ワケあり10人目③
「……は?」
先ほどまで自信満々の様子だった大男が、口をポカンと開けて立ち尽くす。
ただの一撃で地面にめり込み、前衛的オブジェのようになった仲間を見て、放心状態だ。
この一撃を繰り出したのは、当然ながらカナエその人である(なお素手の一撃である)。
うん、ちゃんと加減できて偉いぞ。
前までなら原型留めずにミンチのスプラッター状態だったろうからな。
地面にめり込んだ怪しい集団の男は、まだピクピクと痙攣しているので、キチンと生きているのもポイントが高い。
もっとも、心に消えないトラウマを負っているかもしれないが。
「次に地面に埋まりたいヤツはどいつだ? ご希望とあらば、そのまま墓標にしてやるぜ?」
俺がルナジアムを抜剣するのに合わせて、カナエと護衛の兵士たちが臨戦態勢に入る。
次に大男たちが取る行動はと言えば……。
「こんな化け物に勝てるか! 全員散って逃げろ! 1人でもいいから情報を持ち帰れ!」
大男の号令で、20人ほどの集団は散り散りに逃げ出す。
が、黙って逃がすはずもなく、カナエや他の兵士たちによっておよそ半数ほどを捕らえる事に成功。
リーダー格の大男も確保に成功した。
他の散り散りに逃げた者たちも、恐らくはリシア率いる兵士たちに捕らえられる事だろう。
「さて、積み荷を確認させてもらいますかね、っと」
捕らえた大男たちは兵士たちに任せ、俺はカナエを伴って馬車の積み荷を確認すべく幌を開く。
そこには、頑丈な金属の檻に捕らえられ、粗末な貫頭衣に奴隷の首輪を付けられた人々が10人ほど乗せられており、中の人々は種々様々ではあるが、共通して若い少女たちだ。
一様に怯えた様子なのを見るに、どう考えてもロクな目に遭っていないだろう。
恐らくは、違法奴隷。
「……大丈夫。君たちは助かったんだ。安心していい」
俺が剣で檻を斬り開き、無理矢理扉を開けば、少女たちから僅かながら安堵の息使いが漏れる。
「何人か、こっちを手伝ってくれ! 女性の方がいい!」
2人だけで少女たちをどうこうするのは骨が折れるので、兵士たちの中から女性を呼び付け、少女たちを開放していく。
幸いというべきか、少女たちは貫頭衣と奴隷の首輪こそ付けられていたものの、まだ奴隷魔術はかけられておらず、開放する事に問題は無かった。
とはいえ、さすがに少女たちだけで故郷に帰れというのも酷な話。
一旦は俺たちと行動を共にしてもらい、余裕ができたらそれぞれの故郷に帰せるよう取り計らう、という事で話が纏まる。
移動に関しては、彼女たちが乗っていた馬車を改造し、そのまま乗ってもらう。
一般人を保護した事により、サンクリドへ向かう足は遅くなったが、かなり近い所まで来ていた事もあって、サンクリドへの到着そのものは翌日の日暮れ前には間に合った。
「俺たちは一旦教国政庁へ向かう。保護した人たちの事は頼んだ」
「任された」
「おう、行ってこい!」
サンクリドで一番大きな宿を貸し切り、兵士たち100人と保護した少女たち12人、俺たち幹部組の部屋を確保。
留守をカナエとジェーンに預け、俺とエスメラルダ、リシアの3人で教国政庁へ向かう。
3大国から教育を施され、自分たちで教国を運営するようになったからか、街行く人々は以前のような何かに依存しきった様子では無く、信仰という希望を持ちつつも、日々を自分たちの力で生きている。
そんな気概を感じられた。
「ようこそお越し下さいました。リアムルド王国の速達から、来国を心待ちにしておりました。わたくし、ノーマと申します。リベルヤ伯爵。道中、問題は起きませんでしたでしょうか?」
政庁の職員代表と思しき中年の男性—―ノーマさんが、ほぼ就業間際であろう、夜に差し掛かった時間に顔を出したにも関わらず、好意的な笑みでもって出迎えてくれる。
他の職員は帰り支度を始めている者や、既に帰り出している者もいる辺り、現時点では正常に業務が回っているであろう様子が伺えるな。
「問題無く、と言いたい所でしたが、早速問題がありました」
昨日捕らえた違法奴隷を運ぶ怪しい集団、保護した少女たちの事を話すと、ノーマさんは不愉快そうに表情を歪めた。
「なるほど……もしかすると、我が国でも行方不明になっている者がいるかもしれません。明日すぐに照合してみましょう。もしかすると、そうでない可能性もありますが」
こちらの意図を汲み取って、ノーマさんは力強く頷く。
早速明日から動いてくれるなら、俺たちもある程度は動きやすくなるな。
ただ、完全に味方と確定したわけじゃないので、信じすぎるのも良くないかもしれない。
「今日はひとまず、到着の挨拶に留めるつもりだったのですが、さすがにこの件に関してはすぐに共有すべきかと思いましてね」
「ええ、助かります。先立っての元教皇の失策により、武力に関してはお役に立てませんが、可能な限りの便宜は図らせていただきますので、どうか、我が国にお力を貸して下さいませ」
ノーマさんが、深々と頭を下げる。
他力本願にならざるを得ない国力である以上、俺たちに彼が頼み込むのは至極当然なのだが、彼のそれからは、切実さが感じられた。
「そのつもりです。では、本日の所はこれで。また明日来ます」
「はい、お待ちしております」
手短に情報共有と挨拶を済ませ、俺たちは政庁を後にする。
そのまま宿に戻ってからは、長旅の汗を流し、明日に備えておきたい所だ。
しかし、そうは問屋が卸さないわけで。
「まだ教国が信用に足るかわからない。エスメラルダ、明日の打ち合わせが済んだら、諜報部隊と合流して情報の照合をするから準備させておくように。リシア、100人を半分に分けて交代で警備に当ててくれ。こと武力に関しては教国に信頼は置けないからな」
休む前に色々と指示を出してから、明日の朝イチで王国に出す手紙を書いておく。
念のため、無事に教国に着いた事と、違法奴隷商組織に関して進展がある可能性を伝えておく方が、後々の動きがスムーズだろう。
「ハイト、いい所で寝ておきなさい。明日もまだやる事は山積みよ?」
「これを書き上げたらな。心配しなくても30分もしたら汗を流して寝る」
側近という事もあり、俺の睡眠時間についてエスメラルダからお小言が飛んでくるものの、それを躱して手紙を書き進めていく。
彼女自身もこの行程が必要であると理解しているからか、それ以上は何も言わない。
予定通りに、30分程度で手紙を書き終えて封蝋をし、すぐに手紙を出せる状態にしてから旅の汗を流しに行く。
大きい宿だけあってキチンとした浴場が備えられており、しっかりと身体を清める事ができたので、俺は風呂を上がってから程なくして、明日に向けて睡眠を取るのだった。
筆乗りが良くて2回目の更新です。
最近登場人物が増えてきたからか、地の文に入れる情報も多くなってきますね。
あまり面白さを損なわないよう注意しつつ、これからも励みたいと思います。




