じくらいか少し下くらいだろうか?
「どうなる、か。そうだな、色々と道はある。自分たちの故郷や家がわかるなら、帰れるように手配するし、もしも行き場が無いのなら、うちで雇おう。雇う場合はちゃんと適正を見て仕事を任せるし、やりたい事があるなら希望も考慮する。どちらにしても、今すぐに帰してはあげられないけどな。ちょいとばかし人手が足りないんでね。けど、ちゃんと身の振り方が決まるまでは面倒見るし、君たちを奴隷にしようとしたような連中からはちゃんと守る」
俺に返事をした狐耳少女だけでなく、全員に聞こえるようにハッキリとした声で言い切ると、先ほどよりも少しだけ張り詰めていた空気が落ち着きを取り戻したように思う。
尻尾をブラシのように膨らませていた狐耳少女も、尻尾が元に戻ったので、とりあえずはいくらか信用してもらえたかな?
「もし、話す気持ちの余裕があるなら、自分たちの住んでいた場所や今後の希望について教えてくれるか? 俺に話しにくいなら、こっちのお姉さんでもいいぞ」
目配せをすると、俺の少し後ろにいたエスメラルダが、ゆっくりと前に出る。
「エスメラルダよ。私の雇い主と話しにくかったら、お話を聞くわ。どうする?」
女性がいるからか、安堵の様子が見られる少女もいる。
やはりここはエスメラルダに任せるのが適任か。
「その、お姉さんで、いい?」
少女たちを代表するように、狐耳少女が俺の機嫌を伺いながら問う。
こればっかりは適材適所でいくしかないので、俺は笑顔で頷いてから、この場をエスメラルダに任せて部屋を出る。
さて、手持無沙汰になっちまったな。
情報の方も諜報部隊の結果待ちになりそうだし、とりあえずは待機かね。
…
……
………
「お待たせ。色々と聞けたわ」
自分の部屋に戻って1時間ほど経ってから、エスメラルダが戻ってきた。
やはり同性の方が話しやすかった、という事だろう。
「故郷がはっきりしない子も2人いたけれど、大半は連合国出身みたいね。あとはリアムルド王国出身が2人。故郷や出身がわかる子は、全員帰りたいって言ってたわ」
「なるほど。それなら連合国側の軍が合流してきたら、事情を話して身柄を預けるか」
「それがいいわ。向こうの規模次第じゃ隊を分けて国に送る事も可能だろうし」
「王国出身の子は悪いけど、俺たちが帰るタイミングに合わせてもらおう。さすがに分けて王国に返すほどの人手が無いからな」
思ったよりも身元のわかる子が多くて、少しだけ安心。
大半が連合国で、僅かにうちの国。
身元不明の2人はどうしたいんだろう。
「故郷がはっきりしない2人は、うちで働くか王国に来るかの2択になるって言っておいたわ。王国に来るなら、保護施設に預ける事になるっていうところまで伝えたら、少し考えたいって」
「ま、幸いな事に今日明日に帰るわけじゃないからな。じっくり考えてもらうとしよう。それじゃエスメラルダ、あとは自由に動いてくれ」
とりあえずは少女たちのおおよそ扱いが決まった所で、エスメラルダを送り出す。
もう宿から出る予定も無いので、身辺警護は足りてるし、ここで彼女を拘束するメリットが無いのだ。
「明日には1度戻るわ。それだけあれば各所の主要な情報は拾えるでしょうし」
「無理はしないようにな」
わざわざエスメラルダに自己管理を説く必要も無いとは思うが、こういうのは気持ちの問題もある。
出会いは最悪だったかもしれないが、今となっては彼女や暗部はうちにとって無くてはならない存在だし、全幅の信頼も置いているしな。
「そんなに無理するような段階でもないわよ。まあ、気持ちはありがたく受け取っておくわ。それじゃ、また明日ね」
ひらひらと手を振りながら、エスメラルダは出て行った。
これから暗部と合流して、色々と細かい指示出しをしたり、俺にくっついている時にできない仕事をするはずだ。
こっちはこっちで動いたとて何もできないので、せいぜいが兵の半数をサンクリドの治安維持に回すくらいか。
さすがに自分たちの守りも考えたら、他の街や村まで賄えるほどの人手はいない。
こればかりは連合国と帝国の合流待ちだな。
「さて、連合国の合流まで、何事も起こらないといいが……」
現状やれる事が無くなったので、俺は部屋のベッドに身を投げ出し、ボーッと天井を見上げる。
何だかんだ、長旅の疲れが抜け切っていなかったのか、意識が微睡み始めるまでに時間はかからなかった。




