ワケあり9人目⑲
「……以上で、調理器具部門の表彰を終える」
新年の始まりに行われる毎年恒例の行事である鍛冶コンテストだが、今年は大きな波乱を呼んでいた。
ここ10年程度は、殆どの部門をベスプリーム鍛冶工房が占めていたようだが、今の所は優勝した部門が1つも無い。
2位や3位といった順位にはつけているものの、肝心の優勝が無いからか、明らかに焦りを浮かべている貴族や、苛立ちを露わにしている貴族も見受けられる。
そういった貴族たちは、ベスプリーム鍛冶工房に出資したりしているのだろう。
「よもやよもやの快進撃だね、ハイトくん。具体的にうちの若い鍛冶師を受け入れる日程を組もうじゃないか」
「その辺は後で纏めましょう」
そして、誰が優勝を飾っているのかと言えば、我がリベルヤ家のお抱え鍛冶師となったレイネスタだ。
陛下の総評では、概ねターゲットとする客層と値段、品質の全てのバランスがいいという事で、需要と供給と品質のバランスを理解しきった作品を提出したレイネスタの作戦勝ちといった所か。
彼女が提出した部門に関しては全てで優勝を飾っており、残す所は武器防具部門のみとなっている。
そして、その実力のほどを理解したアーミル侯爵が、全力で技術交流をしようと迫ってきているのだが、とりあえずは後で纏めようと突っぱねつつ、最後の発表を待つ。
「それでは、最後に武器防具部門の結果を発表しよう」
最後となる武器防具部門の発表に、会場が沸き立った。
俺は初参加なので知らなかったが、どうやらこの部門が毎年1番盛り上がるらしい。
「まずは特別賞、コロサス鍛冶店!」
特別賞は、ざっくり言うと面白枠の作品だ。
今回特別賞を受賞したコロサス鍛冶店の作品は、振るうと炎や電撃のエフェクトが出る剣で、剣そのものに幻影の魔術がかけられている。
要するに、エフェクトはただのこけおどしなのだが、それはそれで相手の目測を見誤らせたりと、地味ながら実用性もあったりする珍品。
剣そのものの出来は良くて、遊び心のあるいい作品だ、と陛下が締め括れば、会場から割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「続いては佳作、ギルド鍛冶師ブライアン・ロックスミス!」
今まで工房や店の名前だったのに、ここにきて個人名が出てきてビックリ。
しかも、見知った人物だ。
彼の発想と腕は俺も知る所ではあるけど、こうして成果を上げているとちょっと嬉しいな。
佳作という事で、実質の3位である。
「次に、優秀賞、ベスプリーム鍛冶工房!」
優秀賞。
実質の第2位。
そこにベスプリーム鍛冶工房の名前が挙がった。
最優秀賞常連が、ここで呼ばれた事によるざわめきが起こる。
となれば、1位たる最優秀賞は……。
「最後に、最優秀賞、リベルヤ家鍛冶師、レイネスタ!」
よし。
自分で作品を打ったわけでもないのに、俺は己の事のように拳を握ってガッツポーズを取ってしまう。
そういえば、とレイネスタの方を見れば、彼女も俺と同じように、両拳を握ってのガッツポーズを取っていた。
彼女の出品した部門は、これで名実共に全てが優勝を飾ったわけだが、きっと、武器防具部門で優勝を獲る事こそが、家族への仕返しだったに違いない。
「やったな!」
「うん!」
俺とレイネスタは、どちらからともなく、お互いに右拳をぶつけ合い、お互いの健闘を称える。
材料集めとか、コンテスト出品手続きとか、色々とあちこち手を回してたからね。
「おお、レイネスタ! まさか出品作品で優勝を総ナメにするとはな!」
「やったじゃないか! これであのいけ好かない連中の鼻を明かせるってもんだ!!」
会場も沸く中、どうやらノウノック夫妻も見に来ていたようで、おそらくは俺たちを探していたのだろう。
正装に身を包んだ2人がレイネスタと抱き合う様子を見て、家族仲がいいのは良きかな、と小さく頷く。
コンテストへの出品はしていないようだが、きっとレイネスタの晴れ姿を見ようと来てくれたんだろうな。
「こんな結果、認めんぞ!」
湧き上がる会場の中ですらも、黙らせるほどの大声を上げたのは、レイネスタの実の父。
正装に身を包んでいても、独特の風体ですぐに正体に合点がいってしまった。
「あんな役立たずの小娘が打った剣なんぞに、ワシの剣が負けるなど、あるはずがない!」
展示している作品を警護していた兵士を木っ端のように投げ飛ばし、レイネスタの父は自らが打ったであろう剣をむんずと手に取り、鞘から抜き放つ。
当然、このような狼藉を働けば兵士たちが彼を捕縛せんと動いていたが、レイネスタの父が剣を振り抜く方が断然早い。
「ワシの剣が、ワシの作品が、最高だあああああっ!!」
半ば狂気に呑まれたかのように、レイネスタの父が剣を振り抜き、レイネスタの打った剣とぶつかった。
澄んだ金属音がして、それから遅れる事数秒、半ばから折れた剣の片割れが、床へと突き刺さる。
折れたのは、レイネスタの父の打った剣の方だ。
「……は?」
何が起こったのか、理解できない。
そんなレイネスタの父は、呆然としている間に、殺到した兵士たちに取り押さえられ、身柄を拘束されてしまう。
「ベスプリーム鍛冶工房の主よ。お前の剣はいい素材を使い、鍛え上げたものなのだろう。だが、見てくれと値段ばかりに気を取られただけの駄作に、レイネスタ嬢の作品は越えられんよ」
取り押さえられ、床に押し倒されたレイネスタの父を、陛下が冷たい視線で睨む。
まさしく絶対零度の睨みだったが、未だに自分のやった事と現実を理解していないレイネスタの父は、完全に呆けてしまっている。
「そうそう、役人を買収してコンテストの結果を改竄しようとしておったな? 恐らくは、店の方からも不正などの証拠が出るであろう。連れていけ」
陛下に命じられ、兵士たちがレイネスタの父をしょっ引いていく。
何というか、呆気ない幕引きというかなんというか。
ともあれ、ちょっとしたトラブルこそあったものの、鍛冶コンテストは無事に終了し、レイネスタは出品した作品全てで優勝を飾るという、快挙を成し遂げたのだった。
なお、後日談になるが、色々とやんちゃしたツケが回って、鍛冶コンテストから半月も経たないうちに、ベスプリーム鍛冶工房は潰れたそうな。




