ワケあり10人目④
「おはようございます。改めて教国の状況をお聞かせ願えればと」
翌朝。
俺たちは改めて教国政庁へ向かい、ノーマさんと話す。
彼が語った内容は、事前に知らされていた内容と特に遜色は無く、内乱の兆しが見えている、というものだ。
昨日軽く話していた行方不明者の照合は、宿の方に職員を行かせて確認してくれるそうなので、ありがたく任せておく。
他の3大国は連合国があと2日、帝国が5日ほどかかるとの事なので、一旦は俺たちだけで動く流れになる。
とりあえず、俺たちは独自に情報集めに動く事、食料などの消耗品関連の補給に関しての協力要請を取り付けて、政庁を後にした。
「場所は?」
「サンクリドの外縁部に仮設拠点があるわ」
エスメラルダの案内で、今度は諜報部隊と合流しに行く。
彼女の言う通り、サンクリドの外縁部にあるスラム街に該当する部分に、仮設の建物がいくつかあった。
よく観察してみれば、その仮説の建物たちは、周囲に溶け込むよう偽装されているが、まだ真新しい。
「姫様、こちらです」
諜報部隊の長である、特徴の無い男が俺たちを仮設住宅の中へと招き入れると、そこには昨日捕らえた怪しい集団のリーダー格である大男が手枷をかけられた状態で椅子に座らされている。
彼はむすっとした表情で俺たちを睨むが、特に何かを発言したりはしない。
「情報は何か引き出せたかしら?」
「いえ、今の所は何も。拷問にはかけていませんが、仲間を引き合いに出してもだんまりです」
現状では口を割っていない、という事か。
とはいえ、竜人族が多く関わっていたとなれば、おのずと選択肢は狭まる。
問題は、竜人族の里が1ヶ所以外に判明していない、という事だ。
あまり種族的な士族問題には詳しくないし、場合によってはリアムルド王国以外の地の出身の可能性もあるので、どうしたものかと思う。
「……プロテは元気か?」
とりあえず、カマをかけてみようか、と俺の知る竜人族の里長の名前を出せば、大男の表情に僅かだが変化が見えた。
少なくとも、プロテを知る者ではあるようだ。
とはいえ、相変わらず口を開く様子は無いので、エスメラルダに目配せをしておく。
「拷問にかける許可を出すわ。死なない程度にね」
「かしこまりました。連れて行け」
部下に大男を連れて行かせてから、特徴の無い男はこちらに向き直る。
「それでは、私たちがこちらに来てから集めた情報を共有します。事前に共有されていた通り、内乱に発展する可能性がかなりあります。聖女を戴く自分たちが正当な竜然教である、というのが向こうの主張ですね。今は声明を上げて支持者を募っている段階ですが、実力行使に出るのも時間の問題かと」
旧教国の人間が中心になって集まったのはいいが、内乱を起こす兵力をどこから持ってくるつもりだ?
そんな疑問を持った俺は、特徴の無い男を見て発言権を求めて小さく手を挙げた。
「ハイト様、何か疑問点が?」
「旧教国の人間が集まったのはいい。けど、生き残った旧教国の人間はそんなに数がいないし、周囲を煽動したとしても、内乱に発展するほどの戦力になるとは思えない」
俺の質問に対し、もっともな疑問ですね、と前置きをしてから、特徴の無い男は懐から折り畳まれた紙を取り出すと、それを広げて内容をこちらに見せつける。
「……バイレンド傭兵団?」
あまり耳馴染みの無い単語に、思わず首を傾げてしまう。
傭兵とか冒険者とか、リアムルド王国での有名所以外はあまり知らないんだよな。
どうやら、紙に書かれているのは、バイレンド傭兵団との契約紙面のようだ。
契約者の名前に、以前の旧教国でそれなりの立場にいたやつのものがあったので、要するに外部から兵力を持ってきた、という事らしい。
「いい噂を聞かない所だな。命令違反は日常茶飯事。禁じようとも勝手に略奪を行う。戦闘力は凄まじいだけに、その圧倒的戦力目当てで雇用は途切れない。そんな傭兵団だな。確か、小国家群のどこかに拠点を置いていたはずだ」
どうやら、リシアはバイレンド傭兵団についていくらか知識があったようで、わかりやすく解説してくれた。
要するに、やりたい放題で評判そのものは良くないが、戦力そのものは本物、というわけだ。
「問題は、その傭兵団を雇うだけの資金をどこから持って来たか、って所ね」
もしも旧教国側に太い資金源があるとすれば、バイレンド傭兵団に続く第二、第三の戦力を投入してくる可能性もあるわけで。
バイレンド傭兵団の規模は知らないが、有名であるという事はそれなりに規模は大きいだろう。
連合国と帝国がどれだけの兵力を持ってくるかは不明だが、場合によっては数的不利を背負う可能性があるな。
「旧教国側の繋がりはまだ追い切れていませんので、現状の情報はここまでとなります。今は、捕らえた集団から情報を回収しつつ、旧教国側の方に探りを入れている状態ですね。あと数日あれば追加で情報を得られるとは思いますが」
「わかった。引き続き情報を集めてくれ。あとはバイレンド傭兵団についても、可能な範囲で探っておいてくれると助かる。仮にも戦う可能性があるのなら、情報はあって損しないからな」
正規の兵士よりも、傭兵団のような集まりの方が、相手をする上で手強い。
兵士というのは訓練の過程である程度は正道の戦い方を仕込まれるので、あまり奇抜な戦略は取らない事が多いが、傭兵となれば生き残るため、勝つためならば何でもする、という事がままある。
そうなると、兵士からは考えも付かないような奇抜な手を使ってきたり、こちらの意識外を突かれる可能性があるので、そういった不安要素はなるべくカットしておきたいからな。
「かしこまりました。何か分かり次第、姫様に共有します」
「負担をかけて申し訳ないが、よろしく頼む」
諜報部隊との情報共有と指示出しを終えて、俺たちは宿へと戻った。
ある程度は独自に動くと言っても、俺たちだけで旧教国の勢力を探し出せるわけでもない。
いかに大国ほどの面積は無いとはいえ、それでも小国家群に比べれば領土は広いので、探すとなるとなかなか骨が折れる。
やるのなら、先に情報収集をしていおいて、連合国と帝国が合流してから共同戦線で動く方が効率もいいし、相手を逃がさずに済むだろう。
「みんなはとりあえず休んでてくれ。俺は囚われていた人たちの様子を見てくる」
俺たちが諜報部隊と会っている間に、違法奴隷として囚われていた少女たちに教国出身者がいないかどうか、政庁の職員が確認に来ていたはず。
その辺りの確認と、彼女たちから情報を何かしら得られないだろうか、という狙いだ。
「私も行くわ。あなただけだと警戒される可能性もあるし」
「それもそうだな。悪いけど頼む」
男だけだと警戒される可能性がある、と同行を申し出てくれたエスメラルダを連れて、俺は囚われていた少女たちの元へ向かう。
昨日はかなり怯えていたが、今はどうだろうか。
話せる程度にまで落ち着いていてくれればいいけど。
もし、行き場の無い人がいたら、うちで雇ってもいいかもしれないな、と取らぬ狸の皮算用をしながら、俺は宿の中を歩いていくのだった。




