ワケあり9人目⑳
「ハイトよ、此度は急な参加にも関わらず、よくぞここまでの結果を出したな」
鍛冶コンテストの後、俺は陛下に呼び出されていつもの執務室へと移動していた。
他の余人からの目線が無くなった所で、陛下が相好を崩す。
「まあ、巡り合わせってヤツですよ。レイネスタを身内に加えてなかったら、もっと適当な作品を出していたでしょうし」
「その辺りもお前の強みであろう。まあ、こちらとしては将来的にサクスが使うのにいい装備が手に入ってありがたいがな」
そういえば、コンテストで優勝したレイネスタの作品は、王家へと献上する事になったのだが、どうやらあの装備一式はサクスさまの物になるらしい。
サイズ調整やら自動修復やら、色々と機能モリモリだし、お偉い方の守りとしてはうってつけだろう。
「今日ここに呼んだのは他でもない。色々と頼みができたのでな」
「年始くらい、少しゆっくりさせて下さいよ。年末は何だかんだ鍛冶コンテストで忙しかったですし」
陛下から呼び出しがかかるという事は、大体が面倒事のお知らせである。
だからこそ、年始くらいはゆっくりさせろと言いたくもなるわけで。
俺と陛下が気安い関係だからこそ、こうしてある程度本音をぶちまけているが、普通はこんな事を言おうものなら色々と大惨事待った無しなのだが。
「別に急ぎというものではないから、そう身構えるな。余とてお前の働きには感謝しておるし、ゆっくりさせてやりたいのも本音だ。だが、お前にしか頼めない事もまたあるのでな」
「まあ、少し休ませてくれるならいいですけど。それで、頼みって何ですか?」
軽くじゃれ合いをしてから本題に入ると、陛下は少し困った表情を浮かべて溜息を吐く。
「お前の所でサクスを鍛えてやってくれんか?」
サクスさまを鍛える……ねえ。
文字通りの意味なら、基本的にはリシアに預けておけば問題無いだろうけど、果たして他の意図があるだろうか?
基本的には気安い関係ではあるものの、全てにおいて気を許しているかと言えば、お互いにそんな事は無いわけで。
だからこそ、言葉の裏を考えてしまっていた。
「……その心は?」
「あやつは今の所、挫折らしい挫折を知らぬ。ひねくれずに真っ直ぐに育ってくれているのは嬉しいが、このまま挫折を知らぬ王になるのは良くない。取返しのつかぬ失敗をする前に、挫折を知ってほしいのだ。サクスは身内びいきを抜きにしても物覚えが良くて要領もいい。が、お前の所であれば、様々な分野でサクスを超える者がたくさんいるであろう?」
陛下の説明を聞いてなるほど、と理解する。
確かにうちは各分野におけるスペシャリストがたくさんいる。
特に仕事の分野においてはシャルが、武芸の分野においてはリシアが主な目標になるだろうか。
「本当にうちでいいんですか? 下手したら自信が粉微塵になって再起不能になりかねないですが」
俺ですら、時折自分がいる意味あるか、と思う時あるし。
特に仕事ぶりでシャルやエスメラルダたちに勝てるとは思えないし、武芸の面では筋力ならカナエやジェーン、レイネスタ辺りには絶対勝てないし、技術に関してもフリスには絶対に勝てない。
総合力ではまだ何とか面目を保てている節はあるが、それでもガチンコ勝負となると勝てるが怪しいメンツも多いんだよな。
「そうなったら、サクスは王の器ではなかったというだけの事だ。別に無理して血縁の者を玉座に置く意味は無いからな。よりよい治世を敷けるのなら、余はいつでも王位を降りるぞ」
暗にお前、王にならないか?
なんて誘われているような気もしたが、さすがに国王なんて面倒な仕事は勘弁してもらいたい。
今でさえ領地運営に右往左往しているというのに。
「そういう事なら。いつ頃からにしますか?」
「そうさな。こちらも護衛の手配などがあるし、娘たちもラウンズに行きたがっておる。2の巡りから世話になるのがちょうどいいかと思うがどうだ?」
これから年明けの休みに入るわけだが、俺は今回の件で新しく生まれた取引に関する交渉や、契約を取り纏めたら領地に戻る。
それから年明け休みで1週間くらいのんびりしてから、普段通りの仕事に入るので、時期としては割とちょうどいいか。
まあ、王女さまたちにプラスでサクスさまもくっついてくると思えば、面倒が一気に省けるとも考えられるし。
「それであれば、こちらとしては何も言う事はありません」
「うむ、それではそのように手配するとしよう。それと、まだ頼みがあってな……」
少し歯切れが悪そうに、陛下は表情を苦々しいものにした。
いつもならこちらに配慮はしても、悪びれる様子は無いというのに。
「珍しいですね。陛下がここで躊躇うの」
「余とてお前を便利に頼りすぎておる自覚はあるのだぞ。便利すぎるお前が悪いと思う部分も多少はあるが」
まあ、陛下の気持ちもわからんでもない。
俺が逆の立場なら、絶対便利だと思うもの。
「できるかどうかは別にして、聞くだけ聞きますよ」
結局の所、俺が無理って言えば陛下も無理強いはしてこないし。
それならば、内容を聞くだけならタダなわけで。
機密に関わる話で、聞いたら協力が確定するようなものは事前に確認してくれるしな。
「……すまんな。もう1つの話というのは、お前の所の鍛冶師に装備を打ってもらいたい。ゆくゆくは全軍の装備を整えたいが、そっちにも事業計画があるであろう。そちらの支障が無い範囲で構わんから、剣、槍、鎧、盾を余裕がある時に打ってもらえると助かる。もちろん、報酬は支払うし、都度精算で構わん。輸送に関しても必要ならこちらで受け持とう」
「とりあえず、うちの鍛冶師に余力を確認してみます。返事はそれからで」
どちらにしても、レイネスタが余裕あるかどうかで話変わってくるしな。
農機具の注文も入ってるし、アーミル侯爵の所から鍛冶師も派遣されてくるから、しばらくは忙しそうだが。
「返事は手紙でも人を寄越すでも構わん。年始というのに、わざわざ呼び出してすまぬな」
「まあ、その辺は持ちつ持たれつという事で。これで用事が済んだのなら、俺は今度こそ領地に戻って年始休みに入ろうと思います」
「ああ、ゆっくりするといい。今の所さほど面倒は起きぬであろう」
今度こそ、用事は済んだようなので、俺は陛下の執務室を辞して、王城から屋敷へと戻った。
屋敷では鍛冶コンテストの慰労会が開かれており、ノウノック夫妻や屋敷の使用人たちで宴会をしている。
適度に宴会にも参加してから、俺は執務室に戻っていくつか手紙を認めていく。
まずはラウンズに向けていつ頃戻るかの手紙。
次に商談に関する話し合いの日程をアンコモ子爵へ知らせる手紙。
最後に、アーミル侯爵への鍛冶師受入に関する手紙。
書き終えたら伯爵家の封蝋をして、使用人に各所に出すよう命じてから、ようやく一息ついたのだった。




