ワケあり9人目⑰
「緊張してるのか?」
王家主催の鍛冶コンテストの結果発表日。
陛下が直々に発表を行うためのセレモニーが行われるため、俺は表向きは参列する貴族諸侯、裏向きでは会場の警護担当として、貴族の正装に身を包んで参加している。
傍らには正装としてドレスに身を包んだレイネスタを同伴させているのだが、彼女は無表情で口数も少ない。
「別に……。なんでアタシがこんなパーティに出る必要があるのかって思ってはいるけどね」
いかにもテンションが低いです、とばかりに抑揚の無い声で話すレイネスタは、こういった場に全く興味が無いのだろう。
特に周囲の人物や様子を気にするでもなく、ただただ早く終わらないかなー、という感じ。
「意味は色々あるぞ。仮に優勝した場合、陛下から直接お言葉を貰えるし、何よりも今のレイネスタの待遇を周囲に知らしめる事ができる。家族にいいだろ、って自慢ができるぞ」
「あー、そういうね……。それなら、我慢するかな」
不承不承、といった感じだが、自分がここにいる理由を理解してくれたようだ。
しかしギャップ差がすごいな。
鍛冶やってる時はエネルギーに満ち溢れてて溌剌としているのに、普段はかなりダウナーで、興味が無い事柄に関してはとことん関心を示さない。
とてもマイペースと言えるが、また独特なタイプだ。
「今はどうしても待ち時間だからな……」
「ハイトくん、久しぶりだね」
さて、話が進むまではどうしたものか、と思っていたら、聞き覚えのあるダンディな声が。
声のした方に視線を移せば、手紙のやり取りなんかはしてたけど、顔を突き合わせるのは久しぶりなアーミル侯爵がいた。
カッチリと貴族らしい正装を着こなし、相変わらず軍人とは思えないほど柔和な笑みを浮かべている。
「領地経営は上手くいっているかな?」
「ええ。シャルたちの助けや侯爵の助言もあって、順調に進んでいます。今回は鍛冶コンテストの準備諸々で私だけで王都に来ていまして」
周囲の貴族の目もあるので、普段より心持ち丁寧な言葉遣いを心掛けつつ、アーミル侯爵と話す。
こうして公式の場で、アーミル侯爵家と友好関係にあるとアピールできるのは、まだまだ新興貴族なリベルヤ家にとって大事な後ろ盾だ。
向こうもその辺を織り込み済みで声をかけてきているだろうし、ありがたい限りである。
「そうか。順調なら良かったよ。娘からも毎日を楽しく過ごしていると手紙が来ていたし、夫婦仲も問題無さそうだね」
「おかげさまで。リシアはとても良くしてくれていますし、私も彼女の頑張りに報いてあげられていればいいですが」
「ところで、隣の彼女は?」
アーミル侯爵と和やかに会話をしていたら、急に話題の矛先がレイネスタへ向く。
まあ、見た事無い女の子を連れてたら、気にはなるよな。
「うちのお抱え鍛冶師のレイネスタです。今回は急に鍛冶コンテストの作品を依頼しましたが、かなりのものを作ってくれました。優勝すら狙えると思うくらいには、いいものでしたよ」
問われたからには答えないわけにもいかないので、アーミル侯爵にレイネスタを紹介してみれば、当の本人は小さく会釈をしたっきり、興味すら示さない。
貴族への応対としてはとてもマズイのだが、そんな彼女を見ても、侯爵は苦笑いを零すのみ。
「それは素晴らしい。うちの領も武具に関してはかなり高いレベルだと自負しているけれど、もしもハイトくんの所の作品が優勝となったら、うちの領の若い鍛冶師を弟子入りさせてもらいたいね。お互いに技術交流をするのも、今後の質を高め合う一助になるだろうし」
「その辺りは結果が出たら詳しく詰めましょうか。そこに関しては、あくまで私が優勝も取れると判断しただけに過ぎません」
レイネスタの態度について、触れないでいてくれた事に内心で感謝しつつ、侯爵と語らっていると、会場がにわかに騒がしくなってきたので、そろそろか、と意識を切り替える。
「それではこれより、鍛冶コンテストの結果発表を行います。司会は私、王太子であるサクス・リアムルドが勤めますので、どうぞよろしくお願いします」
拡声の魔術でも使ったのだろうか。
会場内にサクスさまの声が響き渡る。
というか、王太子って、いつの間に跡継ぎが内定したんだ?
まあ、前に会った時は次男の方は特に王位を継ぐ気は無いって言ってたし、三男も騎士団志望、他の王女様方も王位には興味無さそうだったもんな。
そうなれば、血筋的にサクスさまが自動的に後継になるか。
陛下は直系の子でも、才能が無かったら後は継がせないって豪語してたから、仮に暫定だとしても王太子として認めたのなら、サクスさまに最低限の才能はあるっぽい。
まあ、彼が正式に王位に就く頃には、俺も成人を終えて結婚も済ませているだろうし、もしかしたら子供もいるかも。
「まずは500点を越えるコンテストへの応募、誠にありがとうございます。王国の発展のため、職人の皆さんが切磋琢磨して技術を高めていただけるのは喜びの極みです。たくさんの応募の中から、この場には最終選考に残った5点を各部門ごとに展示させていただきますので、後ほど陛下が発表される結果を楽しみにお待ち下さいませ。それでは、お飲み物と軽食を提供いたしますので、コンテスト結果の予想をしながらしばしのご歓談をお楽しみ下さい」
サクスさまの采配により、会場内にコンテストの最終選考に残った作品たちが次々と運び込まれ、部門ごとに纏まった場所へと展示されていく。
その中には、俺の見知ったレイネスタの作品もあり、彼女の出した作品はその全てが最終選考に残っていた。
やはり、俺の目に狂いは無かった、と自画自賛しつつ、彼女へと視線を移せば、先ほどまで、まるでこの場に興味など無い、という表情をしていたというのに、今は少しだけ笑みを浮かべている。
ちなみに、レイネスタの作品と同じく、ライバルであるベスプリーム鍛冶公房の作品も同様に各部門の最終選考に残っており、さすがは最高級ブランドとして名を馳せているいるだけはあるなと感心してしまう。
とはいえ、しばらくマトモな鍛冶作業をしていなかったのにも関わらず、持ち前の才能とセンスだけでぶっつけ本番に臨んだレイネスタの作品からすれば、1段か2段くらい落ちるような、そんな感じもしないでもない。
「良ければ、ハイトくんの所の小さな鍛冶師が打った作品を教えてくれるかい? 僕は鍛冶作品に目が無くてね」
ちょっとお茶目を演出するようにウィンクをしながら、アーミル侯爵は一緒に展示品を見て回ろう、と提案してくる。
武家である侯爵が鍛冶作品に目が無い、というのはわかりやすい趣味だなと思う。
けれど、侯爵と一緒に展示品を見て回れるのなら、嫌みったらしい貴族から絡まれる事も少なそうだ。
俺も近くで見比べてみたいという気持ちがあったので、快く了承し、侯爵とレイネスタを連れて展示品の確認に向かうのだった。




